第27話 底辺冒険者と伝説の愛弟子②
ランがニヤニヤとほくそ笑む。
金色にゆらめく眼光は獲物を逃がすまいとする鋭いものに変わっていた。
「くっ! まずいぞこれは……」
いや、まだだ! まだ逃げ道はある!!
「ラン!」
再び武器に手をかけようとするランを呼び止める。
冒険に関係ないところで死ぬのはごめんだ!
関係があってもごめんだが!
「なんでしょう?」
ランは余裕の笑みでこちらを向く。もう逃げる余地はないとでも言いたげな表情だ。
その顔、今すぐできないようにしてやる!
俺はひとつ大きく深呼吸をして、はっきりと、明確に、発音良く言い放った。
「今のうちにハッキリ言っておく。悪いが俺のパーティーは追加メンバーをいっっっさい! これっぽっちも! 募集していないッ! だからラン、お前をパーティーに入れるのは――ムリだッ!!」
俺の直球実直な拒絶の言葉に、ランがさっきまでの余裕の笑みを崩した。
こうやって一度突き放してしまえばしつこく言い寄ってくることもないだろう。
「フッ。決まった――……」
最初からこうすれば良かったのだ。
いらない物はいらない。これが世界の真理だ。
それにしても、まさかこの俺が『パーティーメンバーを募集していない』なんて言う日が来るとはな。
成長というのは恐ろしいものだ。
「そ、そんな……」
自画自賛していると、ランが体を震わせながら詰め寄ってきた。キリッとした目にはまだ力が宿っている。
「なぜです!? ユーヤは金なし根性なしの底辺冒険者のはず。パーティメンバーに困っていないわけがないです!」
「なッ!? どうしてお前がそんなことを知っている!?」
「『実力がないくせにメンバーが集まらないといつも嘆いているんだ、面白いだろ! ハッハッハッ!!』ってレオンがいつも言っていました!! なのに、なのにどうして……」
ランの表情がみるみる内に曇ったものになる。
俺の底辺さに乗じてパーティーに潜り込もうという魂胆だったらしい。
油断ならないやつだ。
あと、レオンはいつか絶対痛い目に合わせてやる。
「そのことなんだが」
レオンへの憎悪はいったん隅に置き、俺は平静を装いながらランを諭すような口調で言う。
「最近の俺のおこないが良すぎるせいか、素晴らしく優秀なメンバーが俺のパーティーに加入してだな。もともと潰し合い――じゃなくて助け合いのできる素晴らしいパーティーだったが、彼女の加入でそのチームワークに更に磨きがかかったんだ」
「チ、チーム、ワーク……!」
ランが眼を大きく見開く。
落胆と同時にどこか羨望すら感じ取れる熱い眼差し。
「そう。チームワークだ。今日だって、冒険で得た報酬を俺は受け取らず、メンバーが冒険者としてさらに高みを目指すための資金として提供したんだ。なにせ、チームワークの良さはリーダーの良さで決まるからな!」
「う、嘘です、そんなの……」
理由はともかく嘘はついていない。
ショックを隠せないランの手足はわなわなと震え、立っているのがやっとの状態だ。
あと少しで――堕ちる!
「信じられないかもしれないが、お前がレオンとともに冒険をしている間に、俺は底辺冒険者を卒業してしまったんだ。だから『底辺冒険者パーティーなら私でも入れてくれるかも!』なんて思わないことだな!」
「な……」
ランがふらふらと漂いながらついにガクッと膝を落とす。
それと時を同じくして、エルとアリシアが到着する。
「もう! 広場に行くんだったら先にそう言ってよー」
「言ったわッ! お前らが買い物に夢中で俺の話を聞かなかったんだろうが」
「あれ? そうだっけ?」
「まあいい。それより、ちゃんと冒険に役立つアイテムを買ってきたんだろうな?」
俺の訝しむような視線を跳ね返すようにアリシアが元気よく頷いた。
「もちろんです! ちゃんとエルさんは魔道具を買って、私もバリ――じゃなかった、ま、魔導書もしっかり購入しました! それより……」
そして不思議そうにランに視線を落とす。
「そこでうずくまっているお姉さんはユーヤさんのお知り合いの方ですか?」
「お姉さん、ね……」
自分勝手で図々しいやつだとしか思ってなかったから気づかなかったが、確かに黙っていればきれいなお姉さんという感じがしなくもない。
「え、ええ! ユーヤと私は友人の友人……つまり簡単に説明するならば友人ということになります!」
その黙っていれば、が難しいんだがな。
俺は復活した様子のランに釘を指す。
「なんだそのとんでも理論は。お前の言う友人の友人ってのは多分レオンのことを言ってるんだと思うが、当の本人はお前のことを友人だとは微塵も思っていないぞ」
「えぇ!? なぜです!? 一緒に冒険までした仲なのに!」
「その仲間に足蹴にされて暴言吐かれて、挙句の果てにパーティーから追放されてただろうが」
「うぐぅ……」
ちなみに俺もレオンのことを友人だとは思っていない。
あいつのことはしゃべる非常用金庫としか考えていないからだ。
「それよりエル。お前本当にちゃんと冒険に役立つ魔道具を買ってきたんだろうな?」
しょげるランのことは放っておき、エルに向き直る。
ランの行く末より必死こいて稼いだ金の行く末の方が数万倍気になる。
俺の問いかけにエルはムフンと鼻を鳴らした。
「もっちろん! わたしのマジシャンとしてのレベルを一気に上げる最強アイテムを買ったよ!」
「ほう。最強アイテムか」
アリシアがうんうんと頷いているのを見る限り、嘘では無さそうだ。
丁度いい。
ランにこれ以上変な期待を持たせないためにも、ここらで一つ、俺のパーティーメンバーの有能さをアピールしておくとするか。
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