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それから、俺たちはまた二人で街を歩いて回ったが、情けなさマックスの男の姿を目の当たりにした後だったので、俺はすっかり気が抜けたようになり、ユリィと二人きりでももう緊張することはなかった。そのまま、リラックスして二人で楽しく街を見て回った。なんだか、レーナの街で一緒にザドリーの情報収集して回ったときに戻ったみたいだった。ユリィは何かにつけよく笑ったし、俺もそんなかわいらしい笑顔を見ていると自然と顔がゆるんだ。午後になるとまた腹が減ったので、一緒にスイーツを食べた。ちょっとおしゃれな店だ。俺たちも含めて、客はほぼカップルしかいなかった。うふふ、他人から見れば、俺たちどう見ても恋人同士……。
やがて、そんなこんなで日が暮れ、俺たちはそれぞれの寄宿舎に戻った。なんて楽しい一日だったんだろう! ルンルン気分(やや死語)で部屋に戻ったが、その途中、一人の男子生徒が駆け寄ってきて、俺にフォークを手渡してきた。
「これ、寄宿舎の入り口に落ちてたんだけど、トモキ君のでしょう? ほら、ここに名前が刻印されてるし」
と、男子生徒はフォークの裏を見せながら言った。見ると、なるほど、そこに俺の名前が刻印されている。まあ、どう考えても、あのレストランのクソ店主に押し付けて放流したブツなんだが。またしょうこりもなく俺の手元に戻ってきやがって。しかも今度は俺の名前入りかよ。クソが。
「ああ、俺のみたいだな。わざわざ届けてくれてありがとな」
ここでスルーしても、また同じことの繰り返しだ。「いいえ」を選んでも、「はい」を選択するまで永遠に選択肢がループするロープレみたいな。仕方なくそれを受け取った。男子生徒はすぐに俺の前から去って行った。
と、直後、
『今日はしっぽりお楽しみでしたかネー? マスター?』
ゴミ魔剣の声が頭の中に響いた。
「ああ、てめえがいなくて、マジで気分が爽快だったぜ」
『アッハー? そうかい、爽快、総会屋? それはともかく、あんた、忘れてないでしょうネ?』
「何をだよ」
『幸せーってなんだっけ、なんだっけ♪ 呪われ上手の勇者サン、勇者サン♪』
「う……」
そういえば、俺氏、そういう呪いにかかってましたね。
『幸せゲージをためすぎると、もれなく呪い発動なんですが、あんた今日一日で相当やべー領域に踏み込んでるみてえなんですが?』
「う、うっせーな! 別にたいしたことしてねえよ!」
『まあ、たいしたことしてたら、今頃派手にバッドエンドってるでしょうしネー』
「く……」
やはり俺は、この忌まわしい呪いをなんとかしないと、ユリィとはこれ以上先のステージに進めないのか! くそう! あんなにかわいいのに!
「わ、わかってるよ! 呪いを解くまでは、そのう、気を付けるから!」
『ほんま、頼んま。ワタシ、マスター命なんで。マジで!』
相変わらずうっとうしい限りのセリフだ。まあ、警告してくれるぶんにはいいが。
やがて翌日になり、学院の授業は予定通り再開されることになった。俺もヤギもそのまま登校した。モンスターに荒らされた場所は立ち入り禁止になっていたが、学院のそれ以外の場所は平常通りのようだった。授業も今まで通りだ。
やがて昼休みになったところで、俺は唐突にルーシアに声を掛けられた。
「理事長があなたをお呼びです。至急、理事長室に行ってください」
エリーが? 俺に何の用だろう? すぐに言われた通り、理事長室に行ってみた。一人で。
「おい、いったい何の用だよ」
理事長室に入るなり、聞いてみた。エリーは前と同じく高そうな椅子に座っていたが、室内には他には誰もいなかった。
「まあ、そうだね。いくつか用件はあるんだけど、まずはあんたに、おとといのことで礼を言っておこうか」
「おとといのこと? ああ、あのザコどもを片付けたことか」
「あんたにはクソザコでも、ありゃあ、わりと面倒なモンスターどもだったんだよ。あたしや他の教師が総出で相手して、生徒たちに被害が出なかったって保証はなかったろうね。あんたがたまたまあそこにいて、助かったよ」
「お、そうか! 俺様、マジ大活躍だったもんなー。ハハ」
こういうふうにまっすぐに礼を言われると、気持ちよくなっちゃう俺だった。やっぱ、俺ってば、生まれながらの勇者気質っていうか、ナチュラルに人助けしちゃう体質だからなあ。ウフフ。
「この件に関しては、陛下からも直々にお話があるそうだよ」
「陛下? 女帝様のことか?」
「ああ、あんたたちに直接お会いして、感謝のお気持ちをお伝えしたいそうだ。うちは国立の学院だしね」
「あんた……たち?」
「あんたと同じ部屋のヤギ助とかも呼ばれてるからね。詳しい話はあとでそいつに聞くといい」
「ヤギ助て」
言い方ババくせーな、おい! つか、エリーもレオがヤギだって知ってるのか。まあ、理事長だし、魔法耐性もそれなりに高いはずだから当然か。
「なるほど、話はわかったぜ。後でレオに聞いてみるわ。じゃあな」
と、俺がそのまま理事長室を出ようとすると、
「待ちな! さっき言っただろ、あんたにはいくつか用件があると。あたしの話はまだ終わっちゃいないよ!」
エリーが何やら強い声音でそんな俺を呼び止めた。
「なんだよ、まだ何かあるのかよ」
「……最近ずっと生徒たちが噂してるんだがね」
「噂?」
「あんたがハリセン仮面じゃないかって」
「う……」
そ、その話かよ!
「昨日、警察の連中にもそのことでだいぶ細かく聞かれたよ。まあ、実際、あたしは何も知らないし、そう答えるしかないんだがね。ただ、あたしなりに色々事件のことを調べてみると、どう考えても、ハリセン仮面の正体は、今あたしの目の前にいるクソ勇者以外になさそうなんだよ」
「ちょ、おま……なにを根拠に――」
「あんた、ハリセン仮面なんだろ? 正直に言いなよ」
エリーは目をギラリと鋭く光らせながら、俺に尋ねてきた。
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