第7話 底辺冒険者と天才マジシャン!?④
両者、しばし見つめ合いながら沈黙。
先に動いたのは俺の方だった。
「ぎぃやあああぁぁぁ!!!??」
静寂の森に今日イチの悲鳴が響き渡る。
俺はすぐさま飛び起きてエルの方へと走りだす。
「うわ、こっち来ないでよ!」
「うるさい! 誰のせいでこんなことになってると思ってるんだッ!?」
雄叫びをあげながらレッドウルフたちが後を追う。
元々体が赤いから怒ってるかどうかはわからないが、よだれを周囲に振り撒きながら駆ける姿は獰猛そのもの。
殺しにかかってきていることだけは肌で感じた。
「おいエル! どうせならもっと遠くに転移させろ!! なぜよりによって俺の頭上に落とす!?」
マントの回収に手こずっていたエルに簡単に追いつく。
自分が逃げ切ることは全く考えていなかったようだ。
「だってユーヤが私を見捨てて自分だけ助かろうとしたからじゃん!! お返しだよお返し!!」
ほらな、やっぱりアホだった。
「あークソ! 一瞬でもお前を頭良いと思った俺がバカだった!」
「「ガルルルルルッ!!」」
「「ヒィィッ!?」」
2人仲良く並列になって走る。しかし、後ろとの距離は狭まる一方。体力的にももう限界だ。
(いっそエルの足を引っ掛けて……)
俺が横をチラ見すると、エルと目が合う。
なぜか俺は侮蔑の眼差しを向けられていた。
「ねえ! 今私の足元見てたでしょ!」
「まあな。やっぱり良い太ももしているなーと思って。死ぬ前に触っておこうかなと」
「え、えっち!! こんな時に何考えてんの!?」
エルが顔を赤くしてもじもじと内股走りになる。
エルの太ももは膝上まで白のタイツに包まれており、短めのスカートから覗かせる柔肌が今日も無駄にエロスを感じさせていた。
「お前こそどうした。俺の方をそんな見つめて……惚れたか?」
「いや、ユーヤのどこに惚れる要素があるの……」
エルが素で顔を引きつらせる。
そうあからさまに拒絶されると少しへこむぞ。
「ユーヤのことだから私の足でも引っ掛けて自分だけ助かろうとしてるんじゃないかと思っただけ!」
「なっ、もしやお前も俺の足を狙って!? させんぞ!!」
俺は体制を低くしてエルの足払いに備える。
「やっぱりサイテーだった!?」
「俺が少々手を汚して1人助かるならそっちのほうがいいだろ」
「ユーヤのバカー!!」
エルが顎をあげて必死に声を絞り出す。
息も絶え絶え、レッドウルフとの鬼ごっこももう限界だ。このままだと共倒れということもあり得る。
何か良い案は無いか……。
俺は手元のポーチを漁り、手当たり次第に物を取り出していく。
エルの昼飯に入れようとしていた激辛ソースの瓶、エルの嫌いな虫を模したいたずらグッズ、エルが驚く……って、ロクな物が入っていない!
ポーチの中身に絶望しかけたその時、妙な感触が手に触れる。
「こんな物いれたか?」
取り出してみると、まん丸に青い果実……マトの実だった。
どうやらレッドウルフと出くわした際に、無意識にポーチに入れていたらしい。
「ちっ……こんなもの!」
俺はマトの実を投げ捨てようとするが、寸前でその手を止める。
「ちょ、ユーヤ何やってるの!? もしかしてその毒があるやつ食べるつもり!?」
「バカか! 食いしん坊なお前と一緒にするな!」
俺はマトの実を大事に握りしめる。
「あったぞ、俺たちが助かる方法が……!」
俺はすぐさまエルを呼ぶ。
「エル」
「な、なに!?」
瞳孔開き気味のエルが必死の形相で振り向く。
「頼みがある」
「ぜっっったいに、やだ!!」
内容を伝える前に断られた。
「なぜだ!?」
「どうせ、私にオトリになれとかなんとか言うつもりでしょ!」
「話しが早くて助かる」
「ほらやっぱりーッ!? 絶対にそんなのやんないからッ!」
頬を膨らませ反抗するエル。
まったく、この期に及んで頑固なやつだ。
「エル!」
「……」
エルからの返事は無い。プイっとそっぽを向いたままだ。
それでも続ける。
「俺を信じてくれ!」
「……」
「頼む! このとおりだ!」
土下座の一発でも披露したいところだが、あいにく今はそんな余裕はない。
代わりに連続ウインクで誠意を見せる。
「どのとおり!?」
実際俺のウインクは土下座なんかよりは数倍レア行動なので説得力的に十分なはず。
「頼むエル! お前の協力がどうしても必要なんだ!!」
「…………どうしても?」
戸惑いを見せながら上目遣いでこちらを向くエル。
その目からは不安と同時に
「どうしてもだ」
この時ばかりは俺も真面目に答える。
「……もしユーヤの言うとおりにしたら、わたしたち助かるの?」
「もちろんだ」
「ぐぬぬ……」
エルはムーッとしばらく難しい顔をした後、どこか諦めたようにため息をつく。
「わかった……。ユーヤを信じる。帰ったらご飯奢ってよね!」
「ああ、とびっきり上手いトマの実料理を振る舞ってやろう」
エルが立ち止まり、後ろを振り向く。
それを見たレッドウルフたちは、エル目がけて牙を剥く。
ほとんど猶予はない。
しかし、俺にはその一瞬で十分だった。
意識を集中させ、手に握るマトの実を見つめる。
「《
マトの実に魔力を注ぎ込む。
すると、毒々しい青色の果皮が鮮やかな赤に染められていく。
「よし――うまくいったぞ」
百人が百人、百匹が百匹見ても見間違うことは無い。
今俺が手に持つ果実は、美味しそうに赤く育ったトマの実そのものだった。
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