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「おい、フィーオ! 翼を広げろ! 動かさなくてもいいから! 滑空しろ!」
俺は必死に声を張り上げた。このまま墜落しても、俺は受け身スキルでたぶん大丈夫だが、こいつはやばい!
「滑空だよ滑空! お前、前世はモモンガだっただろ、思い出せ!」
なんかもう、よくわからん設定までできてしまった。
「モ、モモンガ……?」
しかしなぜかその言葉に反応するフィーオだった。
「そうだよ! こう手を広げて……じゃねえ、お前の場合翼か。とにかく、横に広がるんだ!」
「よ、横に……翼……」
と、フィーオなりにがんばったのだろう、その閉じられた翼が横に広がった。
「よし、これで――」
モモンガのように滑空モードになって減速……とはいかんかった。現実はどこまでも厳しいのだ。翼を広げることによって落下速度は落ちたものの、首を下にして、体を斜めに傾けて落ちているので、滑空することにはならず、状況はあまり変わらなかった。
「くそ、こうなったら!」
もはや翼の空気抵抗のぶん、フィーオの落下速度が落ちたことに賭けるほかなかった。俺は、その背中から飛び降りた。体をなるべくコンパクトにたたみ、空気抵抗をゼロにした体勢で。
当然、そんな俺はフィーオより先に地面に墜落したわけだったが――まあ、予想通り、きちんと受け身を取れたのでノーダメだった。瞬時に体勢を立て直し、上空から猛烈な速度で落ちてくる
ドーンッ!
お、親方、空から竜の女の子が! さすがに重くて衝撃も半端ないんですがァ! めっちゃ腕がしびれるんですが……。
だが、俺がなんとかキャッチに成功したおかげで、フィーオは特に怪我はなさそうだった。落下の衝撃とさっきの雷で目を回しているだけのようだ。よし、無事に回収完了か。腕がしびれるので、すぐにその重い体を近くの地面の上に置いた。
と、そこで、俺たちのところに他の生徒たちが集まってきた。
「うわあ、すごいね、今の! トモキ君、あんなことやって大丈夫なの!」
「あの大きなフィーオさんを体で受け止めるなんて!」
「あんなに高いところから落ちてきたのに! 自分も一緒に!」
みんななんか今の俺の軽業に興奮しているようだ。ただ、俺としては今は褒められて喜んでいる場合ではなかった。
「油断するな! 上にまだ敵が残ってるんだ! お前らはとっとと安全地帯作ってくれた先生のところに避難してろ!」
あわてて叫び、そいつらを追い払った。そうだ、少なくとも電撃攻撃してきたやつはまだどこかにいるはずだ。そいつも含めて、今は敵をすべて片付けるのが先決だ。
俺はすぐに上空を仰ぎ、敵の位置を確認した。やはりまだ敵はかなり残っているようだった。電撃攻撃がこっちに飛んでこないということは、あれは魔法の毒攻撃やトゲ攻撃よりは射程は長くないのだろう。その点は安心だが、フィーオが倒れてしまった以上、俺にはもうあっちに攻め込む手段がない……クソッ!
と、俺が歯ぎしりした、そのとき、急に上空のモンスターたちの動きがおかしくなった。みな、一様に空中でふらふらと旋回しながら、ゆっくり下に落ちてくる。なんだこれ?
「
と、近くで聞き覚えのある声がした。はっとして、そっちを見ると、この学院の理事長のババアこと、エリーが立っていた。あと、アーニャ先生とフェディニ先生も。
「すごいですねえ、理事長の
「ま、あたしにはそれしか能がないからねえ」
アーニャ先生の誉め言葉を軽く受け流すエリーだった。その間にも、敵はゆっくりこっちに舞い降りてくるようだ――って、あれ? ただ飛べなくなっただけのあいつら、このあと、どーすんの?
「あとはあんたが片付けるんだね。一人でもなんとかなるだろう?」
「いや、なるけど、武器が……」
そりゃ、素手でも戦えるけどさ。その場合、ハリセン仮面様のイメージがつきまとって……。
「ああ、武器だったら、ちゃんと持ってきたから」
エリーは隣に立つフェディニ先生に目配せした。見ると、確かにその手に剣が握られていた。それも、俺にとっては見覚えのある、とてもなつかしいものだ……。
「おお、これ理事長室に置いてあったやつか!」
そう、それはかつて俺が勇者アルドレイ時代に愛用していた魔剣だった! うひょー! 今これ使えるんですって! めっちゃテンション上がるう! すぐにフェディニ先生からそれを受け取った。
「よし! あとの敵は全部俺にまかせとけ!」
なつかしの魔剣を両手で握りサンライズ立ちで構えると、俺はそのまま、頭上から舞い降りてくる敵に向かって駆けだした。
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