第2話

 ブレイブ王国。王宮軍門会議。

 国中の名だたる人物たちが揃うこの会議。いつもは、街や村の治安維持に勤しむべく、王国の騎士団の派遣について話し合う事が多い。だが、この日は違った。

 先日、王都近隣の森林に局地的な嵐が発生し、美しかった森林があらぬ姿へと一変した。そのことで緊急で会議が開かれた。集まったのは、この国の大臣に、王国の騎士団長や、騎士団員の面々。名だたる学者などなど。

「ですから、森林だけを襲う局地的な嵐など、わが国では観測されたことがありません」

「だからその原因が何なのだと聞いているのだ我々は」

「小さな嵐が突然と現れたとしか」

「そんな嵐あるのか!? 前触れもなく突然森林に現れる等あり得るのか!?」

「だから我々も見当もつかないと」

 局地的に発生した嵐の原因が何なのかあーだこーだと話し合う面々。だが一向に話が進まない。そんな状況に嫌気を指したのか、ため息をつきながら腰を掛ける女性が一人。

「話がまとまらない……」

 聞こえない声でそう呟くその女性の名前はマナ。この王宮の女神官である。

 悪しき存在が王都に進行しないように結界を張っているのは勿論、王族の病気の治療や、地域に蔓延る魔獣の調査。書類整理や書類の作成、王族の部屋の掃除、配給、猫の世話など、神官じゃなくて使用人の仕事もこなしている。本人も疑問に思ってはいるものの、その美しく可憐な容姿からか、王族に気に入られており、命令されているので仕方なくこなしている。また、給料もその分上乗せされている。給料のためとはいえ、本当にこれでいいのかと自問自答しながらも毎日毎日王族の顔を伺う日々に正直うんざりしている節がある。だが、彼女は可憐な容姿に加えてスタイルも抜群であり、すれ違う男性は自然と彼女を二度、いや三度見してしまうほどである。王族に気に入られてしまうのも仕方がないのかもしれない。それだけでなく、頭の切れもよく、更には彼女の能力もそこらの人を秀でており……

「長い。その説明今いる?」

 と、例えばこのような具合で、活字の存在にさえ気が付き、ツッコミを入れてくるほどである。文武両道、才色兼備。まるで頭が上がらない。

「この国のダメなところの一つね。話し合いばっかで何も進まない」

 またまた聞こえない声でつぶやく彼女。だが、それもそのはず。話し合いに参加している学者は自分の持つ知識を元に可能性を提示しているに過ぎない。それに対して大臣は、御託はいいから原因が何なのか説明しろ、結論付けろと結果を急ぐばかりである。大臣の圧に押さえつけられたのか、騎士団長やその部下の面々も大臣をおだてたり、学者に対して強く追及したりと勝手ばかり。まさに王族の犬のような存在である。

「犬らしくキャンキャン吠えている。飼い主は飼い主で威張るだけだし。誰も調べようとしない」

 目を閉じて腕を組む女神官マナ。眉間にしわを寄せながら、人差し指をトントンと動かす様子から、苛立っているようだ。

「もしや、最近噂になっている盗賊の仕業では?」

 と、一部の学者がそれを告げる。

 噂になっている盗賊。最近巷で噂になっている子悪党。なんでも、周辺の町や村の民家に勝手に入り物品を盗み出すのだとか。だが、不思議な事に、盗まれた市民は平然としているという。なので、何か邪な魔法を持っているのではないかと噂されている。あくまでも噂話ではあるが。

「何を言っている!? あんなの我々を貶めたいくそったれた市民が流した、ただの出まかせに決まっている! そもそも、一盗賊が嵐を起こせるわけないだろう!」

「そうだそうだ! 我ら上流階級ほどの魔力ならいざ知らず、どこの馬の骨ともわからぬたかが盗人にそんな事がなせるわけがない!」

「し、しかしですね……」

「学者ごときが! 上流階級の更に上のこの大臣に楯突くか!? 恥を知れ!」

「そ、そうだそうだ! 大臣様に楯突く輩は、我ら騎士団が許さぬ!」

「も、申し訳……ありません……」

 威張り散らす飼い主がこの国の大臣。提言して積極的に行動をしなきゃいけない騎士団もただの犬。ペコペコしながら知識を披露したいだけの学者は最早、出世に飢えた奴隷である。その状況を改めてよくないと感じたからか、それとも一向に話が進まない会議に終止符を打とうとしたのか、マナは勢いよく立ち上がった。

