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「ねー、ねー、覆面クンはこれからどうやって北の平原まで行くつもりなの?」
俺に追いついてきたところで、横からフィーオが尋ねてきた。
「どうって……馬とか?」
俺は千鳥足で街中を歩きながら適当に答えた。泥酔状態で勢いのまま店を飛び出してきただけだ。当然、圧倒的ノープランだ。
「馬だと時間かかっちゃうんじゃない? やっぱ空飛ぶのが早いよー?」
「空か。飛竜でもチャーターするか」
うーん、でもアレ、めっちゃ高いんだよな。ヘリみたいなもんだしな。ユリィから預かっている金にはあまり手を出したくないし、ここはレイナートの王室あてにでも料金請求してもらうか? おそろしい勇者様の名前出せば、あいつら金出すだろ、さすがに。王様なんて俺に二回も殴られたしな……。
と、俺がぼんやり考えてると、
「飛竜なんていらないよー。アタイ、空飛べるし」
と、フィーオは急に立ち止まり、その場でいきなりワンピースを脱ぎだした! そう、人通りの多い真っ昼間の往来のど真ん中で!
「お、お前、何やって――」
と、俺がぎょっとしたのも一瞬だった。そう、次の瞬間には、その体は小型のドラゴンに姿を変えていたからだ。翼をたたんだ状態で大型バイクぐらいの大きさだ。ついでに、フィーオがワンピースを脱いだ瞬間にカンスト勇者アイで確認したが、その裸体の乳首も股のところもウロコで覆われていて、肝心なところは何も見えなかった。うーん、残念無念。
「さー、アタイの背中に乗ってよ、覆面クン」
ドラゴンに姿を変えても会話は普通にできるようだった。声の感じはさすがに違うが。
「そうか、北の平原まで連れてってくれるのか。サンキュー」
第一印象は最悪だったし、ウロコの配置具合も不親切だが、意外といい奴か、この女。俺はお言葉に甘え、さっそくフィーオの背中に乗った。ちゃんと脱ぎ捨てられていたワンピースを回収して。たちまちフィーオはその翼を広げ、空に舞い上がった。街の北にあるという平原を目指して。乗り心地は意外と快適だった。早さもなかなかだ。酔いで火照った頬に、冷たい上空の風が当たって気持ちいい。うほー、サラマンダーより、ずっとはやい!
やがて、目的地の平原が見えてきた。上空から見ると、その南側の少し木が生えている場所に、軍隊が駐留しているのが見えた。おそらくあれは、ロザンヌ公国の先陣部隊とやらだろう。俺たちはすぐにその近くに降りた。そして、フィーオをその場に残し、俺はふらつく足取りで駐留地点に向かった。
「お、お前、何者だ!」
当然、俺はすぐに見張りの兵士に見つかり、囲まれ、剣やら槍やらつきつけられた。
が、そんなことで、俺の決意が揺らぐと思ったら大間違いだ、雑兵ども!
「いいか、俺はお前たちを説得しに来ただけだ! 武器を捨てて話し合おう!」
「何を言う! お前のほうはしっかり帯剣しているではないか!」
「あ……」
そう言えば、捨てられないゴミ魔剣が常に俺の腰にありましたね、あっは。
「いや、これ武器じゃないから。避雷針だから」
とりあえずゴミ魔剣を鞘ごと腰から抜いて、目の前の地面に突き刺した。うーん、アースアース。(酩酊)
「で、まあ、話なんだが、ようするに俺は戦争反対と言いたい!」
「何をバカな……」
「バカじゃないっ!」
と、俺は罵倒してきた兵士に裏拳を見舞って、怒鳴った。兵士はフルフェイスの兜をかぶっていたが、それは俺の拳でへこみ、その重装備の体も十メートルは吹っ飛ばされたようだった。
「こ、こいつ――」
「話し合いに来たと言ったのに、いきなり攻撃してきたぞ!」
「しかも――強い?」
とたんに、兵士たちに緊張が走ったようだった。いいから俺の話を聞けよ。
「何事も話せばわかる! 暴力では何も解決しない!」
「いや、お前今、俺たちの仲間を殴ったよね?」
「殴ってない!」
どごっ! 口答えをしてきた兵士の横腹に回し蹴りを見舞った。その重装備の体は、やはり十メートルは吹っ飛ばされたようだった。
「いいか、よく聞け! 戦争はいかん! 戦争で不幸な人間がたくさん生まれるからいかんってわけじゃない! それはいい! むしろ大歓迎だ! だが、実際のところ、戦争で幸せになる人間も多い! 負けたやつはざまぁで終わるが、勝ったやつは褒美がもらえるし、出世もするだろう! そんなのおかしいだろう! もっとみんな不幸になれよ! 不幸になって俺のところに来いよ!」
「こ、こいつ何言って……」
兵士たちはさらに、俺に謎の恐怖を感じたようだった。
「いいから、
「いや、夢想家というか、お前ただの頭のおかしいやつだろ――」
「うるさいっ! お前の勝手なイメージを押し付けるな!」
どこっ! おかしいと言われた頭で、その兵士に頭突きをかました。やはり、その重装備の体は(以下略)。
「そ、そこの、覆面のお前! さっきから言ってることとやってることがめちゃくちゃだぞ! いったい、何がしたいんだ! 俺たちには何が何やらさっぱりわからん――」
「俺もわからん」
「えっ」
「わからんが……俺たちがわかりあえないことは、よくわかった!」
俺は瞬間、地面に突き刺していたゴミ魔剣を取り、鞘から抜いた。ぎらりと、その刀身が陽光を受けてきらめく。
「き、貴様、ついに本性を現したな!」
「やはり、聖ドノヴォン帝国からの刺客であったか!」
「シカクじゃない! まぁるくって、ちっちゃくて、さんかくだ!」
そうそう、あの飴、おいしいよね。年に一回ぐらい食べたくなるわー。もう食えないけどさ。
「安心しろ。俺は人を殺さない。ちゃんと
剣術レベルも当然マックスだからな!
「ただ、念には念を入れて、ここは俺の魔剣に殺傷力ゼロの武器になってもらうか。あ、逆刃刀なんてダメだぞ、ネム? 逆刃刀で殴っても人はだいたい死ぬからな? 本当に、マジで俺が使っても人が死なない武器で頼む!」
『いえーす、マスター』
瞬間、ネムはその姿をハリセンに変えた。よし、これなら問題ないか。
「貴様、まさかそんな玩具のようなエモノで我々ロザンヌ公国正規軍を相手にするつもりか!」
「たかが一人に、またずいぶんと舐められものだ! 片腹痛い!」
と、俺がハリセンを手に掲げた瞬間、兵士たちは俺にいっせいに襲い掛かってきた。
そして直後――彼らは俺の反撃のハリセンパンチやハリセン飛び蹴りやハリセン空気投げなどで、ぶっ飛ばされるはめになったのだった。
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