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「大丈夫ですよ、トモキ君。死刑なんてそんなに痛くも辛くもないものですよ。僕も、昔はちょくちょく処刑されたものですが、だいたいはすぐ終わりますからね」
なんか目の前の頭おかしいモンスターがまた狂った話し始めてる件。帰れって言っただろうがよ。
「さくっと終わってお手軽なのは、ギロチンと絞首刑ですね。トモキ君は自首して捕まったわけですし、陛下もそこのところは考えて、きっとこの二つのどちらかにしてくれるはずですよ。間違っても八つ裂き刑とか石打ち刑とか、野蛮な処刑にはならないでしょう。陛下は常に聖なるオーラをまとっていて、一見してとても恐ろしいお方ですけど、実はすごくおやさしいお方ですからね。あ、処刑方法と言えば、体中の穴という穴に肉食系の蟲をつっこまれて体の中から食い破られるってものがありまして、これはさすがにけっこうきつかったですね。僕、呪術の研究で痛いのは慣れてるんですけど、蟲が体の内側で動く感じがどうもこそばゆくて、変な声出ちゃったんです。処刑されてる最中なのに、それはちょっと恥ずかしいですよね。あと、恥ずかしいと言えば、
「も、もういいから!」
狂った話を延々口から垂れ流し続けるのは、やめて!
「え? 内臓ポロリって恥ずかしくないですか、トモキ君? 普段人にあまり見せないようなところじゃないですか? あ、もしかして、腸とかじゃなくて、眼球とか脳とかがポロリしちゃうと恥ずかしいほうなんですか?」
「いいから、ポロリから離れろ!」
だいたい、そのポロリは恥ずかしいほうのポロリじゃねえだろ!
「あ、そうだ、忘れるところでした。僕、トモキ君あてに、学院のみんなのお手紙を預かってたんですよ」
「え、手紙?」
「はい。みんな、トモキ君のことを心配しているようでしたよ」
と、またのん気な感じで言うと、リュクサンドールは制服の懐から手紙の束をどさっと出した。それはすでに警察官のチェック済みなのだろう、すぐに特殊アクリル板の隙間から俺に渡された。
俺はすぐにそれらの差出人をチェックした。ルーシア、フィーオ、ヤギ、その他大勢……残念ながらユリィの手紙はどこにもなかった。今は人質にされているから、俺への手紙も書けない状態なんだろうか。
「トモキ君も、ちゃんと読んだらお返事を書いてあげましょうね。もう二度とみなさんには会えないんですからねー」
「お、おう」
にっこり笑いながらまたきついこと言いやがる。デリカシーゼロかよ、こいつ。
「あと、冥界の河の渡し守にカロンさんってお方がいるんですけど、船に乗るとき、お金がちょっとかかるんで、死ぬ前に用意しておいてくださいね」
「え、何そのシステム」
「あ、タンス預金とか銀行の口座とかから勝手に料金が徴収される仕組みなんで、お金はどこかに持ってるだけでいいですよ」
「なんか適当だな、おい?」
「あと、僕はけっこうよく死ぬんで、ツケがたまってるんです。トモキ君、死んでカロンさんに会ったら、ぜひ僕のぶんの料金も払っておいてくださいね」
「え、なんで」
「お願いしますよー」
リュクサンドールはそう言い残すと、そのまま面会室を出て行った。
留置場に戻った俺は、手渡された手紙を読んでみた。まずはルーシア。
『ごきげんよう、トモキ・ニノミヤ。いえ、ハリセン仮面と呼ぶべきでしょうか。この手紙を書いている私が今、どのようなお気持ちでいるか、あなたには想像できるでしょうか。そう、あなたのような大罪人が、これから陛下による厳正な裁きによって刑に処されることを考えると、私は心の底から清々しい気持ちに――』
「クソがッ!」
ただ俺のこと煽ってるだけじゃねえか、あのクソアマ! そりゃ、確かにあいつは俺を恨んでもしょうがない立場だけどさあ! これから死刑になるトモキ君に、もっと他に投げかけてあげる言葉あるでしょうよ!
