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「なんでお前がここに……」
「説明は後よ! 早くそれを取りなさい! ジオルゥの父親が作った、正真正銘の、本物の魔剣よ!」
「マジか!」
まだどっかにあったのかよ! 王様のヒステリーで全部捨てられたんじゃなかったのかよ! あわてて前に飛び出し、床に突き刺さっているそれを手に取った。
が、思いのほか深く刺さっていて、それはなかなか抜けなかった……。
「って、なんだよ、こんなときに!」
カブを抜くような体勢で必死に力をこめるが、やはり機体が活動限界なんだろう、びくともしなかった。つか、なんだこの空気読まない魔剣! エクスカリバー気取りかよ! 俺、アーサーじゃないから、抜けないってことかよ!
「そうはさせないわよ!」
と、抜けない魔剣と格闘していると、後ろからバジリスク・クイーンが猛烈な勢いで飛びついてきた。のわっ! そのまま機体をバジリスクツイストで締め始めるが、とりあえず今は必死にこらえるしかなかった。早く抜けろ、魔剣!
「マスター、こういうときは呼吸が大事デス! ヒッヒッフー、デス!」
「それ、ラマーズ法じゃねえか! 出産じゃねえんだぞ!」
「なーに、抜くも出すも似たようなもんでさあ。大事なのは力むタイミングなのデス。さあ、ご一緒にヒッヒッフー!」
「あー、もう、わかったよ! ヒッヒッフー!」
「ヒッヒッフー!」
「フー!」
と、産婆と妊婦のようにネムと呼吸を一つにすると、瞬間、剣は抜けた。というか、勢いあまって、すぽーん!と、向こうに飛んでいってしまった。ついでに、俺もバジリスク・クイーンごと後ろに尻餅をついてしまった。どすんっ!
と、そこで何かとても嫌なゆれを感じた――。
《警告! 内部バッテリーの異常な高温を検知しました!》
突然、こんな警告文が目の前に出てきた。赤い、妙にデカい文字で。
《搭乗者はただちに機体を放棄し、避難してください! 爆発のおそれがあります!》
「え? 今? 今そのフラグ回収するの?」
《というか、もう爆発します! ごめんなさい! 我慢できないっ!》
「な――」
ちゅどーん! 次の瞬間、俺たちの乗った機体は爆発した!
「うわあっ!」
爆風で俺たちは上に飛ばされ、放物線を描いて近くの床の上に叩きつけられた。そして、その衝撃で、俺は自分の意識が元の自分の体に戻っていることを悟った。ゲロくささから解放されたことも。
だが、自分の体に戻れて、感激している場合ではなかった。俺のやるべきことは一つだった。そう、少しはなれたところに落ちている魔剣を回収することだ。ただちに、そちらに走った。
「取らせるものですか!」
と、バジリスク・クイーンも少しはなれたところから、ゴキブリのようにものすごい速さで四肢を動かし、魔剣に駆け寄ってきた! やばい、あいつより先に魔剣を手にしないと!
「うおおおおっ!」
「ハアアアアッ!」
俺たちはともに絶叫し、魔剣めがけて突進した。まるで一つのボールを奪い合うスポーツ選手のように。この争奪戦、絶対に負けるわけにはいかない! 魔剣を先に手にするのはこの俺だ! 全身全霊の力をこめて、猛ダッシュした!
そして――
「と、とったどおおおおっ!」
からくも、ギリギリのところで、俺はバジリスク・クイーンより先に魔剣を取ることができた! やったよ、俺! すぐにバジリスク・クイーンから離れて、それを手に持ち、構えた。それはやはり、かなり強い力を秘めた魔剣のようだった。持っているだけで、ただならぬオーラのようなものが感じられた。ジオルゥの親父が作ったものだそうだし、きっと、間違いはないんだろう。
「今度こそ、てめえも終わりだな! 覚悟しやがれ!」
もう迷うことは何もなかった。その魔剣を両手で強く握り締めると、バジリスク・クイーンに突撃した! これでてめえも真っ二つだあっ!