「あの! まずは現地を調査するべきなのでは?」

 マナのいう事はごもっともである。現地を調査し、一体何が起きたのか調べないことには話が進まない。だが、この場にいる全員はそれを聞くと、顔を伏せた。

「し、しかし、あそこには魔獣どもがはびこっているとか……いないとか……」

「ちょ! それを何とかするのが騎士団の役目では!?」

「しかし、我々には王都や町を守るという使命が。そもそも、たったの異常気象ごときに、わざわざ我らが出撃するのも……」

 騎士団長は口をもごもごもさせながら大臣の顔を見る。

「そ、そうじゃな。それに一体どこからその予算が下りると思うのだね? 我が国も裕福ではないのだよ」

 裕福ではない……とはよく言ったものだ。この大臣。プライベートでは女性の伴侶を何人も連れて豪遊していると聞く。騎士団長も似たようなものだ。マナは当然そのことを知っている。いや、それだけではない。

「でしたら、あなた方上流階級の給与を多少は削減して」

 学者をはじめ、この国民も薄々このことに気が付いている。だが……。

「何を的外れな事を言っている!! 恥を知れ! このポンコツ学者!」

 大臣は唾を飛ばしながら学者に怒鳴りつける。図星をつかれて焦ったのだろうか。大臣はその学者の頭を思いっきり殴った。これは完全なる暴行なのだが、それを指摘するものはこの中にはいない。指摘をすれば今度は自分が危うい目に遭う事を知っていたからだ。

 また騎士団も騎士団でわざわざ遠征に行こうとする気概がない。どういうわけか、やる気がないのだ。だが、国の、いや大臣の言うことさえ聞いていれば安定な地位と給与が支払われる。余計な事は出来るだけしたくないという考えなのだろう。

 神官のマナはそのことも察している。だが、マナもマナで、指摘しようとはしない。面倒な事になれば、後々痛い目に遭うという事を既に知っているからだ。だが、このまま何もしないままで言いわけがない。それを理解しているマナはこう口にした。

「埒があきません! もういいです! 私行きます!」

 マナに視線を送る一同は顔を見合わせると、こう言い放った。

「行くってどちらに?」

「決まっています。現地にです。何があったのかまずは調べないと」

 そう口にするマナに対し、一同は呆然としている。それもそのはず。そのような現地調査をするのは王族を守護する神官の役目ではないからだ。こういった調査は王国の騎士団がするべきこと。それをこの場にいる全員が分かっていた……はずだったが。

「お、おお! なんと立派な! 流石は神官殿。神官殿が出向くのであれば我ら騎士団は王国を守護することに専念できますな!」

「うむ! 神官マナが行くのであれば申し分ない。我々はゆったりと結果を待つこととしよう。王にもそのように伝えておこう」

 騎士団長も大臣も嬉々としている。騎士団に頼もうとすらしない。いや、そもそも神官が手を上げるのを待っていたかのようにさえ思えてしまう。

 まるで国がまともに機能していない。上流階級が地位と名誉と権威を振りかざし、金で市民を吊り上げ、いいように利用している。それが今のこのブレイブ王国の実態である。それをマナも感じたのか、マナは「失礼します」と早々と告げて、会議室を後にした。

「よぉ~、マナ~~」

「あ、ジクス……さん」

 会議室を後にし、旅の準備を終えたマナの前に現れたのはマナの上司に当たる男のジクス。彼はマナと同じく神官である。だが、彼もまた大臣を中心としたこの国の汚い権力に屈した犬である。だが、ジクスの場合はそれだけではない。この男の場合はもっと質が悪い。

