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 トロルの群れの動きは緩慢で、まだ完全にこちらの存在をとらえてないようだった。俺はすぐに、近くに寝転がっているおっさんの手からゴミ魔剣を回収した。


 だが、ユリィから聞いた話と状況が違っているので、まずは尋ねてみた。


「おい、お前たち、なんで血走った目でこんなところをうろついてるんだよ?」


 そう、確か、トロルは人間よりやや低いくらいの知能で、言葉は通じるはずだった。


 しかし、俺の言葉に反応するものは一匹もいなかった。あえて無視しているというよりは、言葉そのものが耳に届いていない様子だった。


 この感じは……。


 まるで何かに操られて動かされているようだった。しかし、周辺からはトロルたち以外の気配、すなわち操っているであろう術者の気配はどこにも感じられなかった。


「まあいい、めんどくせえから倒すだけだぜ!」


 俺はすぐにその一体に斬りかかった。俺が踏み込んだ瞬間、その個体は即座に俺を敵と認識し、反撃しようと動いたようだったが、それはまったく俺の速さに対応できるものではなかった。次の瞬間には、その肩から腹にかけてを、俺に深く斬り刻まれることになった。


 そして、ネムに斬られたその巨体はすぐに蒸発するように消えたわけだが――、


『ま、まっず! なんすか、これ! クソまずっ!』


 突如、ネムは悲鳴を上げた。ブッブーと、クイズの不正解の時のような音を出しながら。


「モンスターに美味いもまずいもあんのかよ?」

『いやー、ワタシは基本的に好き嫌いはないほうですヨ? ただ、限度ってもんがあるんでさあ。今のは、いかにも添加物モリモリで、ひでー味付けでしたヨ! なんすかこの、魔改造トロル!』

「魔改造トロル?」

『人の手であれやこれやいじくられてるモンスターってことですヨ。んなもん、食えるかって話です。せめて天然物で頼む』


 と、ネムはそこで自らの姿を棒状の工具のようなものに変えた。これは……バール?


『もうワタシ、あれ食べないので、あとは鈍器として好きに使えばいいと思うヨ?』

「いや、だからって、なんでバール?」

『正確にはバールっぽい何かです』

「ああ、うん、そんな感じだな……」


 確かに、本物のバールにはない、よくわからない突起がちょっとついていた。


「これはつまり……バールのようなもの?」

『いえーす! イッツァ犯罪者の定番アイテム! 二千万ゴンスの賞金首のマスターには、まさにお似合いの武器ですネー?』

「イヤミのつもりかよ!」


 まあしかし、他に武器になりそうな手ごろなものはないのだった。トロルたちも仲間の一体を倒され、殺気立って襲い掛かってくるし。俺はやむなく、そのバールのようなものを握りしめ、トロルたちを相手に戦った。やつらの動きはやはり俺にとっては緩慢そのもので、かわすのは余裕だったし、少し跳躍して、バールのようなもので頭を強く殴打し、頭蓋骨を割ると、やつらはすぐに動かなくなった。さすがバールのようなもの。普通のバールと違って、それなりに強度も攻撃力もあるみたいだぜ! とりあえず、そのままバールのようなもの無双でトロルたちを全部倒した。ハリセンの次はこれか……。


「あれー? トモちん、こんな夜中に何してるの?」


 と、謎の魔改造トロルを全部倒したところで、ようやくフィーオは目を覚ましたようだった。


「お前、感謝しろよ。俺がいなかったら、今頃、トロルどもの胃袋だぜ?」


 一般人のおっさんはともかく、現役冒険者様の無防備っぷりにはあきれる思いだった。


 と、そこで、近くで倒れているトロルの足首に、金属製の輪がはめられているのに気づいた。なんだろう? 顔を近づけ、焚火の光のほうにかざして見ると、表面に「DCL.770709」と刻印されていた。これはもしかすると、製造番号か何かか?


「おい、ネム。お前は確か、食ったモンスターの情報を解析できるんだろ。こいつらは一体何なんだよ?」

『アッハ、それが、何らかの薬物による影響で、シナプス間での情報伝達が阻害されていた形跡があり、脳髄デバイス記憶メモリがクラッシュしているようです。ゆえに、解析不能デスネ』

「ようするに、何もわかんねんのかよ」


 いきなりバールのようなものになることといい、本当、肝心な時に使えないゴミ魔剣様だぜ。

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