第3.5話『少しの遠回り』
藤野遥との非公式の試合を終わらせたオレは身支度を整えようと長い廊下を歩いていた。
ふと、視界の先に見覚えのある姿が見える。
「終わったの?」
いつもと打って変わり、綺麗なドレスに身を包んだ幼馴染の少女。心なしか、少し寂しそうな顔をしている。
わざわざ聞かないでもいいのに。見ていたのはわかっていた。ふっと軽く笑みを零し、頭を撫でてやれば頬を膨らました。
「スッキリした?」
「あぁ」
沈黙が流れる。嫌な沈黙じゃない。「そっか」と小さく呟いた彼女も少し複雑そうに、けれど嬉しそうに笑った。
すかさずオレの後ろに回った琥亜はぐいぐいと背中を押す。
「じゃあ早く帰ってシャワー浴びてぇ!くーさーいー‼」
「いや、帰る所だし、おまっ、試合後なのわかってるだろ⁉」
ブーブーと文句を言いながらずっと背中を押す彼女なりの強がりだとわかった。目線を後ろの彼女に向ければ、膨れた頬と同時に少しその青く澄んだ瞳が揺れている。
背中を押したのは自分のくせに、と思ったがまだ10代の少女だ。心と、思いが中々一緒にならないのだろう。
「少し遠回りになるかもしれないが、待っててくれ」
「……ん」
「もし、耐えられなくなったら職権乱用すればいい、オレは従うよ」
「……ふふ、わかった」
真剣に言ってやれば、膨れた頬が笑みに代わる。
そんな琥亜を見てまた自然と笑みが零れた。
そう、少し遠回りするだけ。彼女をしっかりと護れる様に。何物にも負けないように。
いつかオレを負かしたあの人に勝つために、
そして心が強いあの人を超えるために——……。
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