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教室に戻った俺は、授業中ひたすら悶々とし続けることになった。
ユリィに全部話して、一緒に国外に逃亡しないと、俺の未来はない。それはわかる。わかるのだが……ユリィがあんなゲスの極み乙女エルフの提案に素直に賛成するとは到底思えない。むしろ、そんな話をした俺のこと軽蔑するかもしれない。そんなのは絶対にいやだ!
ただ、そういうふうに考えているうちに、俺はふと気づいた。そうだ、重要証拠品のネムを捨ててしまえば、俺がハリセン仮面であるという証明は不可能になるじゃないか。確か、ネムを警察に調べられたら終わるって話だったし! おお、我ながらナイスアイデア!
というわけで、俺はその授業のあとの休み時間に、
「お前、俺がどういう状態かわかってるよな? だから、しばらくは俺のところに帰ってくるなよ? ほとぼりが冷めるまででいいからさ」
と、制服の左腕の袖の下のゴミ魔剣に言い、それを腕から外して、学院の窓から外に投げた。ものすごい勢いで。大空のかなたにぶっ飛ばした!
よし、これで、あのクソエルフの話に乗る理由がなくなったな! 証拠はもう俺の手元にはないわけだからな! ゴミ魔剣のやつも、さすがに今回ばかりは俺のもとに帰ってこないだろう。そうに決まっている。あれはきっと、空気が読める魔剣様のはずだから……と、そう思ったわけなのだが。
その休み時間が終わって、さらにそのあとの授業も終わったところで、学院の用務員さんが俺の名前入りのフォークを拾ったとかで、教室に届けに来たわけだった……。
「これ、君のだろう? 学院のすぐ外に落ちていたよ」
「ど、どうもありがとうございます……」
と、手渡された俺の名前入りのフォークとは、もちろんネム以外になかった。くそう! くそうくそう! なんでこいつ、また俺のところに帰ってくるんだよ! 意味わかんねえ! 警察に押収されて調べられてもいいのかよ!
「お前、何考えてんだよ! お前が俺の手元にあっちゃまずいだろうがよ!」
すぐに人気のない廊下の隅に行き、受け取ったばかりのそのフォークに向かって怒鳴った。
すると、
『ノンノン。問題はすでに、ワタシがマスターの手元にあるかどうか、ではなくなっているわけデスヨ?』
とかなんとか、ふざけた返事が返ってきた。
「何が言いたいんだよ、お前?」
『例えワタシがマスターの手から離れようとも、マスターがゾッコンラブしている娘には、ワタシの存在やら名前やらは知られてますよネー? あと、クラス委員長サンにもネー』
「それが何だよ?」
『だからあ、あの小賢しいエルフの娘の手にあったロザンヌ側の捜査情報がドノヴォンに流れた時点で、マスターだけではなく、マスターの身近な人たちも、ドノヴォンの警察に聴取されちまうんですヨ? さてさて? マスターが持つ魔剣について警察に尋ねられた時、二人の娘っ子はそれぞれなんて答えるでしょうかネー?』
「え、それは……」
警察にネムについて尋ねられたら、ユリィはきっと何もかも正直に話すに決まっている。そういう性格だから! 俺をかばうために、ウソをつけるようなやつじゃない……。
それに、俺が謎の魔剣を持っていることはルーシアにはすでに知られていて、さらにいままで何度も疑われた。ここでネムとおさらばしても、あいつの記憶の中の、俺が魔剣を持っていたという事実は消せないんだ。逆に、なんで急にそれを手放したのか、ネチネチ聞いてくる可能性もある。
「そ、そうだ! ルーシアをおどして従わせよう! リュクサンドールが好きなのみんなにバラすぞ、とか言って!」
『証拠あるんですかネー、それ?』
「う」
『というか、あのクソエルフに再会した直後から、マスターの思考、ただのドクズ犯罪者になってませんかネ? まー、実際そうなんですけどネー』
「うるせえっ!」
俺はフォークを思いっきり床にたたきつけた。それはぐにゃっと曲がったが、すぐに元の形に戻った。形状記憶フォークかよ。