 現に、目の前に現れたジクスを見て、マナの表情はどことなく青ざめている。

「ジクスさん? あぁ? ジクス様だろうが!」

「っ……!」

 ジクスは荒々しく口調を変え、マナの頬を左叩いた。

 マナの左頬は赤く腫れ、一瞬マナの表情は曇る。

「てめえ、調子に乗るなよ? 魔力はてめえのが優れているのかもしれねえが、結局は上に気に入られなきゃ何の意味もねえんだよ。森林の調査だ? 神官のお前が? 何の冗談だって話なんだよ!」

「し、しかし、例の森林で異常な事があったのは明白! 詳しく調べてみるべきでは」

「んなもんなあ! 市民のやらせときゃあいいんだよ! 少しの金上乗せすりゃあ連中はハイエナのようにわらわらと湧いてくるんだからよ!」

「でも、あの森林には魔獣がいると! ロクに力も持てない市民に行かせるのは危険……」

「一人や二人市民が死んだところで関係ねえんだよカス!」

 ジクスは唾をマナの顔面に吐くと更にこう続ける。

「てめえ、さては俺を蹴落として、出世しようっ腹か? ああ? たかが女の分際で!」

「…………」

「俺の出世の邪魔をしたらタダじゃあ置かねえぞ? 女は女らしく腰でも振ってろや」

「…………」

 ジクスの威圧に怯えるマナ。そんな彼女を見て、ジクスは不敵に笑みを浮かべる。

 この男は質が悪いと言ったが、それを証明するかのように、ジクスはいやらしい手つきでマナの身体に手を振れはじめる。

 マナの背中に手を回し、右手でマナの右肩をさする。そして、左手でマナの豊満な胸に手を添えた。

「くっ……」

「ケケ、相変わらずけしからん胸してんな」

「ん……」

 ジクスの手の動きに合わせて、マナの身体は反応する。やがて、ジクスは右手を腰に回し、そのままマナの尻を撫でる。

「んっ……セ、セクハラですから、こんなの……」

「ケケ、知らねえな。んなもん。止めてほしけりゃ行くのをやめろ。俺の邪魔をするな」

「…………っ!」

 にやりと汚い笑みを浮かべるジクスをキリっと睨め付けるマナ。それを見たジクスは手を放した。

「おーーっと、おっかないおっかない。怖い魔法を使われたらたまったもんじゃあないからなあ!」

「訴えますから。もう……限界ですので」

「やれるもんならやってみろよ子猫ちゃん。上がもみ消すから何の意味もねえと思うけどな」

「……くっ!!」

「くく、くくくくく」

 不気味に笑いながら、ジクスはその場を後にしていった。

 パワハラにセクハラ。マナからすればコレは日常茶飯事であった。特に、上官のジクスはそれの常習犯であり、更には性欲の権化でもある。マナの場合、まだ一線こそ超えられてはいないものの、胸や尻はとっくにいいようにされている。一線を超えられるのも時間の問題。その可能性を感じているのか、青ざめた様子でマナは身体を震わせている。

 ブレイブ王国。かつて魔王レイネルを打ち倒した勇者が建国した国。

 平和であるはずの王国は今や、金、権威、名声が全ての超ピラミッド社会。平等で平和なんてものはまやかし。市民は安い賃金で上流階級に飼いならされ、パワハラやセクハラを受ける日々。それはたとえマナのような上流階級であっても、女性の扱いは見るに堪えない物である。男女平等は嘘。女性は結局、出世競争には入り込めず、男性によって淘汰される宿命にあった。平等とは名ばかりの差別国家である。

 今のこの国に正義なんてものはない。他人を蹴落としてでも這い上がり、名声と権威を手に入れる。そして、今まで受けてきた屈辱を今度は下の者へと押し付け、ストレスを解消する。まさに負の連鎖。だが、変えようとする者は、今やどこにもいない。上手く世を渡るには、己の正義を殺してでも、名声と権威ある者へとゴマすりするしかない。それが例え暴力と性欲の権化だったとしてもだ。