続いて、フィーオのものを読んでみたが、
『こんにちは、トモキ君? 君のことよく覚えてないけど、これから死刑になるんだよね? かわいそうだね。じゃあねー』
としか、書かれてなかった……。あのアホ、記憶が戻らないにしても、なぜこんな雑な手紙を書いた! あいつのために俺はあの現場検証で、死ぬほどの全力で疾走してやったというのに。マジできつかったんだぞ、あれ。
まあいい、次はヤギ……の前に、なんか知らんけど、ザックとかいうやつの手紙もあった。誰だっけ、こいつ?
『トモキ・ニノミヤ! まさかお前があのハリセン仮面だったとはな! さすが、俺のライバルだ! おまえはなんせ、あの勇者岩を素手で砕いた男だからな。レオの魔法のサポートがあったとはいえ、あれを砕ける男はそうはいない。この俺ですら不可能だったんだからな。まさにお前は男の中の男、伝説の男だ! ハリセン仮面としてお前が生きた証は、永遠に俺たちの胸に輝き続けるだろう!』
これもなかなか頭が悪そうな文章だ。打ち切り漫画の最後のページのアオリかよ。つか、お前が勇者岩を壊そうとしてたのは、俺に対抗意識を燃やしてのことだったんかい。こじらせすぎだろう。
まあ、これも忘れよう。どうせよく知らん隣のクラスのやつだし。本命のヤギいこ、ヤギ。
『我が友、トモキ・ニノミヤ。お前はこの俺からの手紙をいったいどんな気持ちで読んでいるのだろうか。すでに刑はほぼ確定しているが、おそらくお前なら最後の最後まであがくのだろう。往生際が悪いと言えばそうだが、それはお前の長所でもあると俺は思う。そして、俺は信じている。お前が、最後の最期の瞬間まで折れない男だと。未来は、決して一つではない。お前はあの伝説の男だ。どんな深い暗がりの中でも、お前ならばきっと、一筋の救いの光を見出すことができるだろう――』
「おおお!」
さすがイケメン! 俺のこと、こんなにも熱い言葉で励ましてくれるとは!
しかし、そのあとの文章をよく読むと……。、
『つまり、死は永遠の終わりではないのだ。お前は十五年前に一度死に、トモキ・ニノミヤという男として生まれ変わり、俺たちと出会った。ならば、この後トモキ・ニノミヤという男が果てたとしても、その先に、何もないわけではないだろう。お前の犯した罪は、陛下からの断罪によって清められるだろう。お前が死刑となり、また再びこの世に生まれ変わった時、お前とまためぐり会えることを願っている』
「ちょ……なにこれ!」
死刑になるのはあきらめて受け入れて、転生する未来を信じろだと! それが救いの光って言いたいのかよ、バカにしやがってこんちくしょう!
だが、そこで俺ははっと気づいた。
待てよ……ほんとに死ぬとしたら、そういう考えも悪くないかも……? 実際、転生っていうシステムはこの世界にあるわけだし? そのせいで、俺は二週目プレイさせられてるわけだし? だったら……三週目だってあるんじゃない? あってもいいんじゃない?
「そうか! 死刑になっても、もう一回転生して、ユリィに会いに行けばいいんだ!」
なんという、目からうろこの発想! ユリィはまだ十五歳だ。ここで俺が死んで生まれ変わったとしても十五歳差! うん、ギリ行ける! ギリ逝ける!
しかし、問題は転生した後のスペックだ。また勇者アルドレイの強さをそのまま引き継いでたら、めんどくさいことになりそうだ。俺、人として軽くブレーキが壊れているみたいだし。
「神様お願いします。次、生まれ変わるなら、俺の能力値は平均値でお願いします!」
あと、顔はもうちょっとよくしてほしいな。頭もいいほうがいいな。手足もすらっとして長いほうがいいな。イケメンでもワキガとかはいやだな……。とりあえず、この世界のどこかにいらっしゃるであろう転生の神様向けに必死にリクエストを考えた。
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