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「あれ? 俺はいったい何をやって……」
気がつけば、俺の周りに動く者はなくなっていた。ただ鎧姿のまま横たわっている兵士たちの姿が無数にあるだけだった。
「こいつら、死んで……は、いないか?」
その一人に顔を近づけると、かろうじて呼吸はしているようだった。やはりハリセンで手加減したのがよかったか。
「わー、覆面クン、超つよーい! みんな倒しちゃったね☆」
そんな俺のもとに、小型のドラゴン、フィーオが飛んできた。
「俺は別に、こいつらを倒しに来たわけじゃなかった気がするんだが……?」
どうしてこうなったんだっけ。まだかなり酔いが残っていて、よく思い出せない。
「いーじゃん。この調子で、あっちの軍隊も倒しに行こうよ!」
「ああ、確か、聖ドノヴォン帝国とやらも兵を集めてるはずだっけ」
「そーだよ。こっちの軍隊だけ倒しちゃったら、不公平だよー」
「それもそうか」
このまま街に帰ったら、俺はその聖ドノヴォン帝国とやらの勝利を手助けしただけになるからな。それはアカン。俺が救ったこの世界において、勝利者の幸せなど許されるはずはないのだ! 絶対に!
「よし、このまま聖ドノヴォン帝国の軍の駐留場所に行こう」
俺は依然として酔いでおぼつかない足取りのまま、フィーオの背中に乗った。フィーオはまたしてもすぐに飛び立った。
「ねー、覆面クンってなんて名前なの?」
移動中、ふとフィーオが尋ねてきた。
「ああ、俺はトモキだ」
「トモちん?」
「トモキ、な」
「うん、わかった、トモちん!」
わかってねえ。が、めんどくさいので、もうその呼び名でいいか。あだ名みたいな響きだしな。
やがて、俺たちは聖ドノヴォン帝国の軍の駐留地点を発見し、ロザンヌ公国の時とまったく同じ流れで、反戦の願いを込めた話し合いからのハリセン無双で軍を壊滅させ、街に戻った。そのころには酒もだいぶ抜けていた。
そして、当然――、
「ちょ、俺、今まで何をやって……」
自分のしでかしたことの大きさに、そこで初めて気づく俺だった。酔った勢いで、ハリセン片手に二つの国の軍を壊滅させちゃったって何? どんなやらかしなの、俺!
「トモちん、今日は楽しかったねー」
フィーオはしかし、事の深刻さなどまるでわかっていないようだった。俺たちが今いるのは街のはずれの、人気のない路地裏だ。すでにフィーオは人の姿に戻っていて、皮のワンピースを着ている。
「フォーオ、頼む! さっき俺がやったことは誰にも言わないでくれ!」
「えー、なんでー?」
「なんででもに決まってるだろ!」
どう考えてもバレたらお縄になるに決まってんだろ、このハイパーやらかし! そこはわかれよ! 察しろよ!
「フィーオ、俺がさっきやらかしたことは、ようするにただのテロ行為だ。反戦を訴えながらテロに走るのは、俺が前いた世界ではそう珍しくないことだったが、事情はどうであれ、テロはあかん! 大義名分があってもあかん! つか、そんなんなかったし、俺たちただの犯罪者ですやん!」
「えー、犯罪者とか、トモちんなーんか、かっこわるぅ」
「お前も共犯なんだよ!」
俺はフィーオのでかい体を揺さぶりながら、必死に訴えた。ぷるぷるっと、俺の目の前でそのたわわな乳が揺れるが、今はそれに目を奪われている場合じゃあ、ない!
「お願いだ、今日のことは俺たち二人だけの秘密にしよう!」
「あ、二人だけの秘密って響き、ちょっといいかもー?」
「ですよね! ですよね! 俺たち今日から秘密同盟!」
「わーい、秘密同盟!」
「わーい!」
よくわからんが、秘密を守ってくれる気になったようだ。俺は、ウキウキのフィーオとハイタッチしながら、「秘密、秘密な!」と、さらに念を押した。
そして、
「じゃ、じゃあ、もう俺、宿に帰るから」
フィーオの前から速足で走り去った。
「トモちん、また遊ぼうねー!」
と、後ろから、そんな無邪気な声が聞こえてきた。
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