第8話 底辺冒険者と天才マジシャン!?⑤
「「ガルルルルル!!」」
「ユーヤぁ〜!! もうムリぃ!!」
助からないと悟ったエルが滝のような大粒の涙を流す。
レッドウルフたちは大きく口を開けて無抵抗のエルに飛びかかった。
そのタイミングを見計らい、手元の赤い果実を投げつける。
「おら、お前らの大好物のトマの実だ! これでも喰らえ!」
「ユーヤ!!」
放物線を描く赤く変色したマトの実。
好物を目の当たりにしたレッドウルフたちは、我先にとそれに飛びつく。
俺の投げたマトの実は、空中で豪快に食いちぎられ、一瞬にしてレッドウルフの腹の中に収まった。
そして何ごとも無かったかのように、エルに再び牙を剥く。
「「ガルルルルルル!!」」
「うえぇ、もう終わりッ!? 全然効果ないじゃん!! 今度こそホントにもうムリイィーーッッ!!?」
死を受け入れた獲物のように、エルが目を塞ぎ頭を抱える。
……しかし。
静寂の森にエルの断末魔が響くことは無かった。
――――――
「ごめんなさい……わたしは食べてもおいしくないです……ユーヤのほうがおいしいです……」
「おいこら。俺の美味しさをモンスターにアピールするんじゃない」
目を塞いだまま念仏を唱えているエルの額を小突く。
「あだっ!? ……って、ユーヤ!? あれ? レッドウルフは……?」
「レッドウルフならあそこに転がっている」
俺が指さす方を恐る恐るたどるエル。
レッドウルフたちはさっきまでの獰猛さが嘘のように、弱々しい唸り声をあげながら地べたをのたうち回っていた。
「な、なんだか……あの子たち具合悪そうだね」
「モンスターの心配なんぞしてる場合か。さっきまで俺らを食い殺そうとしていたやつらだぞ」
苦しそうに腹を掻きむしるレッドウルフたちを尻目に、俺は来た道を再び戻る。
「フッ。たまにはこの能力も役に立つな」
《
対象物を形はもちろん色や匂いに至るまで模倣することができるスキル。手に収まるほどの物にしか《
ま、まあ、レッドウルフ程度の低級モンスターを黙らせるくらい、造作もない!
俺の能力で変化させたマトの実を仲良く奪い合うように食べてくれたおかげで、均等に毒が行き渡ったようだ。
おそらく半日はユニコーンの角と腹の中で格闘することになるだろう。良い気味だ。
「エル、さっさと残りのトマの実を収穫しに行くぞ。また次のレッドウルフの群れが襲ってくるかもしれないからな」
ペタンと座り込んでいるエルに早く起きるようにそやす。
しかし、エルは尻もちをついたまま一向にその場から動こうとしない。
「そ、そんなこと言われても……足に力入らなくってぇ……」
どうやら腰を抜かして立てなくなってしまったようだ。
まったく、情けないやつめ。
「ったく。なんとかして立て。お前の能力が無いとトマの実をライナーの家に送れないだろ」
「無理だよぉ〜! ユーヤがわたしをおぶってよぉ〜!」
「断る。なぜ俺がそんな面倒なことをしなければ――っておい、何してる……?」
駄々をこねるエルを無視して先に行こうとするが、エルがいそいそと自分のマントを頭から被り始めたので思わず呼び止める。
大きなマントから頭だけをぴょっこりと出し、不機嫌そうにこちらを睨んでいる。
「もしユーヤがわたしを置いてくなら、わたしだけ自分の能力でライナーの家に帰るから」
「なにッ!?」
エルの持つマントの転送能力は、自分自身にも有効。
故に最強の離脱方法なのだが、マント自体は転送されないため、この方法を使うと自分とマントが離れ離れになる。最強であると同時に最後の離脱方法なのだ。
「ぐっ……エル、お前汚いぞ! お前が離脱したらトマの実を送る人間がいなくなるじゃないか!」
「なら…………ね?」
上目遣いで語りかけてくるエル。こうなっては仕方ない。
「くっ、覚えてろよ……」
愚痴をこぼしつつ、俺は膝を付いてエルに背中を向ける。
「ありがとぉ〜。よっこらしょいっと……」
満足そうな声をあげ、エルが俺の両肩に腕をまわす。
重い……。
やっぱりコイツ、ここに置いておくべきではないだろうか。
まあしかし、エルをおぶって移動するなんてとんだ重労働だが、トマの実をこの森からラストリアまで人力で運ぶよりかは幾分かマシか。
それに……
「やっぱりお前、良いカラダしてるな」
「ヒャンッ!? ちょ、ちょっとどこ触ってんの!?」
俺は脇に抱えたエルの太ももを手で弄る。短いスカートから覗かせるハリのある柔肌が、手に吸いついて離れない。
これが、魔力というものか……!
「もう、っうん……やめっ……」
……とまあ、こんなふうにセクハラをかますこともできるので、疲れを紛らわすには十分だった。
「俺に余計な労働を押し付けた罰だ。お前のカラダでその対価を支払ってもらう」
「ひぅ!? サ、サイテー! こ、この変態! 人でなし! あと……変態ー!!」
声は張り上げるものの、やはり力が入らない様子。
エルは無抵抗のまま俺に太ももを弄られ続けるしかなかった。
「フハハハハ。この手の感触を俺は一生忘れない。エロい事を考える時は必ず思い出すようにするぞ」
「うわぁ〜ん!! やっぱり下ろしてぇ〜!!」
こうして、ライナーの依頼をこなした俺たちは冒険者更新料を無事払い終え、晴れて冒険者生活2年目に突入することができたのだった。
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