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 変態女との通信を終えると、俺はそのまま郵便屋を出て、ユリィの待つ宿に向かって歩いた。実に憂鬱極まりない気持ちだった。まさか本当に、幸せになったら死ぬ呪いがかけられてるなんて……クソが! あの竜、うっかりワンターンキルしてしまったが、最後っ屁の呪いを俺にかける余力もないほどに、痛めつけて殺すべきだった! なぜ十五年前も今も、世界さいつよレベルのモンスターにクリティカルしちゃうのか。そんなに俺強すぎか、ハハ……。


 しかし、落ち込んでばかりもいられない。サキには一応、相談したのだし、呪いの解決法はそのうち見つかるかもしれない。つまりそれまで、バッドエンドフラグ回収に至るような、超絶ハッピーなイベントを回避すればいいだけの話じゃないか? そんな幸せなイベントなんて、そうそう起こるはずもないし。そうだ、よく考えれば、俺、今のところそこまで幸せな感じでもないな? なーんだ、意外とたいした呪いじゃないじゃん、ハハハ! 


 と、気を取り直したところで、宿についたので、俺はそのまま自分の部屋に戻った。扉を、無造作に開けて。


 すると――、


「きゃあっ!」


 という悲鳴とともに、俺の目に、黒髪の美少女、ユリィの下着姿が飛び込んできた。なんと、ちょうど着替えているところだったのだ!


「す、すまん!」


 俺はあわてて部屋の外に出て扉を閉めた。はわわ、なんか今すごく幸せな景色を見た気がするぞ……。


 それはほんの一瞬だったが、それゆえに逆にまぶたに強く焼き付いてしまったようだった。ユリィは素肌の上に、裾の長いタンクトップのような、ノースリーブの白いシュミーズを着ていたが、それは露出こそ控えめながらも生地がかなり薄いものらしく、その下に隠れている体のラインやら、パ、パンツやらが透けて見えていた! ブラはしてなかったようで、シュミーズの胸のところに二つのぽちっとしたものがあるのはしっかり確認できたし、ふっくらとほどよく育った二つのふくらみもうっすら見えた。見えちゃった! シュミーズの襟ぐりからのぞいているユリィの素肌は雪のように白くて瑞々しい感じで、長い黒い髪がさらっとそこに流れていて、優美で繊細で、どこかはかないような楚々とした雰囲気があった。そして、それでいて、薄いシュミーズ越しに透けているパンツは意外と生地の面積が少なくて、いやらしかった! お、おう……なんという眼福な光景! 今朝はユリィに特別なミートパイを作ってもらったし、今は今で、こんな突然のラッキースケベタイムで、俺ってば、なんて幸せ者なんだろう。ぐへへへ……。


 しかし、そんなふうに宿屋の廊下でニヤニヤしているところで、頭の中でゴミ魔剣の声が響いた。


『マスター、あんた人の話聞いてたんですか? そのまま幸せゲージためてりゃ、バッドエンド直行で死ぬっすヨ?』

「はっ!」


 そうだった! 思い……出した! 俺は幸せになっちゃいけない人間だった!


「ま、まあでも、たかがユリィの下着姿見たぐらいで、死ぬとか、そんな――」

『いや、ぶっちゃけ今、相当ヤバイ領域でしたヨ。アンタ、あの娘にときめきポイントためすぎ』

「ためてないから、そんなポイント!」


 イオンカードじゃねえんだぞ。


「そりゃ、確かに幸せな風景ではあったけどさ……あったけどさ? 肝心なところはちゃんと隠れてて、うっすらとしか見えてなかったんだぜ。さすがにそんなんで、死んでもいいと思えるほど幸せになるかよ」


 そうだ、今のは週刊少年ジャンプにそのまま掲載できそうなくらいの、健全なラッキースケベでしかなかった。矢吹先生ならコミックスで乳首を解禁してくれるかもしれないが、この世界に矢吹先生はいないのでセーフだ! 俺もリトさんじゃない!


 だが、そこでゴミ魔剣はさらに言うのだった。


『マスター、ここだけの話、あの娘は相当危険ですぜ? マスターにとっては、バッドエンドフラグそのものだと言ってもいい』

「な、なにを突然……」

『いいから目を閉じて想像してごらんよ。あの娘が自分の恋人になっちまう未来とかさあ』

「いや、そんなん、急に言われてもな……って、あれ? あれえええ?」


 言われた通りイメージしたら、なんかめっちゃドキドキしちゃうんですけど! ユリィに毎日あんな美味しいミートパイ作ってもらうとか、手をつないで一緒に街中を歩いたりとか! それで、デートが終わったら、二人で近くの宿屋にシケこんで、イチャイチャしちゃってるうちに、二人の体の距離は密になり、チューなんかしちゃって、その後は……うおおおっ! その先は未知の領域すぎてよくわからんけど、なんかすごい世界が待っているはず!


『つまり、マスター、アンタってば、あの娘にゾッコンラブなのさ』

「そ、そうのようだな……」


 認めるしかなかった。BJ先生の漫画の誤植みたいなセリフで認めるしかなかった! だって、今イメージした俺の恋人のユリィ、めっちゃかわいかったんだもん! 妄想とはいえ、俺、あいつの彼氏になってめっちゃ幸せだったんだもん!


『しかし、マスター。ここで思い出されるのがマスターの前世の死因ですネ?』

「う……」

『バッドエンドしちまいましたネ? 愛しいあの子に刺されちまってさあ』

「うわあああっ!」


 つれえ。思い出すとマジつれえ! あんな悲しい最期だけは、もう絶対に繰り返したくない!


「あれが呪いによるものだとすると、今の俺がまた誰かに告白しようとすると、同じことが起こるかもしれないってことか?」

『せやでー』

「そ、そんな……」


 恋心を自覚した瞬間に、つきつけられる、この事実! あんまりだあ……。


「でも、ユリィは俺が何を言おうと、別に俺を刺し殺したりはしないだろ?」

『ノンノン。ディヴァインクラスの呪いをなめてはいけませんヨ。そういう、本来、起こるはずのないことが起こりうるように、呪いの発動と同時に、世界の因果の流れが書き換えられてしまうのデス。それがバッドエンド呪い!』

「く……」


 なんていやらしい呪いなんだろう。俺を絶対に幸せにしない方向に全力とか!


『というわけでマスター、呪いをどーにかするまでは、あの娘とは、今のままの、ふわっとした関係でいましょうネ? でないと、アンタ……死ぬぜ?』

「そ、そうだな……」


 告白なんてもってのほかのようだ。今回ばかりは素直にゴミ魔剣の言葉に従うしかない俺だった。




(※カクヨムの基準がよくわからないのですが、今回は主人公が性的な何かを感じたようなので、今回から一応「性描写あり」にしときます。この世界に矢吹先生いないけど)

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