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やがて一回戦は全て終わり、敗者復活戦のバトルロイヤルの試合が始まった。
そして、それは――ごく短時間で終わった。目つきのおかしい銀髪のイケメンが次々と他の選手たちを倒していき、勝ち残ったのだった。
「さすがです、ザドリー選手! 前回優勝者の意地と貫禄を見せつけてくれました! まさに圧勝!」
と、実況がまたノリノリで解説する中、リング上の銀髪のイケメンのもとに、運営委員からマイクが手渡された。ヒーローインタビューという感じか。
「イエーイ! そこのアナタ、ワタシの活躍に、シビれてくれましたかー?」
と、やつはいきなり、俺たちのいるVIP席に向かって、手を振りながら叫んだ。
「さすがにまずいんじゃないですか、智樹様。魔剣さんの力で勝つなんて」
ユリィは眉をひそめつつ、俺に耳打ちする。
「いいんだよ。あいつが負けっぱなしのほうがめんどくさいんだから」
そう、あの後、俺はすぐにザドリーの控え室に戻り、こっそりやつの剣を、ゴミ魔剣とすり替えておいたのだ。もちろん、交換するときは、やつが使っているものと形をそっくりに変えさせておいた。
その結果はご覧の通り。俺の予想通り、ザドリーの体を乗っ取ったネムは、おそろしく強く、こうして楽々二回戦に進むことができたというものだ。うむ、めでたし、めでたし。
「あのまま決勝まで、ネムをあいつに押し付けておこう。あいつの素の状態じゃ、二回戦以降も負ける可能性があるからな」
「だ、だめですよ。これ以上、ズルしちゃ。ザドリーさんも怒ってしまいます」
「まあ、確かに、自分があんな状態になってたら、困るか……」
俺はちらっとステージ上のイケメンを見た。目つきのおかしいそいつは、挙動もだいぶおかしかった。「ヒャッハー」と高笑いしながら、観客席のほうに手を振りまくっていた。かなりハイテンションになってるんだろうか。元のザドリーとキャラが全然違いすぎる。
「あのままだと、あれはあれで何かめんどくさいことになりそうだな?」
「そうですよ。私たちはザドリーさんを信じて、これ以上干渉しないようにしましょう」
「しゃーねーな」
俺たちはその後すぐに、ザドリーの控え室に行った。そして、ザドリーの体を乗っ取ったまま、全力で俺にじゃれついてくるネムをなんとかなだめて、回収し、本物のザドリーの剣をそのへんに適当に置いた。
ザドリーはすぐに正気に戻った。
「あれ? 僕は確か、敗者復活戦をしていたはず……」
どうやら意識がそこから飛んでいるようだ。その途中でネムに体をのっとられたって事か。
「し、試合はいったい、どうなって――」
「落ち着け。お前が勝ったんだよ。よかったな、無事に二回戦進出だぞ」
「え? 僕が勝った? そんな記憶はないが?」
「そりゃお前、戦いのさなかに闘争スイッチが入って、わけわかんねえ状態になったってことだろ。覚醒モードってやつだ。だから記憶が飛んでるんだよ。よくあることだ」
「いや、僕はそんな経験は今まで一度も……」
「あるある! 剣士ならこれぐらい絶対あるある!」
俺はザドリーの肩を強く揺さぶって、叫んだ。
「そ、そうか。君が言うなら、たぶんそうなんだろうな……」
ザドリーは首を傾げつつも、俺の剣幕に飲まれたようだった。よし、これで何の問題もないな。剣も返したし。
「じゃあな、明日の二回戦もがんばれよ」
そう言うと、俺たちはすぐに控え室を出た。そして、屋敷に戻り、翌日、再びコロシアムに赴いた。二回戦を観戦するために。
一回戦同様、ザドリーの試合はかなり早くに回ってきた。対戦相手はイリスという名前のやつらしかった。
「こんなやつ、昨日いたっけ?」
昨日と同じVIP席で、俺はユリィに尋ねた。
「私たちがザドリーさんの控え室に行っている間に試合をした人ですよ、きっと」
「ああ、なるほど。そりゃ見てないわけだ」
いったいどんなやつなんだろう。とりあえず、その登場を待った。するとやがて、ザドリーがステージに上がった直後、そいつは通路からゆっくりステージのほうに歩いてきた。遠くから見る限り、長い金髪を頭頂部でお団子にしてまとめた少女のようだった。素手で戦うつもりなのだろうか、武器らしきものは持っておらず、道着のようなものを着ており、体つきは華奢で、耳がとがっていて、その顔立ちはよく整っていて……って、あれ、なんか見覚えのある人じゃない?
「ティ、ティリセじゃねーか!」
そう、その格闘少女はどう見てもあのクソエルフだった。
「ティリセ様、この大会に出てたんですね」
「巡礼の旅に出るんじゃなかったのかよ」
俺たちは目を見開いて驚くほかなかった。ティリセがリングに上がるや否や、一部の男の観客たちから声援が次々と飛んできた。まるでライブ前のアイドルを応援するかのように。
「おーっと! 可憐な格闘美少女の登場に早くも場内はヒートアップ! 一回戦では華麗な戦いを見せてくれたイリス選手、前回優勝者のザドリー選手相手に、どう戦うのでしょうか!」
実況も心なしかテンションアゲアゲだ。なるほど、すでに格闘系美少女アイドルって扱いなのか。確かに、あいつは見た目はいいからな。見た目はな……。
「でも、ティリセ様って本当は魔法使いでしょう。格闘なんてできるんですか?」
「まあ、あいつは魔法ぬきでも、そのへんのやつよりよっぽど強いからな」
ただ、相手はザドリーだ。そこそこ強いやつだ。今まで盗賊やら聖職者やら人生の寄り道をしてきた魔法使いのエルフ少女が、そうやすやすと勝てる相手でもない気がするが、果たして……。
試合が始まる直前、またしてもザドリーはマイクを使って、高らかに宣言した。
「僕は相手が女性だろうと、手は抜かないつもりだ。なぜなら、僕はこれ以上、絶対に負けられないからだ。僕の愛する女性のために!」
しーん。当たり前だが、観客たちの反応はしらけたものだった。この期に及んで、まだ愛とか寝ぼけたこと言ってるのかという感じだし。
「ザドリーさん、またあんなこと言って大丈夫なんでしょうか。相手はあのティリセ様ですよ」
「まあ、魔法抜きならいい勝負するだろ。少なくとも一回戦みたいに瞬殺されることはないはず――」
と、そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。ありました。
直後、俺たちは勝敗が一瞬で決するのを目撃した。
そう、試合開始の合図と同時に、ティリセは恐ろしい速さでザドリーの懐に飛び込み、猛烈に殴る蹴るのラッシュをキメたのだ。どかばきどこっ!
そして最後に、ティリセの回し蹴りでザドリーの体はリング外に吹っ飛ばされ、また壁に激突した。今度はハルバードで串刺しにこそされなかったものの、顔は原型がわからないくらいにボコボコになっているようだ……。
「……あ、あれ?」
あいつ、また一瞬で負けたのかよ! なんなんだよ! もはや、ボカーンと口をあけて呆けるほかなかった。
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