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「実は、ベルガドは今は、誰でも簡単に行ける状態ではないのです。つい昨日から、厳しい渡航制限が実施されましたから」
「渡航制限? なんでまた……」
「君のせいですよ」
「え?」
「君が暴食の黄金竜マーハティカティを倒してしまったせいで、人間の社会は大きく変わってしまったというわけですね」
「いや、そんなん突然言われても……」
意味がわからんし?
「トモキ君、暴食の黄金竜マーハティカティが倒されたことによって、凶悪なモンスターたちが力を失ったことはご存じでしょう?」
「ああ、暴マーのナントカっていう悪い力がなくなったせいだっけ。それで世界は平和に――」
「なったのですが、一方でモンスター退治を生業としていた冒険者たちは路頭に迷うことになりましたね?」
「ああ、そうだな……」
そうそう。どっかの街の酒場で、俺のせいで無職になって落ち込んでいる冒険者たちの姿を見たっけ――って、あれ? そういや、あいつら、ベルガドがどうとかって話してなかった? ハロワ行く?みたいなノリで。
「もしかして、ベルガドって島は、仕事がなくて困っているやつらが集まる場所なのか?」
「はい。ベルガドには他にはない独自の生態系があり、採れる鉱物も希少なものばかりです。なので、昔から、それらで一攫千金を狙う人々が集まる場所になっています」
「へえ、まるで宝島だな」
ワクワク感しかねえ……と、一瞬思った俺だったが、
「だからこそ、今は厳しい渡航制限が実施されたわけなのですよ」
リュクサンドールはそんな俺のトキメキに水をさすのだった。
「だからこそ、って、なんだよ。もっとわかりやすく話せよ」
「君のおかげで、たくさんの冒険者たちが失業したと言ったでしょう。彼らの多くは、いったいどこに向かったのでしょうね」
「どこってそりゃ……あ」
さすがに俺もそこでピンと来た。
「そうか、元冒険者で無職の奴らが、今、大量にベルガドに押し寄せてるんだな!」
「ええ、そうです。なので急遽、渡航制限が実施されたわけなのです。ベルガドの治安に大きく関わる問題ですからね」
「まあ、無職のならず者たちが大量に押し寄せてきたら、治安は悪化するに決まってるよな……」
なるほど。それで緊急の渡航制限ってわけか。
「それに今は、ハリセン仮面というおそろしい凶悪犯も野放しになっている状態です。元冒険者たちに交じってそんな人物が入ってこられたら、ベルガド政府もたまったものではないでしょう」
「そ、そうだな……」
まあ、その凶悪犯って俺なんですけどね!
「というわけで、普通の人は、今はまずベルガドに行けません。何か重要な用事があったとしても、入国審査に三か月はかかるでしょう。しかし、実は一つだけ、たった一か月でベルガドに行く方法があるのですよ」
「なんだよ、それ?」
「この学院の生徒になることですよ」
リュクサンドールは俺に手渡した書類を指でトントンと叩いた。編入手続きご案内、と書かれているヤツだ。
「実は、一か月後に、この学院の生徒たちは修学旅行に行くことになっているのですが、その旅行先がなんとベルガドなのです」
「なんだと!」
「これは渡航制限が決まる前からの決定事項なので、今からこの学院の生徒になってしまえば、入国審査をスルーしてベルガドに行くことができるのですよ!」
「おおおっ!」
なんという荒ワザ! というか、この世界の学校に、修学旅行なんてイベントあったんかーい!
「と、いうわけなので、トモキ君、この学院に編入しますか?」
「するする!」
ようは、これから一か月、この学校で生徒のフリしていればいいんだ。それで、ベルガドに行けて、呪いが解けるのなら万々歳じゃないか!
「わかりました。短い間ですが、学園生活を楽しんでくださいね」
「おうよ!」
俺はリュクサンドール、いや、リュクサンドール先生と固く握手した。
ただ、俺に渡された書類は三人分あったわけだったが……。
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