7.
歩き出してからの時間はひどく長く感じられる。僕の家はこの道を真っすぐ行ったところにある。もう少しいけば目で確認できるくらい近い。こんなに近いのに、駆けていくことが出来ない。
あの時、トモくんは赤足の傘女が何をしたら嫌がるのか具体的に知らないと言った。だから、僕は肌が触れるほど近い赤足の傘女の一挙一動に、僕のすることへの反応にひどく怯えている。情けないほどに。
氷のように冷たい肌が、歩くたび肩に触れた。じんわりと僕の服が濡れていくのを感じる。赤足の傘女の濡れた肌と、僕の濡れた服の薄い生地はぴったりと張り付いては離れ、張り付いては離れを繰り返している。このまま全身濡れたら、僕は赤足の傘女と同じ存在になってしまうんだろうか。
「ごぷっ、ごぷフフ……」
ぴたっと張り付く度に赤足の傘女が小刻みに震え、水音混じりに何か発していることも、僕をうんと不安にさせる。
「あ、あはは」
とりあえず反応しといた方がいいのだろうけれど、なんて反応したらいいのか分からない。引きつった笑みで乾いた笑い声を返すと、赤足の傘女は頭を左右に振り乱して、雫を撒き散らした。怒ってないといいな。
約束を忘れて今頃は家にいるだろうカズキに、いつもなら『あいつは忘れっぽいから』で許すところを、今回ばかりは許せないと怒りがこみ上げる。でも、カズキを怒るには無事に帰らないといけない。カズキは僕がもし死体で発見されたら泣いてくれるだろうか。自分のせいだって責めるんだろうか。
トモくんは、ウワサが本物だって確信するのかな。僕をバカにするのかな。意外と悲しんでくれるかな。それとも、あんなふうに言っておいて死んだ僕の棺の前でをギャハハハって下品に笑うのかな。それは、すごく、嫌だ。
やけに長く冷たく暗い帰り道が、僕にそんなことを考えさせた。
傘を掴んでいない方の、傘の保護区域からはみ出てずぶ濡れの拳に力が入る。僕は、トモくんに負けたくない。
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