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 フィーオの背中に乗るのはこれで二回目だが、前よりはずっと移動速度は速く感じられた。まっすぐに上空の敵に向かって飛翔していく。当然ノーガードだ。こちらの接近に気づいた敵が、あわてたようにホバリング飛行をやめ、次々とこっちに突っ込んでくる。


 まあ、これぐらいの動きは想定内か――。


 俺はすぐに弓をつがえ、前方から迫ってくるモンスターどもに向かって矢を放った。普通、モンスターたちに弓で射撃攻撃をしかけるときは、当たりやすい胴体を狙うほうが確実性が高いが、今は敵の数が多いうえに、矢の残数も限られている。なので、そのままドラグーン流鏑馬スタイルで、敵の急所と思しき頭や目を狙い、一発で撃墜させていくほかなかった。


「すごーい! トモちん、アタイよりよっぽど射撃うまーい!」


 フィーオは俺の射撃の腕前に感心したようだった。


「言ったろ、一通り武器は使えるようにしてるって」


 そう、アルドレイ時代の記憶を思い起こせば、あれはまだ冒険者になってまだ間もないころ。行きつけの酒場の店員がすごくかわいい女の子で、ある日、その子がこんなことを友達と話しているのを聞いたんだ。「あたしー、彼氏にするなら断然弓使いかなー。だって、射撃うまいとか、超かっこいいじゃん!」俺はその日から、山にこもり、ひたすら弓の修行にあけくれた。二か月ぐらい猛特訓した! そして、完璧に射撃をマスターし、山を降りてその酒場に行ったわけだったが、その時にはすでに彼女は見知らぬ男のものになっていた……って、今この回想いる? 悲しくなるだけじゃないの、ちくしょう!


「フィーオ、油断するな。ただこっちに突っ込んでくるだけの敵なら俺が弓で落とせるが、魔法の遠距離攻撃だとそうはいかねえ」

「わかってるよー。なんかあったらすぐ逃げる!」

「ああ。お前は自分の身を守ることだけに専念しろ。お前がどんなにでたらめに飛行しようが、俺ならここで存分に戦えるからな!」


 と、叫ぶと、俺はさらに前方に向けて矢を二発放った。最初の一本は手前の鳥系モンスターの片目をぶち抜き、もう一本は、その鳥系モンスターが頭を下げた直後にその頭上すれすれを突き進んで、奥にいた、何か魔法の詠唱を始めていた悪魔系モンスターの額に突き刺さった。ふう、言ってるそばから魔法攻撃かよ。あぶねーなあ、もう。俺はともかくフィーオが食らったらアウトじゃねえか。確か、竜人族ドラゴニュートは魔法耐性ゼロだしな。だから、ドラグーンウィッチ部隊に投入されるようなやつは、装備とバフ魔法でバキバキに魔法防御力上げておくって話だし。


「とりあえず、魔法使えそうなやつは、優先的に仕留めるか」


 周囲を一瞥し、それっぽい雰囲気のやつに向けて、次々と射撃した。いずれも一発で撃墜することができた。


 ただ、そのぶん、近くにいる近接戦闘系のモンスターの処理が遅れ、俺たちはいつのまにやらけっこうな数の敵に囲まれることになった。筋肉モリモリの堕天使とか、ウィングセントールとか、いずれもパワー系だ。


「はっはっは! この近距離から一度に襲われれば、貴様とて弓では反撃できまい!」

「弓の使い手は接近戦には弱いはずだからな!」


 え、そうだっけ? こいつらほんのりFEとかゲーム系の思考入ってない? 俺ぐらい極めちゃうと、弓でも近接攻撃、余裕でできるんですけど?(矢で直接刺すとかな!)


「我らを残したのが運の尽きだな、死ね!」


 と、俺が何か反論する間もなく、やつらは予告通りいっせいにこっちに向かってきた!


「まー、せっかくだし、空気読んでやるか」


 俺は直後、弓を口にくわえて手から放し、制服の懐から十手ことゴミ魔剣を取り出した。


「ふぇひゅ! ひゃにふぁ、ひゃがいひゅきにひゃふぁれ!(ネム、何か長い武器に変われ!)」


 まあ、当然のようにまともに発声できなかったわけだが、ゴミ魔剣もそれなりに空気が読めるやつだった。すぐに自身の形を十手から違う、長い武器に変えた。


 見るとそれは――宣伝用のノボリだった。そう、店の前によく置いてあるようなやつだ。旗には「本日出血大サービス」と書いてある……。


「ひゃぜ、ほまへは、ふぉともにゃひゅきにならにゃいんふぁ!(なぜ、お前はまともな武器にならないんだ!)」


 しかしこの状況で何か文句を言っているヒマはなかった。リーチが伸びただけでも幸いだった。俺はそのままパチンコ屋の販促用のものと思しきノボリを握りしめ、近づいてくるモンスターどもに力いっぱい振り下ろした!


「ギャアアッ!」


 ノボリとはいえ、やはりネムが変化したものだけに、強度も攻撃力も申し分なかった。俺のノボリ攻撃を受け、モンスターたちは次々と「出血大サービス」で息絶え、下に落ちていく。当然、ノボリの旗にも敵の返り血がべっとりついて、マジで出血大サービスだ……って、なんでさっきから戦い方がいちいちバカなの、俺! こんなところ見られたら、また下のギャラリー達にハリセン仮面呼ばわりされちゃうじゃん!


 と、俺が下のほうをちらっと見た、その瞬間だった――、


 ドーンッ!


 と、閃光と共に轟音が響き、俺たちの頭上から極太の雷が落ちてきた!


「きゃあああっ!」


 直後、フィーオは悲鳴を上げ、下に落ち始めた!


「ちょ、これって、まさか敵の攻撃魔法――」


 まずい! どこかに敵の術師が残っていやがったのか! 俺はノーダメだが、フィーオは今ので相当ダメージを食らったようだ! このままでは墜落しちまう!


「フィーオ! しっかりしろ!」

「…………」


 あわてて背中から呼び掛けたが、返事はなかった。

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