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 それから、俺たちはすぐにその街を出て、聖ドノヴォン帝国の帝都モメモに向かった。


 足として利用したのは、ちょうど街を出てモメモに行く予定の荷馬車だった。その荷台に乗せてもらったのだった。


 ただ、最初、俺たちが荷台に乗せてくれと頼むと、荷馬車の持ち主のおっさんには、


「はあ? ハリセン仮面みたいな危ない奴がうろついてるこの時期に、お前たちみたいな見ず知らずの人間を乗せるわけないだろう!」


 と、ものすごい勢いで拒絶されたものだったが、俺が腰に差しているゴミ魔剣をそっと手渡すと、


「アッハ、旅は道連れ世は情け、メイドの土産は腹八分目! マスターたち、どんどん乗っちゃいなヨ!」


 と、とても気前よく乗せてもらえた。なんか口調も目つきもおかしくなってたけど。


 俺はゴミ魔剣をおっさんに預けたまま、ユリィとフィーオと共に荷馬車の荷台に乗り込んだ。幌がついている荷台だった。荷馬車はすぐにモメモ目指して街道を進み始めた。ゴトゴト、ゴトゴト。予想通り、乗り心地はあまりよくないのであった。


 俺とユリィはしばらく気まずい空気のまま無言だったが、フィーオはやはり、空気の読めないアホのままだった。


「ねー、トモちんってすごく強いよね? なんで? どうして?」


 荷台の中で、俺に実にうざったらしく話しかけてくるのであった。なお、その脇にはフィーオのメイン武器だというバカでかい弓が置かれていた。大の男でも使いこなすのが難しそうな弓だが、この女の怪力なら余裕だろうか。ちゃんと当たるのかは知らんが。


「トモちん、ねーってば! 強さの秘密、教えてよー」


 と、俺が聞こえないふりしてると、今度は正面から顔を覗き込まれてしまった。何か答えないと延々話しかけてくる気か、この生き物。


「別に、昔モンスター相手にムチャやってたってだけだぜ」

「ふーん? モンスター倒しまくってたんだ? それで、あんなに格闘が強くなったんだねー」

「いや、別に格闘だけ得意ってわけじゃ」

「ほんと? 剣とかも使えるの?」

「使えるっつうか、むしろメイン武器なんだが……」


 しかし、よく思い出してみれば、俺ってばこの世界に呼び戻されてから、ひたすら拳で戦ってる気がするな? おかしいな、俺? 勇者様なのに、まるで武闘家じゃねえか。


「あと、こういう弓とかも使えるぜ。武器の扱いは一通りマスターしてるからな」


 そうそう、その場の流れでハルバード使ってた時もありましたよね、俺。


「あ、そっか。トモちん、昨日もハリセン使いこなしてたもんね――」

「って、おま、何言ってんだ!」


 俺はあわててフィーオの口を手でふさいだ。ハリセンがどうのとか、近くにいるユリィに聞かれたらどうすんだ、アホ!


「フィ、フィーオ、俺たち秘密同盟だろ! 思い出せ! 昨日ことは一切合切秘密なんだよ!」

「あ、そうだったね! トモちんとアタイ、秘密同盟! わーい!」


 と、フィーオははしゃいで、またしても俺に抱きついてきた! めりめり。うーん、やはりこの女、前世はハスキー犬か何かか?


「……相変わらず、仲がいいんですね」


 気が付くと、そんな俺たちをユリィがまたしても不機嫌そうな顔で見ていた……。


「いや、これは違う、ユリィ――」

「別にいいんです。もう何もおっしゃらなくても」


 ユリィはかつてないほどトゲトゲしい言葉遣いだった。俺と目が合うと、またぷいっと顔をそむけてしまった。


 俺の呪いのことを心の底から心配してくれた、あのやさしいユリィはどこに行ったんだろう……。なんだか、泣きたくなってきた。あと、頭の悪いハスキー犬みたいな女も早くどっかに捨てたいなあ、ちくしょう!

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