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と、そのとき、周囲の空気が不穏な振動を帯びているのに気づいた。はっとして、上を見ると、ちょうど頭上から無数のトゲのようなものが降り注いでくるところだった!
やべえ、敵の攻撃魔法だ!
「お前ら、伏せろ!」
あわてて近くの生徒たちに怒鳴った。俺はともかく、このままではこいつら全滅だ!
だが、直後、俺たちの周りから強い風が吹き上げてきて、そのトゲの軌道を大きく横にそらした。おかげで、それらは生徒たちの頭上に落ちることはなかった。
これは風の防御魔法? そうか、あいつが――と、心当たりのあるほうをうかがうと、案の定ルーシアが何か風魔法を使っているようだった。毒で青い顔をしながらも、頭上に向かって手をかざし、何か詠唱し続けている。
「おお、さすがクラス委員長様だな!」
俺は感心した――が、直後、
「う……」
毒で相当つらいのだろう、ルーシアはその場に片膝をついて倒れてしまった。
「ルーシア君、大丈夫ですか!」
役立たずの教師がそっちに駆け寄り、
「ああ、なんということでしょう! クラス委員長の優秀なルーシア君が倒れてしまったら、もう僕たちはおしまいです!」
なんかめっちゃ他力本願に絶望し始めた。ぴんぴんしているお前は何もする気がないのかよ! つか、確かお前、この状況でできること一つあるだろ……。
と、俺が思っていると、
「せ、先生、物理障壁を使ってください……」
ルーシアが俺の考えをそのまま口にした。そうそう、これこれ。
「あ、そういえば、僕使えましたね、それ!」
間抜けレジェンドはようやく自分の能力を思い出したようだった。おせーよ。
「正直、昼間はほとんど使ったことなくて自信がないのですが、やってみますね!」
間抜けは先ほどのルーシアと同様に手を頭上にかざし、何か気合を入れたようだった。一瞬、うっすらとそこにATフィールドのような光る壁が浮き上がるのが見えた。
直後、敵の攻撃魔法によってトゲがそこに落ちてきた。そして、それらはすべて、間抜けが気合で出したATフィールドこと、物理障壁によって弾かれ、防がれた!
「おお、やるじゃねえか!」
それは初めてリュクサンドールという男が役に立った瞬間だった。
「はあ、無事に出せてよかったです。夜だと自動で出るんですけどね、昼はやっぱりきついっていうか、太陽の光もあれだし……う」
と、そこで頭上から降り注いでくる陽光の存在に今更ながら気づいて、苦痛を感じたようだった。こっちもおせーよ。
「先生、がんばって!」
「太陽なんかに負けないで!」
「私たちをバリアで守れるのは今は先生だけだから! お願い!」
生徒たちがリュクサンドールの周りに集まり、必死に励ましはじめた。かつてないほど、教師として頼られているようだ。
「い、いや、あのう……そんなキラキラした目で僕を見ないでください……」
おそらくは生徒たちからのこういう視線に慣れてないのだろう。リュクサンドールは気恥ずかしそうにそわそわしはじめた。
「そ、そんな目で見つめられると、僕はなんだか、気持ちがすごく落ち着かなくなってしまいます! 体から力が抜けて、せっかく出せた物理障壁も消えちゃいそうです!」
「え」
「とにかく、普段通りに、僕に対しては残念な生き物を見るような感じで頼みます! お願いします! 普段通りに!」
「は、はあ……?」
生徒たちは戸惑いながらも、さすがに物理障壁が消えると言われては、従うしかないようだった。ただ、この残念な生き物をどういう目で見ればいいのかみんなわからないようで、一様に無言でうつむくだけだった。そう、全員、リュクサンドールの近くに集まって、下を向いて無言で……なんだこのお通夜会場?
「ありがとうございます! おかげで気持ちが安定してきました!」
そのお通夜会場の真ん中で、なぜか妙に満足げな男だった。相変わらず頭おかしい男だが、今は能力を有効に活用できているようだから細かいことはいいか。
しかし、この状況……どうしたもんか。バリアで敵の攻撃は防げても、敵は空高くにいるわけで、こっちからは何も手が出せやしねえ。
「フィーオ、お前の弓は、あの高さまで届くか?」
「んー、わかんない。やってみるねー」
と、フィーオはすぐに矢をつがえ、物理障壁の光る壁の横から射撃した。それは一応、敵のいる高さまでは到達し、狙いも正確だったが、さすがに距離がありすぎて、敵に矢の軌道を見切られてかわされてしまったようだった。
「やっぱ遠すぎか」
俺も試しに石を投げてみたが、結果は同じだった。敵のいるところまでは届くにしても、彼我の距離がありすぎて避けられてしまう。うーん? 軌道を読まれない魔球でも投げられればいいんだがな。
「レオ、お前の魔法はあそこまで届くか?」
「無理だな。あのような空の上ではな」
「そうか」
いくら高いところが好きなヤギでも、足場のない空の上は攻略できんか。
あと、この場で戦力になりそうなのは……ゴミ魔剣? そう、ラックマン刑事は毒で昏倒していたが、ゴミ魔剣が変化した十手はすぐ近くに落ちていた。とりあえず素早くそれを回収した。
と、そこで、
「あ、そうだ! 敵が空の上にいるんなら、空飛んでやっつけにいけばいいんだよ、トモちん!」
と、フィーオが言った。そして、同時に、その姿を竜に変えた。素早く、制服を破りながらバリバリと。(破れた制服はすぐに修復されたようだったが)
「おお、そうか! 俺がお前の背中に乗って上に行けばいいか!」
アホとはいえ、さすがは元冒険者だ。こういう状況での判断は正確で早いようだ。
「じゃあ、お前の弓と背中借りるぜ、フィーオ!」
「オッケー! 一緒にやっちゃおー!」
俺は近くに落ちていた弓と矢筒を拾い、ゴミ魔剣と一緒に携えると、すぐにフィーオの背中に乗った。
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