6.
このペタリペタリと聞こえる足音の正体は赤足の傘女なのか?
もし赤足の傘女が実在していて、トモくんの話したウワサがすべて本当だったら、僕が次にすべきことはなんだろう。
記憶から必要な情報を引き出そうと必死に頭を働かせようとしたけれど、焦りからすぐには出てこない。そうこうしている間にも足音は近づいてきている。ここでもし僕が逃げ出したり傘を捨てたりしたらどうなるんだろうか。
死ぬ、のか? 赤足の傘女は傘に入れないとダメで、機嫌を損ねるようなことをしてもダメで……確か溺死するとかズタズタに引き裂かれるとか言ってたはずだ。
そこまで思い出して、小さく息を飲んだとき。
「中に、入レてく…まゼんカ?」
――と、聞こえた。ゴポゴポッといった水音の混じる、苦しそうな声が、あのウワサのフレーズを口にしている。最悪の結末が頭を過ぎって、じわじわと目元が熱くなった。
傘女、赤足の傘女だ……! トモくんのウワサは本当だったんだ!!
恐る恐る視界を上げると、滲んだ視界に、紅とこげ茶色で汚れたワンピースが見える。
「うっ……!」
まだ死にたくないからこそ叫びそうになるのをぐっと堪えて、僕は僕よりも大きな赤足の傘女のために傘を持ち上げた。赤足の傘女はそうして作られたわずかなスペースに首を、ゴキッグチャッと骨や肉を連想させる嫌な音を鳴らしながら折り曲げて、僕の隣に並んだ。雨の日特有の土の……いや雑食の魚が住む汚い川から掘り出した泥のような臭気が傘の中に広がる。
「あリが、トう」
さっきと同じ声がお礼を言う。そしてその後、激しく咳き込んだ。赤足の傘女が咳き込むと、さらに生臭い香りが強くなる気がして、僕は思わず眉をひそめる。強い雨音に混じって、ひゅうひゅうと隙間を通る風のような音もした。
匂いを吸い込みたくなくて、普段はママに強制されている鼻呼吸を封印して、口呼吸を心掛ける。こんなときくらいはルールを破らせてほしい。
それから僕は、自分の家を目指して歩くことにした。機嫌を損ねないようにしないといけないというトモくんの言葉を念頭に置いて、できるだけゆっくり、ゆっくりと歩く。赤足の傘女の、なぜか雨で流れない血で真っ赤な足元を見ながら。
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