 この国は最早正常ではない。まるで見えない悪が蔓延っているようだ。いつからこうなってしまったのか。それははっきりとは分からない。

 だが、徐々に、王をはじめとして、この国はおかしくなってしまった。まるで何かに取り付かれたかのように。

 誰かが何とかしなければならない。そのことは気が付いている人は気が付いている。だが、それをしようにも力がない。上流階級の権力があまりにも強すぎるのだ。変えようにも代えられない。だからこそ、皆は犬になって媚びへつらうしかないのだ。上流階級として生き延びるため、マナだってそんな思いは何度もしてきた。

「うぅ……」

 だが、いい加減に限界を迎えつつあったマナ。ジクスに良いようにされたからか、その場で涙を数滴流す。

「お父さん……」

 そんなマナの脳裏に宿ったのは、今朝見た父親との夢だった。

 しっかりしなきゃと頬を両手で叩き、マナはそっと前を向く。

「いい加減、変わらなきゃ。私も。じゃなきゃ、夢でお父さんに笑われちゃう」

 マナはそう口にし、歩き出す。

 目的地は異常な嵐が吹き荒れたという森林。そこへ向かって、女神官のマナは城を後にした。


 城下町を歩くと、路上で倒れこむ人間や、虐げられる人間があちこちにいた。

「……いつもの光景か」

 マナの役目は魔獣の手から王都を守る事。街の治安維持は王国騎士団の使命である。だが、肝心の騎士団は見当たらない。おそらく、城でゆったりとトランプゲームでもしながらくつろいでいる事であろう。

 いったい何をしているのだろうか。市民の平和や治安を守るのは上流階級の務め。だが、その上流階級は話し合いばかりで動こうともしない。なのに、市民よりも贅沢な暮らしをしている。飢えている市民が数多くいるというのに。

「はぁ……」

 マナは必死に見てみぬふりをして、前に進む。

 今やるべきことは森林で起きた異常の調査。助けたいのは山々だが、それをやったらマナの身も危ない。今は必死に目の前の現実から目を逸らす。

 だが、マナは口を噛み、拳をギューッと握っていた。

 助けてやりたい。でも、立場がそれを阻む。折角上り詰めた上流階級。神官という立場。だが、余計な事をすると、その立場が危うい。それどころか、それをダシにジクスをはじめとした上の連中に良いようにされてしまう危険性だってある。自分の身を守るためにも無視をする。そうするしかないのだ。

 だが、それを理解しているはずなのに、何故かマナは身体を震わせていた。

 まるで自分に嘘をついているかのように。

「……さっさと行かなきゃ」

 マナは淡々と周りの現実を無視して、目の前の道を突き進んでいった。

 それからしばらく歩くと、マナは城下町からはずっと離れた街道へとたどり着いていた。

 だが、その街道に倒れこんでいる二つの巨体。

「え……魔獣?」

 二体の巨体は鬼のような魔獣。強さは中の上といったところだが、侮ってはいけない。人間一人で立ち向かえば忽ち返り討ちにあい、その後は好き放題されてしまうであろう。煮るなり焼くなり犯すなり。王国の騎士団数名で立ち向かっていってようやく討伐できるといったところだ。

「気絶……してる」

 だが、そんな強さの魔獣二体が気を失って倒れこんでいる。よく見ると額に大きなあざが出来ている。何かに殴られたのだろうか。

「いったい誰が? 王国騎士団? でも、そんな出動命令あったような感じはないし……」

 いくら堕落している王国騎士団であっても、魔獣が出たとなれば話は別。ここは王都近郊。放っておけば王都が襲撃された可能性もある。最も、マナをはじめとした神官たちが結界を張っているから入ってはこれない……はずなのだが。

