第7話

「信じてくれてもいいじゃん。」と悲しそうに。


 そんな顔で見られたら、俺が誘拐してるみたいな気分になるからやめてくれ。まぁ誘拐したいなんて微塵も思わないんだけど。


「わ、わかったよ。信じてみるよ。で、なんで俺に取り憑いてたんだ?」


「私の山に来てくれたから。」


 私の山?もしかして、朝早くに写真を撮った場所か?と聞いてみると彼女は深く首を縦に揺らした。じゃあ入学式からじゃなくて、朝の6時ぐらいからの間違えじゃないのか?なぜ間違える必要があるのやら。


「私たち幽霊は、死んだ場所から自分で離れる事が出来ないの。だけど、人に取り憑けば話は別ってこと。」と博士のように。


「でね。私の姿は取り憑いた君しか基本的には見えないの。だけど、例外として人以外の生物には私のことは見えていると思う。でも、取り憑けるのは人だけだし君は何故だか安心するし、だから今日から君の家でお世話になるね。よろしく。」


 え?何がよろしく。だよ!しかも理由が意味わからなすぎなのだが。俺が安心するから?そんなの他にいい性格の持ち主なんぞ腐るほどいるし、もそもそ今そんな事を考えてしまっている俺はクズさ。さらに言うと、こっちは迷惑にしかならない。これは、どっかで習った不平等条約じゃないか。江戸時代のお偉いさん方の気持ちが理解できた気がする。


「あのさ、1つだけ質問しても?」と尋ねる。


 彼女は、いいよ。と一言。


「なんか、順序が明らかに違う気がするんだけど、名前、教えてくれない?あー、俺の名前は、福田優杜って言います。」


 確かにそうだったよね。とクスクスと笑い始めた。か、かわいい。ダメだ俺!こいつは幽霊だし、不平等条約を俺に結ばせようとしているんだ。正気を保て。でも、俺以外に見えないってことは、親に何ひとつ声をかけなくともこんな可愛い幽霊と一緒に生活出来ちまうってことか。メリットがあるかもしれない。なんてな。


「私の名前は南川夏祈。なっちゃんって呼んでもいいよ?」と楽しそうに。


「遠慮しておく。ってそういえば!俺はまだ家に来てもいいよなんて一言も言ってないぞ!」まぁ、心は揺れ動いているが。


俺のその発言を聞いて彼女は俯きながら、呟いた。


「そう、だよね。やっぱし私のことなんて嫌いだよね。やっぱごめん、君に憑いてけば終わった人生を楽しめると思ったけど私の我儘だったし、もう私の居場所に帰るね。今日は、ありがとう。」


そんな彼女を見て、少しばかり言いすぎてしまったと反省した。


 もし仮に彼女の話が本当なら、俺がこの誘いを断ったらまた誰がくるまで、永遠にあの山にいるしかないってことなんだよな。でもまだこの世にいるってことは、この世で何かをやり残したってことじゃないのか?まだ、まだ属性が分からなくて攻略が出てない超高難易度クエスト並に謎に包まれている。いや、だからこそ、その謎を知りたい。俺はそう思った。おまけに可愛いし。

 大事な事だからもう一度言うと、お・ま・けだから。まぁ容姿以外は言うまでもないかもしれない。


「はぁー。わかったよ。俺の家に来いよ。どうせ行くあてもないんだろ?ただし、俺の生活の邪魔はしないでくれよ。頼むから。」と呆れた演技をしながら。


「え?いいの!」と、まるでフクロウのように目を丸くして、天使のような笑みを俺に向けた。そんな顔で見るなよ、なんだか妙に照れくさくなる。







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