第36話 底辺冒険者は厄介者にも絡まれる
「フッ。決まった――」
魔法が消滅したのを確認し、《
魔法をもろに喰らった黒マスク2人とランは、全身黒焦げでピクピクと痙攣していた。
完全にのびている。
その様子をしたり顔で見下ろしていると、市場の方から、けたたましい声が聞こえてきた。
『ちょっとーー! どいてどいてっ!』
ボヤ騒ぎを聞きつけた野次馬どもをかき分けるようにして入ってきたのは、青い帽子と制服に見を包んだ女性。
ギルド直属の役人だ。
ギルドの紋章が入った帽子からは茶髪のアホ毛がはみ出している。
「強盗が発生したと聞きつけ、やって参りましたっ!」
ピョンッと髪を跳ねさせながら敬礼をする役人。
「遅いぞ。強盗なら今しがた退治した」
「す、すみませんっ! 今年役員になったばかりなので道に迷ってしまって……。あ、ご協力感謝しまーすっ!」
笑顔で再び敬礼。
この無能どもに俺の血税が使われていると思うと嫌気が指すな。
茶髪の女がハキハキとした口調で続ける。
「それで、強盗の二人組とやらは……どの人とどの人ですか?」
あれ? と首を傾げる茶髪。
そういえば黒焦げになってるのは強盗だけではなかったな。
「ああ、それなら……」
俺は男2人を指差す。
「この黒マスクをつけた2人が強盗だ」
「その隣で一緒に黒焦げになってる女性の方は……」
「こいつはただ巻き込まれただけだから気にしなくていい」
「そうなんですか! 了解であります!」
元気に敬礼する茶髪。
一般市民が巻き込まれてなにが了解なのか理解不能だったが、詳しく追求されるのも面倒なのでそれ以上喋らないことにした。
「それではこの2人の身柄は私が預かりますので!」
黒マスクの2人を軽々とかつぎあげる。
華奢な見た目からは想像のつかない馬鹿力だ。
「まったく、だらしないっすね……」
「ん? 今なんか言ったか?」
「いえいえ! 何でもないっす……じゃなかった、ないですよ!」
ピョコピョコとアホ毛で返事をする茶髪。
「それでは、失礼します!」
役人は最後にもう一度アホ毛を跳ねさせて、2人を両肩に乗せたまま悠々とギルドハウスの方へ去っていった。
騒がしいやつだったな。
「ユーヤ! 大丈夫だった!? ていうかランちゃん黒焦げになってるし!?」
人混みをかき分けてエルとアリシアが駆け寄ってくるなり、ランの変わり果てた有り様を見て驚く。
「そ、そんな、私のせいでランさんが……」
アリシアは自分を責めるように視線を落とした。
自分の魔法で一般人を傷つけてしまったことにショックを受けているらしい。
「気にするなアリシア。こいつが脱出のときにミスっただけだ」
1番後ろにいたランなら逃げることもできたはずだしな。
アリシアのフードをポンッとたたき慰める。
「さ、帰るぞ。とんだくたびれ儲けだったな」
まあギルド役員に多少の恩を売れたと思えばマシか。
「え、でも……」
「回復魔法くらいは……」
帰ろうとする俺の裾を引っ張るエルとアリシア。
どうしてもランが気になるようだが、俺は一刻も早くそいつと距離を置きたい。
というか、これ以上関わりたくない。
「だぁ〜っ、もう! こいつのせいで大変な目にあったのをもう忘れたのか!? こいつと関わるとろくな目に合わないってわかっただろ!? ほら、さっさと帰るぞ!」
「わわっ」
強引にエルとアリシアの背中を押す。
2人に続こうと俺も足を上げ――
……ん?
「足が……上がらない……」
足が何倍にも重く感じる。
力を入れてもびくともしない。
まるで、何かが俺の足にしがみついているような……。
恐る恐る足元を見る。
そこには予想通りにして、予想した中で一番最悪の光景が待ちかまえていた。
「ラン!? お前、不死身か……!?」
力強く俺の足を握りしめる両手。
焦げてボロボロになったカンフースーツに、煤だらけのお団子頭。
紛れもない、さっきまでそこに倒れていたはずのランが、キラキラと目を輝かせながら俺を見つめていた。
「素晴らしいです! 感無量です! このパーティーから並々ならぬチームワークの波動を感じました!」
「チームワークの波動ってなに!?」
ランの口からは前と変わらず"チームワーク"というワードが出てくる。
味方に裏切られて魔法の巻き添えになった人間からは到底想像もできない真っ直ぐな声で。
「あの作戦のどこにチームワークの波動を感じる要素があった……?」
「はい? 素晴らしい連携プレーだと思いましたが? しかも同時に、私をわざと魔法の巻き添えにすることで自己犠牲の大切さを学ばせてくださるというその寛大さ……恐れ入りました!」
「な、なんだと……あれが、自己犠牲……!?」
あんなの自己犠牲でも何でもない!
オトリ、人柱、身代わり……そういう類のものだ。
無論そのつもりでランを巻き込んだはずなのだが……
「不肖この私、ユーヤのパーティーでチームワークの修行に身を投じる所存です!」
本人には全くその意図が通じていなかった。
「そんなものに投じなくていい! お前はもうそのままで十分だ! 十分アレな方向に身を投じている!」
チームワークという概念すらねじ曲がっている頭のおかしいやつとしてな!
「いいえそうはいきません。師匠であるメイメイも仰っていました、『己の進むべき道に終着を用意するな』と! 私のチームワーク道に終着は無いのです!」
「おい! エル、アリシア! こいつをどうにかしてくれ!」
これじゃ埒が明かない。
2人に説得を……
「よくわからないけど、メンバーが増えるのは良いことだと思うっ!!」
「えっと、これからよろしくお願いします。ランさん!」
バカヤロウ!
「2人もこう言ってることですし! ぜひ! ぜひとも!」
「ギャー!? 足がぁぁぁああぁぁぁ!?」
こうして、骨折を回避する代わりに、"ドジっ娘カンフー娘"ランが我がパーティーに加わっ……てしまった。
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