「まるで出動しない王国騎士団。彼らを信頼なんて出来っこない。いざって時は市民を守るどころか逃げ出すかもしれない。だから私がやらないと」

 マナはそう言って、魔獣二体に止めを刺すべく、目を閉じる。

 そして、杖を魔獣二体の上に掲げ、手首をくるっと回した。何かの魔法が発動したのだろうか。魔獣二体は光に包まれ、そのまま跡形もなく姿を消した。

「浄化完了ね」

 この国では、魔獣を倒すことは浄化と呼び、魔獣の魂を冥界に送ることを意味する。後はその魂がどうなるのかは厳密には不明である。それは人間も同じことだ。

「えっと……次は清き存在に生まれ出でて下さい」

 だが、少なくともマナは、その魂が再び世に生まれ出でると信じているようだ。マナの心は意外と純粋である。

「さて、先に進まないとね」

 この場で何があったのかは不明だが、それを調べる術もなければ、やる必要もない。今のマナの目的はあくまでも森林の最奥。目的地はこの街道の先の森林だ。マナは森林へ向かって足を運んでいった。

 そして、それから十数分後。

「え……いったい何が?」

 その光景を目の当たりにしたマナは、思わず目を見開く。綺麗な景観を保っていた森林の姿はどこにもない。

「局地的な嵐のせいだとは思うけど、でも、その嵐はいったい……?」

 先に進んでみたら、何か痕跡が残っているかもしれない。だが、草木はなぎ倒され、道を塞いでいる。

 倒木のすきまをぬっていけば奥に入れないことはないのだが、中々に難しそうだ。

 本来、わざわざ国に従事するだけの神官がする事ではない。だが、調査を申し出た以上、マナは最後までそれをやり遂げる責任があった。

「…………」

 木を跨り、腰を下ろし、一つずつ進んでいくマナ。枝に引っかかり、神官の制服が多少破れてもマナは気にしない。全ては、ここの調査任務を全うするためだ。

「任務を全うして、認められて、あんな奴らを見返すの。見返して、そして、私がこの国の人々を……」

 さっきの事を思い出したのだろうか、マナの瞳は潤った。奴隷のように扱われる市民に、それを虐げる大臣をはじめとした上流階級。嫌なら出生するしかないが、そんなゴミのような存在に対して、犬のようにへりくだるしかない。あのセクハラ上官ジクスも当然その一人だ。胸を張って生きることが難しくなってしまったこの国。マナはそんな国を何とかしたいと思っている。その熱い心を思い出したのか、マナは目をこすり、前を見据える。そして、草木をかいくぐりながら歩き続ける。

 そして、その先で目の当たりにしたのは予想を超えた衝撃だった。

「な……んで……」

 マナは思わず腰を抜かして座り込んだ。

 ここは森林の奥。国では聖域と呼ばれる場所。ここにあるべきはずのものが無くなっていた。

「勇者様の……剣がない!」

 かつて魔王を倒した伝説の勇者。その勇者が使っていたとされる伝説の剣がこの聖域には封印されていた。剣は台座に刺さっていたはずだが、抜ける者は今の今まで誰一人としていなかった。そんな伝説の剣が、この場に存在しない。それはつまり……。

「勇者様……? もしかして、勇者様が現れたの?」

 勇者を様付で呼ぶマナ。マナはひょっとすると、伝説上で語られる勇者の事が好きなのかもしれない。違うにしても、少なくとも憧れは抱いている。そんなところだろう。

 だからこそ、その勇者が使っていたとされる伝説の剣が無くなっている事が腰を抜かすほどの衝撃を受けている。

「剣が無くなっているってことは、剣を抜いた者……勇者様が現れたって事。でも、それってつまり……」

 その可能性に気が付いたマナは勢いよく立ち上がった。

「嵐とも何か関係が……? いや、こうしちゃいられない! 早く城に戻って報告しないと!」

 剣が無くなっている。つまり、剣を抜く必要のある悪い何かが現れた。勇者の事が好きならそう考えるのも自然かもしれない。

 マナは直ぐに聖域を後にし、再び草木を掻い潜りながら来た道を戻っていった。

 だが、マナは気が付いていなかった。

 聖域から無くなっていたものが、剣だけではないという事に。


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