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翌日の午後、俺は再びリュクサンドールの部屋を訪ねた。
前日とは違って、今度は俺一人だった。ユリィとフィーオは一緒に来てもらっても逆に困るので、宿に置いてきた。まあ、今頃は二人仲良くモメモの街を観光してるのかもしれないが。
俺が最初来た時、リュクサンドールはまだ部屋にいなかったが、カギのかかってない扉から勝手に上がり込んでしばらく待っていると、ヤツは帰ってきた。なんでも、朝、とある生徒の遅刻を咎めたところ、午後になってその親が学校に苦情を言いに乗り込んできたそうで、その対応に追われていたらしい。
「いやあ、最近は過保護な親御さんも多くて苦労しますね。いわゆるモンスター保護者ってやつでしょうか」
ははは、と笑うレジェンド・モンスターの教師であった……。まあ、どこの学校も事情は似たようなもんか。
「あんたの話はいいから、俺の呪いについて、引き続き頼む」
「ああ、そうでしたね」
俺たちは昨日と同様、ローテーブルを前に向かい合った。診察タイム、再びスタートだ。
と、思いきや、
「まあ、結論から言うと、僕にはお手上げなんですけどね」
いきなり白旗を上げる男であった……。
「ちょ……お前、一晩かけて出した結論がそれ?」
「はい。考えてもみてください。僕はしょせん、ロイヤルクラスなのです。ディヴァインクラスの方たちの力にはとうてい太刀打ちできるはずはない。モンスターにも上下関係というか、絶対的な力の序列ってものがありますからね。それはもう、厳格な」
「いや、あんたそもそも、レジェンドでもないゴブリンにやられてただろ……」
序列を一番語っちゃいけない男だよなあ?
「とにかく、そういうことなので、僕としては、ディヴァインクラスの力にはディヴァインクラスで対抗するしかないのでは、と、考えました」
と、リュクサンドールはそこで、近くの本棚の中から一冊の本を取り出し、俺に手渡した。見ると、『グングンわかる! ルーンブリーデルかんぺきモンスターずかん!』と、表紙にあった。子供向けの教本のようだった。
「ここには、現時点で存在が確認されているディヴァインクラスのモンスターについて書かれています。読んでみましょう」
「はあ……」
なぜよりによって、こんな子供向けの本なんだよ。とりあえず、目次を見て、それっぽいことが書かれてそうなページを開いた。
デヴァインクラスのレジェンドモンスター紹介の最初は、「虚ろの蛇ツァド
「虚ろの蛇ツァド
「で、この蛇は俺の呪いをどうにかできるヤツなのか?」
「出会うこと自体難しいモンスターなので、無理ですね」
「じゃあ、説明するなよ……」
「まあまあ。彼らのことを一通り知っておくことも大事です」
さらにページをめくると、次は「暴食の黄金竜マーハティカティ」のイラストが目に飛び込んできた。
「あ、これはもう俺が倒したから、いいか」
「そうですねー」
さらにページをめくった。今度は「奔流の壺鯨ファルン・クトゥン」とかいうやつの紹介だった。クジラというだけに、海の中に何か大きな影が潜んでいる感じのイラストが描かれている。
「奔流の壺鯨ファルン・クトゥンは普段は海の底深くにとどまっており、海上に姿を現すことはめったにないとされ、多くが謎に包まれています。壺鯨の『壺』が何を指すのか、フジツボなのか、違う何かを指すのも不明で、実際はどういう生態なのかもよくわかっていません」
「……なんか、説明が使いまわし臭いんだが、この鯨は俺の呪いをどうにかできるヤツなのか?」
「出会うこと自体難しいモンスターなので、無理ですね」
「そこも使いまわしなのかよ」
あー、もう次いこ。次。さらにページをめくった。今度は「遍在の風ニニア」とかいうやつの紹介だった。これまでの紹介とはうってかわって、かわいらしい少女のイラストが描かれている。これは人型モンスターか?
「遍在の風ニニアは元は聖女と呼ばれた一人の人間の女性です。それが力を極めるあまり、モンスターになったなれの果てだそうです。モンスターとなって以降は、何度も転生を繰り返し、普通の人間のふりをしながら、この世界のどこかでひっそりと暮らしているそうです」
「念のため聞くが……この女は俺の呪いをどうにかできるヤツなのか?」
「出会うこと自体難しいモンスターなので、無理ですね」
「やっぱ予想通りじゃねえか、クソが!」
ディヴァインクラスのレジェンドはそろいもそろって、住所不定の消息不明かよ!
「まあまあ、落ち着いて。次のページの彼は、ちゃんと身元がはっきりしてますから」
「身元って」
モンスターにそんなのかあるのかよ、と、思いながら、言われた通りページをめくると、次は「とこしえの大地亀ベルガド」とやらの紹介だった。というか、こいつでディヴァインモンスターの紹介は終わりのようだった。
ただ、亀という名前なのに、イラストに描かれているのは島の絵だった。
「とこしえの大地亀ベルガドは、ここからそう遠くない湖に存在しています。一つの、島として」
「島? まさか、亀が島になっているのか?」
「そうですよ。人も暮らしています。その数、五万人くらい?」
「お、多いな……」
亀の背中の上に町や村があるのか。そういや、ベルガドっていうのも、どっかで聞いたような言葉だな?
「とこしえの大地亀ベルガドは現在、島として存在していますが、ディヴァインモンスターの一体であることには違いありません。そして、伝説によると、彼は自らが選んだ人間に、大いなる祝福を与えることができるそうです」
「大いなる祝福?」
「それが何なのかはやはり不明ですが、ディヴァインクラスのモンスターの祝福なのです。同じディヴァインクラスのモンスターからの呪いを打ち消すこともできるかもしれません」
「そうか!」
ようは、このバカでかい亀に、なんらかの形でコンタクトし、交渉すればいいってことだな!
「じゃあ、さっそく、そのベルガドってやつに会いに行かないとな」
「……そうですね」
と、リュクサンドールはそこで、おもむろに懐から何かの書類を出し、俺に差し出した。
「というわけで、トモキ君、君はこれからこのドノヴォン国立学院に編入してもらいます」
「え」
今の話の流れで、なぜそうなるんだ? まったく意味が分からん俺だった……。
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