第4話『管理者』
「討伐?」
藤野遥率いる小隊に入ってから数日後、突然言われた言葉に表紙抜けた声が漏れた。
その言葉を言い放った龍騎さんは「クロナさんなら簡単だと思うが」と言いながら詳細を話す。
今回の討伐は少し離れた《闇の森》と言われる魔物の森で何かがありその魔物が近くの村に出てきてしまっているらしい。
商人も何人も襲われていて、討伐依頼がギルドと呼ばれる街の相談所に依頼が殺到してしまったがためにことを重く見た王が騎士団から小隊を討伐に向かわせると決定したらしい。
肩慣らしだと思っていいと思うというところからそんなに厄介な案件ではないのだろう。
けれど次に間抜けな声を出したと思ったらにっこりと笑った。
「遥がまた暴走するかもしれないから、その時はよろしく」
「……それはあなたの役目では?」
冷たく言い放てば「えぇ」と机に伸びながら言う。この数日間で彼らのことが少しずつ分かってきた。
単純なようで考えている事、書類整理が苦手なこと、強いものが好きなこと、本能的に動いてしまうこと、そして遥さんの《それ》は龍騎さんあってこそ出来ているということだ。
彼女を制するのは実は彼であり、彼がいるからこそ彼女は自由に出来ている。少し行き過ぎている気もするし、机の上の書類の山を見れば少し自由すぎる気もするが。
ため息を付く。それから差し出された討伐に関する書類を見た。
もちろん小隊に入ったからこそそうゆうこともある……とは思っていた。だが……
「備品とかはどうするんですか?」
「んー……支給品が少し出るはずだけど……」
「足りないでしょうね」
「あー……やっぱり?」
口を酸っぱくして言えばへにゃりと笑っておどける。すかさず現状況を把握しようと自分が持っている情報の範囲で言葉を綴った。
まず、この隊は出来たばかりで功績がなく実力はあるが評価が追いついていないこと、一部の上の人間からも疎まれ支給品が最低限しかもらえないこと、支給品の消費が激しいこと、そして何より……必要経費が足りないこと、だ。
確かに強者ばかりの隊だ。戦い方によっては支給品だけで補えるかもしれない、だが見たところ主に減っているのは《魔攻用の回復薬》の消費が激しかった。
淡々と状況を整理しながら言えば目の前から間抜けな声が聞こえ視線を向ければ、腕を組みながら頷いていた。
「やー、さすが。ここの連中良い奴だし腕も良いんだけどそうゆうのは苦手な奴が多くてなぁ」
……龍騎さんが遠回しに《体力おばけ(かいぶつ)》の集いと言ったように聞こえたのは気のせいだろうか?
確かにこの数日見ている感じでは仕事に対して前向きな人たちだ。嫌な仕事だろうが率先してやる姿も見る。……ただ、大雑把なだけ。
オレからしたら、《体力おばけ(かいぶつ)》はあなたもだ、龍騎さん。と言ってやりたいのをぐっと我慢して目の前でおちゃらけている龍騎さんを見た。
「そんなことよりも龍騎さん」
「はい?」
「竜(ドラゴン)の世話代がかかりすぎです。これ、他の隊の子も見てるでしょう?!」
「ん、あ、あぁ……つい懐かれてほっとけなくて……」
「他には他でしっかりと世話代も出ています。もし面倒を見ているならしっかりと請求してください。じゃ、なかったら報告書に書いてください。このままじゃりんごを含む〝うちの〟竜たちがひもじい思いをしますよ」
ずいっと真顔で龍騎さんの座る方に詰め寄る。机に両手を乗せて体重をかけて彼に顔だけ近づけながら言い放つと彼は困惑した顔を浮かべた。
だがその一方で思う。やはり彼もただ者じゃない。竜は本来認めた相手以外の施しを受けることを嫌う。気むずかしい生き物だ。
だからこそ、竜に乗れる《竜使い》は優遇される。彼らの世話は主に《竜使い》しか出来ないのだが、乗ることを許しても世話する事を許されなければいけない高難易度のものだ。
けれど龍騎さんはそんな事を知ってか知らずか……それを簡単にやってのける。
昨日彼が竜舎に行った姿を見たがどうやら気に入られやすい性質らしい。
……彼も実は竜なんじゃないのか?と思うぐらいに、だ。すごいことだ、とても。すごいことなのだが……そのせいで経費が減っているのは困る。
「そう、あまり強く言わないであげて。そう言う質(たち)なのよ」
「あなたにも言える事ですよ、遥さん」
自分からしたら真後ろの位置にあるソファーから顔を出して白々しく言い放つこの隊の隊長である遥さんに少々キツく言う。
彼女がフグのように頬を膨らませた。
そもそも彼女は生傷が絶えない。楽しくなってしまうと少し暴走と言うなの突撃をしてしまう時があるからだ。故にその傷を手当てする為の支給品も正直足りないのだ。
けれど次の瞬間、オレのその怒りはどこかに消えてしまう。
「ふふ、けど本当、クロナさんが入ってくれて良かった」
「苦手分野も任せて平気そうだし、何より……改善してくれるんだろう?」
当たり前のように言う二人に呆れたのだ。深いため息をついて、二人を見た。
目が合うと二人はにっこりと笑った。
……もちろんだ。改善することで討伐や仕事がしやすい状態になるのならやってやる——……。そんなことをお見通しと言わんばかりの態度にバレている気がして居心地が悪い。むっとした顔で二人を見ても彼らはにっこりと笑うだけだった。
……敵わない。この二人には。
そう思うと今日何度目かわからないため息がでた。
「とりあえず、今回は実費にはなりますが、買うしかないでしょうね。知り合いにツテがあります。便利な道具屋さんが」
あの子ならなんとか出来るかもしれない、少ない経費でも。そうなると良いと思いながら話す。
討伐まで後四日。やることは、準備はまだまだ続きそうだ。
それからふ、とやることを思い出す。とりあえず二人にも協力してもらい、残っている書類整理と作成をしてしまう。
それからそれをまとめると「疲れた」と伸びている二人を横目に立ち上がる。
「これ、提出してきますね」
そういえば「いいのか!?」と驚きと喜びの声が聞こえた。
休んでいるように伝えると彼らは喜んで伸びる。このぐらい良いだろう。そんな二人をふ、と笑って部屋を後にした。
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