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「ふ……ふざけんな、てめえら! 何勝手に人を盗撮して全国ネットで配信してんだよ!」
俺はもう、ブチ切れるほかなかった。
「こ、この国には、個人情報保護法とか、肖像権とか、未成年の人権に対する配慮とかないのかあああっ!」
「まあまあ、そんなに興奮なさらずとも」
黒ローブたちはやはり全然、俺の気持ちを察してないようだった。
「悪しき魔物たちと戦う勇者様は、とても凛々しく頼もしかったです。そのお姿に国中が感動したことでしょう」
「恥ずかしいお気持ちもわかりますが、そんなの最初だけですよ?」
「そうそう。だんだん、気持ちよくなって――」
「うるさい! いいから早く訂正の放送を流せ! こんなのドッキリだったってなあ!」
「はあ? わかりました」
黒ローブの一人がなにやら画面を操作しはじめた。そしてやがて、「流すのはこれでどうでしょう」と、訂正用の動画を俺に見せた――が、そこに映っているのは、股間にモザイクが入っただけの全裸で、魔物の一匹相手にマウントポジションしている俺の姿だった。テロップには、「衝撃! 王都に突如現れた謎の野生児、魔物たちを次々レイプ!」とある……じゃねえええっ!
「な、なんだこれはあっ!」
思わず殴っちゃった! グーで黒ローブの一人を殴っちゃった俺だった。
「なんで俺が裸になってんだよ! 意味がわからないよ!」
「いや、服というのは個人の情報を最も特定されやすい要素ですから、まずそれを排除するのが、恥ずかしがりやの勇者様のためかと」
「じゃあ、なんでこのテロップなの! なんで魔物をレイプなの! 俺、バカなの、変態なの!」
「こういう動画を作ってみたら、やっぱりしっくりくるのはこのアオリかなあ、と」
「アオリってなんだああっ!」
また殴っちゃった! グーで黒ローブの一人を腹パンしちゃった俺だった。
「いやでも、こっちが真実の映像で、さっきの映像はそれを加工したものだとネタばらしをすれば、まるくおさまるのでは」
「おさまらねえよ!」
俺の人間としての尊厳はどうなるんだよ! つか、なんで股間にモザイク入れて、顔はそのまんまだよ! 根本的におかしいだろ!
「と、とにかく! ふつーに、今の動画はフェイクだったと放送すればいいから! 火消しはそんなもんでいいから! 俺という素材で遊ぶのはもうやめてえ!」
泣いちゃった。怒りが臨界点突破して、ついに泣いちゃった。そういう涙もあるんだね。悲しいとき以外に出る涙って、こんなに熱いものなんだね……うう。
「悪いけど、勇者様、それはもう手遅れだと思うわよ」
と、サキの声が聞こえてきた。はっとして、周りを見ると、いつのまにやら、町中の人たちが俺たちの周りに集まってきていた……。
「あなたが勇者アルドレイの生まれ変わりって本当ですか!」
「動画を見ました! すごくお強いんですね!」
「あなたは魔物たちを倒して王都を救ってくれた……まさに勇者様です!」
「ありがとう、勇者様!」
「ありがとう! ありがとう!」
と、人々は俺の返事も待たずに勝手に盛り上がって、勝手にこっちに迫ってきた。そして、勝手に俺を胴上げし始めた。
「勇者様、ワッショイワッショイ!」
「ワッショイワッショイ!」
「ワッショ……あ、手が滑った!」
どっぼーん! 俺は今度は、噴水の中に落とされた。ぎゃあ、冷たい!
「ああ、勇者様が噴水に!」
「勇者様の浸かった噴水だ!」
「この水はご利益があるぞ!」
「俺たちも入っちまおうぜ!」
「持ってかえって病気のおじいちゃんに飲ませなきゃ!」
どどどどどっ! 人々はそのまま俺の沈んでいる噴水になだれ込んできた。
「ちょ、お前ら、さっきから何やって――」
俺は噴水の中でもがくが、暴力的な勢いだった。興奮した群集って怖い。まるで闘牛祭りの牛だ。もみくちゃにされながら、必死に噴水から出た。今はとにかく、ここから逃げたほうがよさそうだった。
だが、そこで、今度は衛兵たちに囲まれた。俺を待ち構えていたようだった。
「そこのお前、王の命令だ。すぐに城に来てもらおう」
衛兵たちはそれだけ言うと、ずぶ濡れでぐったりしている俺を両脇から抱えて運び始めた。
「あ、あのう……用件は?」
「王はお前とじきじきに話をされたいそうだ」
衛兵たちは俺を抱えてずんすん城のほうへ歩いていく。俺はまるで捕獲されたリトルグレイのような格好で、それに引きずられていった。水滴を地面にぽたぽた落としながら。
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