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くうう……この女、どこまでも俺を疑う気か! 今まで、どんな強敵のモンスターも倒してきた俺だったが、こんな状況は、どう切り抜ければいいのかさっぱりわからなかった。冷や汗がまた出てくる。
しかし、そのとき、俺の前に
「待て、ルーシア。結論を出すのはまだ早い。少し冷静になって考えてみろ」
そう、それは一匹の黒ヤギだった。それが、俺たちのところに近づいてきたのだった。
「お前はまるで、さっきからトモキのことをハリセン仮面だと決めてかかっているようだが、根本的なことを見落としているようだぞ」
「根本的なこと? 何でしょう、レオローン君?」
「簡単なことだ。仮にトモキがハリセン仮面だったとして、それがなぜ、こんな学院にいまだとどまっているかということだ」
「あ……」
ルーシアはその言葉にはっとしたようだった。
「ハリセン仮面は高額の懸賞金がかけられて、指名手配されている状態だ。常識的に考えて、そんなやつが、この国に、しかもこんな学院にいつまでもとどまっているはずがない。やつほどの力のあるものなら、何が何でもすぐに国外に逃亡しようと考えるだろう」
「た、確かに!」
と、驚きの声を上げたのは、周りの生徒たちだった。もちろん、俺もそのヤギの言葉に大いに賛同する思いだった。そうだ、常識的に考えて、指名手配されているやつがのん気に学校なんかに通っているはずがない!(通ってるけどな!) なんという説得力! 俺は、突然現れた有能弁護士レオ様に、心底救われた気がした。ありがとう、レオ! お前ってばマジでイケメンだよ! いや、ヤギだからイケメェェンかな!
しかし、俺たちがそんなレオの言葉にすっかり納得しきっているというのに、検察官ルーシア様と来たら、
「……そうですね、常識的に考えれば、そういう結論も得られるでしょうね。常識的に考えれば」
と、なにやらまだ俺を疑っている様子。
「レオローン君の言っていることは非常にもっともな話です。しかし、ここでハリセン仮面というものの犯行について考えてみましょう。彼は、あるいは彼女は、奇妙なことにまったく攻撃力のないハリセンを片手に、素手で、軍隊を壊滅させたのです。なぜハリセンを携えていたのか? 軍を襲うにしても、普通は何かしら攻撃力のあるものを使うはずです。まったく意味のわからない行動ですね。そう、つまり――ハリセン仮面という謎の人物には常識が通用しないのです!」
ドォーン! またなんという説得力のある言葉!
「ルーシア、凶器のハリセンについては、まだ警察が捜査中だ。必ずしも、ヤツが非常識の狂人とは限らない」
「狂人でないのなら、なぜあのような犯行を?」
「動機についてもまだ捜査中だろう。俺たちが語ることではない」
「語る権利くらいはあるでしょう。ここにちょうど、疑わしい人物がいることですし」
ルーシアは再び俺をにらむ。その青い瞳は鋭く冷たく光っている。
「見識の浅いレオローン君はおそらくは知らないのでしょうが、実は凶悪犯罪者の中には、罪の自覚がまったくなく、罪を犯しながらもそれまでと変わらない生活を続けるような、異常者がいるものなのですよ。ハリセン仮面もそういうタイプであるとするのなら、指名手配されていながらも、国外に逃亡しようとせず、このような学院に通いはじめることも大いに考えられます。ねえ、そうでしょう、トモキ君?」
うう……。どさくさに俺のこと、吉良吉影みたいなサイコパス認定しやがって。俺、一応はちゃんと罪の自覚あるし!
「ルーシア、彼の人格については、お前も昨日、その目で確かめたばかりではないか」
「ええ。トモキ君は感情をおさえられず、勇者岩を破壊してましたね。なんと犯罪的な行為なのでしょう」
「違う。その前の話だ。彼はなぜ勇者岩を壊すにいたった?」
「それは――」
「彼は、ユリィを守ろうとしていたのだ。彼にとって大切な女性だからだ。それがなぜわからない?」
「おおおっ!」
と、レオの発言にまたしてもわきたつ、生徒たち。そして、唐突に恥ずかしくなっちゃう俺! さっきからなんなの、このなんちゃって法廷劇! 俺たち、魔術の実技のテストを受けてたんじゃなかったのかよ?
「トモキは、ユリィを守ろうとして動き、結果的に感情的になりすぎ、勇者岩を壊してしまった。その行為は決して褒められることではないが、ユリィを守ろうとして動いたことは、とても男らしくて立派なことだと、俺は思う!」
レオ弁護士は声を張り上げ断言する! おお……なんか知らんけど、褒められちゃった。えへへ。
「そして、俺はさらに思うのだ。そんな、不器用ながらも
「う……」
ルーシアは一瞬返す言葉を失ったようだったが、
「そ、それは、まだなんとも言えない状態です! ただ一つ言えることは、彼はまぎれもなく異常な力を持っていて、ハリセン仮面と同じことができるであろう人物だということです!」
なおも折れない。まだ俺を疑っているようだ。くそ、早く論破されろよ!
と、俺が歯ぎしりしていると、
「実は、そのトモキの異常な力も俺のせいなのだ」
唐突に、変なことを言いはじめているレオ弁護士だった。
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