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 ただ、魔術理論ほかの教科も含めた、その苦痛すぎるペーパーテストが終わっても、すぐに学校の説明とやらは始まらなかった。試験はもう二つ用意されていたのだ。


 いや、試験というより検査と呼んだほうが適切か。


「実は、この学校は、最近は武術の教育にも力を入れ始めていてね。その個人の能力を簡易的に測定する道具がここにあるわけなんだよ」


 と、おっさん一人がおもむろに懐から取り出したそれは、ゴテゴテと謎のからくりがついたモノクルだった。あ、なんか、この形、どっかで見たことある気がする……。


「ここにある、横のボタンを押すとね、レンズを通して見ている人間の武術の能力が数字として表示されるんだよ。なかなか画期的な道具だろう!」

「そ、そうっすね……」


 画期的かなー? うーん?


「普通の人だとどれくらいの数字になるんですか?」

「五くらいかな?」

「で、ですよねー」


 わかりやすくていいな、オイ!


「じゃあ、さっそく、一番左の君から使ってみるかな」


 と、スカウ、じゃなかった、謎モノクルを装着したおっさん教師は、フィーオのほうを向きながら、ボタンを押した。ぴこぴこ。電子的な音が響く。


「ほほう。君はさすが竜人族ドラゴニュート。非常に優秀だね」


 よくわからんが、いい数字のようだ。


 さらに、


「ふむふむ、上から九十八、七十二、九十五、これもなかなか――」


 あれ、なんか武術と関係あるんだかないんだかわからない数字も測定してない? なにこれ? もしかして、めちゃくちゃ便利な道具じゃない?


 その後は、ユリィの測定だったが、


「おやおや、君はたったの三しかないのかい」


 なんと、普通の一般人の戦闘力が五なのに対し、ユリィは三しかなかった。こ、これはこれでなかなかいい数字じゃないか……。俺が全力で守ってやりたくなるじゃあないか!


 さらに、


「ふむふむ。君は上から八十七、六十一、八十五……バランスはすごくいいようだね」


 おおおおっ! よくわからない謎の数字だけど、なんかすごくありがたい情報もらっちゃったあ! あくまでよくわからない謎の数字だけど、めっちゃドキドキするぅ……。


 そして、最後はもちろん、俺の測定だったが、


「あ、あれ? なんか急に数字の表示がおかしく……うわっ!」


 ボンッ!という音とともに、おっさん教師の装着している謎モノクルは爆発し、ぶっ壊れたのだった。うん、まあ、そうなるよね……。


「悪いね。突然、故障してしまったようで、君の測定はできなくなったようだ」

「いや、いいですよ。気にしないでください」


 予想通りすぎるしな……ハハ。


 さて、謎モノクルによる測定が終わった後は、魔力の検査だった。こちらは、最近急に作られたような器具を使ったものではなく、古めかしい水晶にそれぞれが手をかざして調べるものだった。この学校では、昔からこのやり方で魔力の測定が行われているらしい。


 先ほどと同様にまずはフィーオがそこに手をかざした。すると、たちまち水晶が光り、数字が浮かび上がってきた。0、と……。


「えー、アタイ、0点なの? なんでー?」

「はは、竜人族ドラゴニュートなら魔法の適正はないから、当然だよ」


 おっさん教師の反応は冷静だった。そういや、魔法は一切使えない種族だったか。


 続いてユリィ……という流れだったが、なんだか妙に怖気づいてモジモジしていたので、俺が先に割り込んでやってみた。物理攻撃特化型の俺は、どうせフィーオと同じ0点が出て終わるだけだろうと思ったし。


 だが、意外にも俺が水晶に手をかざして出た数字は0ではなかった。なんと、三十八だったのだ――って、これ、どのくらいのレベルなん?


「君はまあ、標準くらいの魔力だね」

「ひょ、標準?」


 びっくりした。アルドレイ時代では、俺ってば、間違いなく魔力ゼロの脳筋野郎だったはずなのだ。確か、家を飛び出してすぐ、冒険者ギルドに登録する際に、受付でこれと似たような検査をやって0が出た記憶があるし。それなのに、今は三十八? 標準くらいの魔力って……おま! 酒に対するバステ耐性といい、生まれ変わりで若干ステータス変わってたんかーい、俺!


「先生、俺、もしかして勉強頑張れば魔法が使えるようになるんですか!」

「まあ、そうだね」

「おおおっ!」


 生まれ変わってよかった! 実は俺、前世から今日にいたるまで、ずっと、魔法使ってみたいなーって、あこがれてたんだもん! つか、誰だってそうだろう! 人として生まれたからには、一生に一度くらいは魔法使ってみたいって思うもんだろ!


「ただ、君はあくまで標準くらいだから、魔法使いに特別向いてるとも言えないが――」

「いいんですよ。別に魔法メインじゃなくてもいいんで!」


 そうそう。本職は勇者だからな。いや、今は勇者やめた無職か。まあどっちでもいい。物理メインでも、何か魔法が使えるだけでも、戦術の幅はぐっと広がるもんだ。それに、なんといってもカッコイイからな。魔法剣士ってやつは。ウフフ……。


「じゃあ、最後は君だね」


 と、俺が喜んでいると、いよいよユリィの番になった。


「は、はい……」


 水晶を前にして、ユリィはやはり何か怖気づいているようだった。まあ、自分の魔法使いとしての能力が、数字として出るのが怖いんだろう。今は火がちょっと起こせるくらいだからな。きっと、しょぼい数字しか出ないんだろう――と、俺は思ったわけだったが、


 直後、そんな俺の予想は思いっきり外れた。


 ぱりんっ!


 なんと、ユリィが手をかざした瞬間、水晶は強く光ったのち、砕けてしまったのだった……。

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