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く……いったいどう言えば、この場を切り抜けられるんだ?
俺は必死に頭を働かせたが、なんの言葉も思い浮かばなかった。勇者岩の異常な硬さについては、すでにアーニャ先生の証言により確定しており、それを素手で壊してしまった俺様はいったい何者?って話の流れだからな。ハハ……。
と、そんなふうに冷や汗を流しながら固まっていると、
「そうか! てめえはあの岩を素手で壊せるような異常な力を持ちながらも、勇者様の生まれ変わりとは思えねえ、札付きのワル! つまり、てめえこそ、ハリセン仮面ってことか!」
「う……」
やばい! やばいやばい、めっちゃやばい! ザック氏、名探偵すぎて、俺の正体をあっという間に見破っちゃったぞ、オイ!
「ち、ちが……俺はそんな凶悪犯ではないで、ござるよ? だ、断じて……」
動揺のあまり得体のしれないござる言葉になってしまう俺ェ……。
「ハッ、何言ってんだ。てめえがそんな犯罪行為に走りかねない乱暴者だってことは、さっきの、この女どもの話からも明らかじゃねえか!」
ザックはユリィとルーシアを指さし、怒鳴る。うう……確かにさっき、そんなようなことを話してましたよね、お二人。
しかし、そこで、
「違います! トモキ様はハリセン仮面なんかじゃありません!」
ユリィが俺のために叫んでくれた! おお、ありがとう、ユリィ!
「わたし、知ってるんです。ハリセン仮面が暴れまわったその日、トモキ様は、そちらのフィーオさんと一緒にいたはずなんです」
ユリィは、近くで寝転がっているフィーオのほうに手を差し伸べながら言った。フィーオの奴は、床に大の字に寝転がって、熟睡しているようだ。
「つまり、彼にはアリバイがあるということですね」
ルーシアはいったんはうなずくが、
「しかし、トモキ君と大変仲のよいユリィさんの言葉だけでは、何の判断もできませんね。一般に、警察の取り調べにおいて、家族や恋人など、容疑者と非常に親しい間柄の人間の証言では、アリバイにはならないそうです」
何やらまた検察官モードに切り替わったようだ。クソ! いいから、とっととユリィの言葉を信用して、この場を流せよ!
「念のため、フィーオさん自身にも証言してもらいましょう」
ルーシアはフィーオに近づき、そのでかい体をゆさぶった。ややあって、「ふあ?」という気の抜けた声を出しながら、フィーオは目を覚まし、起き上がった。
「フィーオさん、お休みのところ申し訳ありませんが、あなたに聞きたいことがあります。あなたは、ハリセン仮面が二つの国の軍隊を壊滅させたその日、トモキ君と一緒にいたそうですが、それは本当ですか?」
「ハリセン……トモちん?」
フィーオは寝起きでぼーっとしているようだった。普段よりもだいぶ口調があやしい。
「フィーオさん、よく思い出してください。ハリセン仮面が暴れまわったあの日、あなたはどこで何をしていたのですか!」
「あー、うん。アタイ、みんなとお店で飲んだり食べたりしてて……トモちんも一緒で……」
おおお! フィーオの口からちゃんと俺のアリバイらしい言葉が出てきたあっ!
「トモちんが急に一人で出て行っちゃったから、アタイ、追いかけて……」
「追いかけて? そのあとはどうしたのですか?」
「誰にも話しちゃいけないこと、トモちんとしちゃったあ……」
「えっ」
「秘密なんだよお……。アタイたち、秘密の関係……」
「な……なんて汚らわしい!」
ルーシアはたちまち顔を赤くして、俺を激しくにらんだ。何かめちゃくちゃ勘違いしているようだ。
「あ、あなたは、ユリィさんという女性がありながら、フィーオさんにまで手を出して……。しかも、秘密だ、などと、口封じまで!」
「ち、違!」
俺はあわてて反論するが、
「やだ、トモキ君、二股してたんだ。サイテー!」
「女の子なら誰でもいいのね。見損なったわ!」
「ユリィさんがかわいそう。あんなにトモキ君のことを想ってたのに!」
なんか周りの女子どもがいっせいに俺を非難し始めてるんだが! 俺、二股どころか、誰にもまだ股をひっかけてないんだが!
「ルーシア、俺は別にフィーオとやましい関係じゃない! 変な誤解するなよ!」
「では、なぜフィーオさんと一緒にしたことを、秘密に?」
「え、それはそのう――」
そりゃ、言えるわけないだろう。ハリセン片手に二つの国の軍隊を壊滅させてきたんだぞ!
と、俺が口ごもっていると、
「答えられないようですね。やはり、あなたは最低の二股野郎に間違いなさそうです」
ルーシアは冷たく言い放った。
「く……」
俺はとりあえず、その誤解と身に覚えのない罵倒を受け流すことに決めた。ここで変に反論すると、じゃあ、フィーオの言っていた「秘密」とはなんなのかと、追及されてしまう。それだけは絶対に避けなければならない! そう、ハリセン仮面として正体がばれるくらいなら、サイテーの二股野郎の汚名ぐらい喜んでかぶってやるってもんだ! ユリィには、あの日俺がフィーオと何していたのか、ちゃんと話してるしな。嘘だけど。
それに、あの日、フィーオと俺がそういうふしだらな行為を楽しんでいたってことにしておけば、それはそれで俺のアリバイは成立するしな。フフ……。
と、思いきや、
「まあ、そういうわけなので、今のフィーオさんの言葉は、あの日のトモキ君のアリバイの証明にはなりませんね」
なんか意味不明なことをルーシア検察官が言ってるんだが!
「お、おい! お前は今、俺がフィーオとあの日、けしからんことをしていたと決めつけて、二股野郎と罵ったばかりだろ! だったら、それでもうアリバイ成立じゃねえか!」
「いいえ、先ほども言ったでしょう。一般に、家族や恋人など、容疑者と非常に親しい間柄の人間の証言では、アリバイにはならない、と」
「いや、俺別に、フィーオとそんなに親しくは――」
「つまり、フィーオさんのことはあくまで遊びで、一度楽しんでポイですか。あなたは本当に、最低のクズ野郎ですね」
「ち、違うって言ってるだろ!」
「じゃあ、何がどう違うのかはっきり説明してもらいましょうか。具体的に、論理的に。委細詳細つまびらかに!」
「う……」
そ、それはできない! 詳しく話すってことは、ハリセン仮面の正体につながることだからあ……。
「ぐうの音も出ないという顔ですね。では、あなたは、伝説の勇者の生まれ変わりとは到底思えない粗暴で札付きのワルな上に、最低の二股野郎という証明が得られました。まさに指名手配中の凶悪犯に相応しい、ひととなりです」
「ぐう……!」
あ、思わず出ちゃった。ぐうの音。
「さらに、あなたはあの勇者岩を素手で壊すという、圧倒的な力の持ち主です。加えて、剣技にも秀でており、魔法も使わず、剣を振るだけで真空の刃を出せるほどで、それだけではなく、フィーオさんの話によると、ほぼ全ての武器を完璧に使いこなせるそうですね。きっと、ハリセンを片手に大勢の敵と戦うことも簡単にできるのでしょうね」
「い、いや、ハリセンはさすがに――」
「できるでしょう、トモキ君、あなたなら」
ルーシアは俺をにらみ、きっぱりと言い切った。
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