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「あ、もしかして、これからこの女をヤるんですね?」
「編入初日に、男子に色目使ったりしてて、マジありえないですもんねー」
「元冒険者とか、ただのアバズレに決まってるのにね」
三人の女たちは、ルーシアと違い、めっちゃガラが悪かった。たちまち、定位置のようにルーシアの後ろに並んで、ルーシアの肩越しにユリィをにらみはじめた。
「いえ、それはもうよいのです。彼女との話は終わりましたから」
ルーシアはあわてて、三人の女たちに振り返るが、
「何言ってるんですか! 早く、例のアレ、見せつけちゃいましょうよ!」
「そうそう、この女に、力の差ってやつを思い知らせなきゃ!」
「ルーシア様が一番なんだから!」
三人はルーシアの話なんか聞いちゃいねえ。それぞれ、ルーシアの背後からずっと前に出てきて、またそれぞれ、制服のポケットから何か小さなものを取り出した。リンゴくらいの大きさのガラス球?のようだった。
「あんたさ、これが何かわかんないでしょ?」
女の一人が、ドヤ顔でユリィに尋ねる。
「はい、それはいったいなんなんでしょう?」
ユリィはやはり困惑しているようだ。
「はは、田舎者の元冒険者はこれだからあ。これはね、魔占球っていうのよ。最近、うちの学院の女子たちの間ですごく流行ってるんだから」
「こんなのも知らないなんて、あんた遅れてるわねえ」
「マジ笑えるー」
三人はユリィを囲み、嘲笑し始めた。なんだあいつら、いじめっ子かよ。つか、魔占球ってのもなんだ?
「あれは、最近モメモの貴族や金持ちの子息の間で流行っている、玩具だ」
と、俺の頭の上のヤギが教えてくれた。
「玩具ってことはただのオモチャか。そんなの自慢げに出すのかよ、あいつら」
「まあ、玩具とはいえ、一種のマジックアイテムでな。人が手をかざし、魔力を込めると、それぞれの属性によって、さまざまな色に光るものなのだ」
「ふーん?」
まあ、光るだけってのが、いかにもオモチャっぽいが。
「見てなさい、こうやって使うのよ」
と、俺たちが話している間に、女子たちが実際にそれを目の前で使って実演してくれた。最初の一人が手をかざすと、球は赤く光り、さらに、中にうっすら炎のようなゆらめきも見えた。こいつは、炎属性の魔力もちってことか。
続いての二人目は、光は青く、球の中には水の波紋のようなものも見えた。こいつは水属性か。さらに三人目は、光は黄色で、球の中には雷のような筋が走るのが見えた。こいつは電撃属性か。ふむふむ。オモチャとはいえ、なかなか楽しそうなものじゃない。俺もなんだか使ってみたくなってきた。自分が何属性か気になるし。
「さあ、ルーシア様も早く使って、この女にアレを見せてやってください!」
さらに、三人はうむを言わせぬ剣幕でルーシアを促した。
「え、ええ……」
ルーシアはいかにも気が進まないという感じだったが、近くの一人が手に持っている球に、自分の手を近づけた。たちまち、球は光った。さっきの三人の誰よりもずっと強く、青く。さらに、球の中には青い炎が揺らめいているように見えた。こいつも炎属性だろうか。色は青いが……。
「ルーシアは非常に珍しい、風属性と炎属性の二つの魔力をあわせ持っている。魔力自体も強いので、あのように光るのだ」
頭上のヤギ君がまた教えてくれた。こいつさっきから親切だな。重いけど。
「どう? これがルーシア様の魔力のすごさよ!」
「あんたみたいな庶民とは、格が違うんだから!」
「ちょっとテストの点数がよかったぐらいで、いい気になるもんじゃないわよ!」
ルーシアが光らせた球を指さし、三人はまるで自分の手柄のようにイキるが、ユリィはおそらく魔占球のことをよく知らないのだろう、ただぽかんとしているばかりだ。ついでに、ルーシアも、興ざめみたいな顔をしている。別にこんなの自慢するつもりはなかった、みたいな?
しかし、三人はそんな二人の様子にはお構いなしだった。
「あ、そうだ、特別にあんたにも使わせてあげようか、これ?」
「どうせまだ一度も使ったことないんでしょ?」
「自分が何属性かぐらいは知っておいたほうがいいもんね。私たち、やっさしー」
三人は、いかにも上から目線で、恩着せがましくユリィに魔占球を手渡した。おそらく、ルーシアとの格の違いとやらを、よりはっきりとわからせるためだろうか。実際、ユリィはこの状況をなんもわかってなさそうだしな。
「は、はい。ありがとうございます……」
ユリィはやはりよくわかってなさそうながらも、素直にそれを受け取った。そして、三人やルーシアがやったときのように、そこに手をかざした。
たちまち、魔占球は光り始めた。強く。そう、ルーシアの時よりはるかに強く。
そして、直後、その光は球からあふれ、外にいっぱいに広がった!
「え……」
一瞬、俺たちは何が起こったのか、まったく意味が分からなかった。ユリィの手の中から光があふれた出した次の瞬間、俺たちの周りの景色は一変し、真っ白な花が咲き乱れる世界になっていたのだから。
「こ、これは――」
俺の頭の上のヤギもぎょっとしているようだった。三人の女子、ルーシア、そしてユリィ本人も同じように強い驚きをあらわにしていた。いったい、何が起こったんだろう?
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