『マスター、安心しなヨ? ワタシは魔科捜研とかいう雑なネーミングの組織にデータぶっこ抜かれるほど、やわなセキュリティーじゃねーデスヨ?』
「ほ、本当か? 信じていいのか?」
『イエッス。我がサイバー要塞は今日も明日も堅牢デッス!』
「そうか……じゃあ、仮にお前を押収されても、俺がハリセン仮面であるという証拠にはならないな?」
『ワタシはならないですが、二人の娘への取り調べがどうですかネー』
「うう……」
確かに、ネムそのものをどうにかするより、解決がめんどくさそうだ。特にルーシア。
『マスター、もう何もかもあきらめて、自首しなヨ?』
「お前までそんなこと言うのかよ!」
『アッハ。話を最後までお聞きヨ? よく考えてみればわかるデショ? あの小賢しいエルフの娘は、本当にマスターと懸賞金を山分けするつもりなんですかネー?』
「え……いや、そういう話だっただろ」
『捕まったマスターの脱獄をサポートしても、あのクソエルフにとっては一ゴンスの得にもならないですよネ? むしろ懸賞金の取り分が減りますよネ? だったら――』
「そうか! あいつなら、俺を見殺しにして、懸賞金を独り占めしようとしてもおかしくない!」
いや、むしろ、それしか考えられない。そして、その計画をスムーズに実行するために、俺にあんなことを言って油断させたとしか思えない!
「く……あぶなかった! あやうく騙されるところだった!」
考えてみれば、金を手に入れたら国外に逃亡して整形してそれで終わりなんて、虫のいい話があるはずないのだ。あいつはただ、俺をダシに、大金を手に入れることしか考えてなかったんだから。
「ネム、お前はなんていいやつなんだ! あのクソの口車にまんまと乗せられそうになっていた俺の目を覚まさせてくれるなんて!」
俺は落ちているフォークの前で平謝りした。
「賢明なお前ならきっとわかるだろう。教えてくれ、俺はいったいどうすればいい?」
『だからぁ、言ったじゃないですか。自首しなヨ?って』
「い、いや、自首したら俺死刑になるし――」
『さっきは簡単に脱獄できるって話だったじゃないですかネー?』
「ああ、そういえば」
そのへんは、そんなに心配しなくてもいいんだっけ。
『いいですかい、もうマスターがハリセン仮面だとバレちまうのは時間の問題。しかし、それはまだ先でもあるわけで、今のこの段階で、あのクソエルフは、手持ちの情報をドノヴォンに流すことで、ハリセン仮面の正体がマスターであると教えて、懸賞金をゲットできる状態にあるわけですヨ? そこはご理解?』
「ああ……」
『なので、あのクソエルフの手持ちの情報を無価値にするために、あえてマスターのほうから自首するわけですヨ? そうすれば、あのクソは一ゴンスも手に入れられずに終わるッ!』
「お……おおおっ!」
まさに逆転の発想! あのクソを出し抜くために、そんなやり方があるなんて!
『さらに、これにはうれしい効果もありますヨ? マスターが自ら罪を認めて自首することで、マスターがゾッコンラブしている娘も、マスターの罪を許してくれちゃうかもしれない?』
「そ、そうだな! ユリィはやさしいもんな! ちゃんと反省してるってアピールしたら、俺を嫌いにならないよな!」
おおおおっ! なんというパーフェクトな名案! 神サポートつきかよ!
『捕まった後は、隙を見て脱獄して、やっぱり死刑になるのは怖いから一緒に国外に逃げヨ?とか、涙ながらにあの娘に言えば、それで万事解決デショ? なんせ、あの娘、ちょろいですからネー』
「そうだな! ユリィはちょろいから、そのやり方で問題ないな!」
俺はようやくベストな解決法を見つけた気がした。地獄でクモの糸をつかんだような気持だった。そうだ、あんなクソの話に耳を貸すなんて、どうかしていた。
そう、俺はこれから、俺の未来をつかむため、そしてあのクソの腐った思惑を阻止するためにあえて自首する! あえてッ!
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