だが――なんということでしょう。その魔剣もまた、やつのバリアで止まってしまった。キュイイイン、と、低い音を立てつつ、火花を散らしながら。
「なんだよ! これでもダメなのかよ!」
いらだちつつ、俺はとっさに後退した。バリアで止まったとはいえ、攻撃の反動はなさそうだった。また、バリアを斬りつけた時の感触も、さっきまでのネムよりずっと手ごたえがあった。そう、後一歩、もう少しだけパワーが足りないような感じだ。
「あらあら。満を持して登場した秘密兵器だったのに、役立たずのガラクタだったとはねえ」
「う、うるさいっ!」
違う。こいつは確かに本物の、すごい力を秘めた魔剣だ。俺にはわかる。勇者としての勘がそう告げている。それに、あのクソエルフだって、それを確信したからこそ、ここまで持ってきたはずなんだ――。
と、そのとき、
「……マスター、その剣はしばらく使われていなかったのでショウ。今は寝起きで、まるで寝ぼけているようですヨ?」
後ろからマオシュの、いや、ネムの声がした。はっとして振り返ると、爆風でズタボロになりながらも、よろよろと立ち上がるキツネの姿があった。その手にはゴミ魔剣が握られている。
「ここはワタシが、その目を覚まさせてあげま、ショウ……ぐふ!」
と、キツネは吐血した。
「目を覚まさせるって、お前、そんなボロボロで何ができるんだよ? 早く回復魔法チームのところにマオシュの体を持っていけ――」
「ご心配なく。ワタシのマスターへの愛はこんなことぐらいでは、折れませんヨ!」
ネムは瞬間、自分自身であるゴミ魔剣を口にくわえ、四足歩行で身を低くして一気にこちらに駆けてきた――いや、跳躍してきた!
「うわっ!」
一瞬のうちに、キツネは俺のすぐ目の前まで跳んできて、さらにもう一回ジャンプした。そして、口にくわえたゴミ魔剣を俺の握っている魔剣に当てた。刀身をクロスさせるように。
瞬間、そこからまばゆい光があふれた! うお、まぶし!
「な、なんだこれ……」
見ると、その光の中で、ゴミ魔剣と魔剣は一つに融合しているようだった。
やがてすぐに、光は消えた。そこに現れたのは、やはり一本の剣だった。だが、その輝きは先ほどとは違い、どこか神々しく、かつ不可思議だった。こんな輝きの剣、見たことない……。
「よし、これなら!」
今はその輝きを信じるしかなかった。俺は再び魔剣を強く握り締めると、バジリスク・クイーンに斬りかかった!
「うおおおっ! 今度こそ、切り裂けええっ!」
渾身の力をこめて、それをトカゲの体に振り下ろす。当然、刃がやつの体に接触する直前でバリアが発生するが、この真・魔剣ならそれは通用しな――いわけでもない? なんと、またしても刃はそこで止まってしまった。
だが、その手ごたえは、さっきよりずっと強かった。反発の火花のきらめきも、ずっと強い。これは――いける! 俺はさらに腕に力をこめた。うおおお、破れろ、バリア!
と、その瞬間、ばりーんという音が響いた。
音の発生源の一つは俺の握っている魔剣からだった。それがガラスのように粉々に砕けた音だった。
そして、もう一つの音の発生源は、バジリスク・クイーンのバリアからだった。それもまた、魔剣が砕けると同時に、ガラスのように割れて消滅してしまったのだった。
「バカな……」
とたんに、トカゲは強い焦りをあらわにした。そして、その表情から、俺は、砕けてしまった魔剣がちゃんと役目を果たしたのだと確信した。
「どうやら、ついにお前はバリアを失って、丸裸になっちまったようだなあ!」
「な、何を言ってるの? バリアぐらい、今の私ならすぐに回復――」
「させるかよっ!」
俺はただちにトカゲの懐にもぐりこみ、その巨体に拳を叩き込んだ!
「ギャアアアッ!」
思ったとおりバリアは一切発生せず、俺の拳はクリーンヒットした。トカゲは前に大きく吹っ飛ばされ、向こうの壁に激突して、血反吐を撒き散らした。鱗の色も、銀から赤に変わった。
「てめえはもう終わりだ!」
俺はさらに前へ飛び出し、トカゲに迫った。
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