第26話 底辺冒険者と伝説の愛弟子
「と、ところで、ラン。お前、本当にあのメイメイの弟子なのか?」
「はい。メイメイは私の師匠で間違いありません!」
きびきびとした口調でランが返す。
その堂々とした態度は嘘をついているように見えない。
だが、自分のことをメイメイの弟子だと思ってる頭のおかしいやつ……という線もありうる。
「……」
「全然信用してないようですね。そこまで疑うなら、私がメイメイの弟子であるという証拠をお見せしましょう!」
と言い放ったと思いきや、ランが突然カンフースーツのホックに手をかける。
「ん? どうした?」
そして、ゆっくりと1つずつ外し始めた。
「お、おい!? いったい何を!?」
ホックを外すたび、体のラインに沿ったスーツの隙間から少しずつ露わになる柔肌。
そして、少しずつ緩まっていく胸元。
ランが緊縛から開放された自分の谷間を指さす。
「ほら! これをご覧ください!」
「ど、どれどれ……」
なるほど……。
団子は頭の2つだけだと思っていたが、それより立派な団子がもう2つついていたとは。
一生の不覚!
俺はランの潜在能力を見誤っていたようだ。
「女っ気の無い衣装のわりに、エルに負けず劣らずの美乳の持ち主だったとはな。こんなこと口では軽々しく言えないが、中々にエロスを感じさせる胸元だな、うん」
「ちょ、ちょっと、どこ見てるんですか!? ここを見てください、ここを!! あと心の声がダダ漏れですから!?」
ランが羞恥の顔で訂正を加える。どうやら胸の上部を見てほしかったらしい。
しかし自分で見せておいて恥ずかしがるとか、訳の分からんやつだな。
胸の膨らみの誘惑に抗いながら、ランが指さす部分に視線を移動させる。
「これは……蝶?」
胸の付け根の辺りに、羽を広げた蝶の入れ墨が彫られている。左右対称に4枚の羽根を広げた黄金の蝶。
「そうです! この入れ墨こそが正真正銘メイメイ師匠の弟子である証です! ほら、あの石像のメイメイ師匠の服にも蝶が描かれているでしょう?」
確かに、石像のメイメイが身にまとっているカンフースーツには、ランの入れ墨と同じく羽を広げた大きな蝶が描かれている。
「いや、だが……。そんなものだけでは信用できない。現に、レオンには呆れられ捨てられていたわけだしな」
そう、その入れ墨が本当に弟子の証だとしても、あくまで冒険者に必要なのは実力だ。
誰に師事してたとか、どこの出身かなんて、冒険においては何の役にも立たない。
それにレオンパーティー全滅未遂の容疑もかかったままだ。
彼女を信用するのはまだ早い。
「フフッ。そう言われるのは百も承知です! なので、今から実演を……」
ランがそんな俺の思考を読み取ったように自慢げに鼻で笑うと、足元に転がっていた布包みに手を伸ばす。
ランのスラっと伸びた身長をゆうに超すほどの長さがあるそれは、棒状の物が集まって収納いる様子から、ランが戦闘の際に使用している武器か何かだろうと予想がついた。
ん?
戦闘? 武器?
待てよ、今……”実演”って言ったか?
「ラ、ラン! ちょっと待て!」
「はい? なんですか? 今からメイメイ師匠直伝の技をご覧に入れようとしたのですが……」
「そのことなんだが、やはり遠慮しておく」
「なぜです!?」
驚きとショックの表情を見せるラン。
なぜですもクソもあるか!
こいつは戦闘中に仲間を壊滅に追い込むほどの凶悪なやつ。そんな危険人物が今から技の実演をするというのだ、きっと何かが起こるに違いない。
ランの実演が終わるころには、俺の命も一緒に終わってる可能性すらある。
「あー……す、すまんッ! そういえば俺、メンバーの買い物に付き合わされてのを忘れていた! わ、技の実演は、またどこかで会ったときにでもお願いすることにしよう……!」
「そんなぁ!? そう言って私から逃げるつもりでしょう!?」
この際、ランがメイメイの弟子であるとか無いとかはどうだっていい。
こいつからはどこかエルやアリシアに通ずる何かを感じる。
弱点、欠点、短所、苦手、デメリット――”戦力外”をつきつけられるような何かを!
俺は逃走を阻止しようとするランを強引に振り払う。
「ま、待ってください!! 私はこれからひとりでどうすれば――!?」
やっぱりこいつ、俺のパーティーに入ろうとしてたのか!
どうりでさっきからノリノリだと思った!
「知るかそんなん! どっかのパーティーに拾ってもらえ! 俺は用事があるからもう行くぞ」
俺がそう言って、ランに背を向けた瞬間――
『あーッ! ユーヤ、こんなところにいた!!』
広場に響く甲高い声。
今一番聞きたくない人間の声が耳の穴をこじ開けるように入ってくる。
エルとアリシアだ。
俺の姿を見るなり2人はトコトコと駆け寄ってくる。
「なッ!? エ、エル!? それに、アリシア!!」
あれだけ待たせておいて、なんてタイミングで登場してやがる……。
「お連れの方……ですか? どうやら用事とやらはお済のようですね、ユーヤ」
ランがニヤついていることは振り向かなくても分かった。
嫌な汗が頬を伝う。
俺は影を踏まれたようにその場から動けなかった。
「ああ、つくづく神に見放されているな……」
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