第4話 力
前島は右の道着の袖を掴まれ、対角線にある左のかかとを相手の右手でもたれ、腹を左足で押さえられて前にのしかかれず、相手の右足が左足の膝の裏に引っ掛けられ、上にいるものの全て制されていた。下になっている大滝はここから、めくりと呼ばれる、上の人をひっくり返す技スイープも狙うだろう、それを堪えたところを三角締めや逆十字といったわざに移行し、また先程の得意とする絞め技も狙ってくる。前島は大滝の伸ばしていた左の腿をガッチリ両手で抱え、そのまま相手の腰からサイドにまわり横四方固めのポジションにまわろうとする、大滝はこれを膝や手を伸ばしてサイドに回られないように防御した。下の相手の両足を超えて上半身の方に回り込みサイドにつくことをパスというが柔術ではパスしたものに優勢ポイントがはいる重要な攻防となる。
普通に横に動くだけでは全く大滝をパスすることはできない。一度腰を左右に揺らし切ってみる。大滝の真っ直ぐ伸ばした手が腰骨にあたりぴたりと吸い付き近づくことはできない。攻めあぐねた一瞬。大滝はまた元の正面のガードの状態にもどる、焦った前島は覆いかぶさり圧力をかけると先程あった空間がなくなっていた。一瞬の出来事だが、腕一本と首が相手の両足で挟まれて抜け出せない。三角締めの形が出来上がっていた、前島が引き抜こうとポジションを変えようとすると、次は腕のみを両足で挟み込み、テコの原理で腕を極める、腕ひしぎ逆十字固めに移行してきた。
次から次に大滝に先読みされ先手をとられているのは明白である。前島は上下左右に体を揺すり取られた右腕を伸ばされまいと左手で右手をクラッチしていたが、それだけでこの腕ひしぎから逃れることはできない。ミシミシと締め上げられるうち前島は唸り声をあげた。クラッチをとくと全てが終わってしまう。首から肩、腕、背筋、腰、足、全ての力をこめ右腕にぶら下がった大滝を持ち上げようとした。この流れ、力を使い脱出をしてくるだろうと大滝は予想していた。持ち上げたあとバスターと呼ばれる投げで相手をマットに落とし腕を引き抜こうとする、直に頭を打たないよう片手で後頭部を防御したうえで、再度腕ひしぎを完全な形でロックし仕事が完了する。すべて大滝の筋書きどうりに事は進んでいた。
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