第三章② 魔法館の殺人の真実

 ロンデルは一歩前に出て口を開く。


「第一の事件であるブリューさん殺害事件からみていきます。彼は上級火炎魔法で殺害され左手が持ち去られていました。彼を殺害したのはカーマインさんだと言われていましたが、それは誤りです。真犯人はあなただ」


 しかし、と口を挟んだのはモック。


「先程言っただろう? あれは完全に魔法による殺害だったと。魔法が使えない者の犯行ではないはずだ」


 ロンデルはすかさず反論する。


「モック……確かにそう言ったな。お前の言うことは正しいと思う。今回の事件は確実に魔法使いによる犯行だ」


「じゃあ――」


 言いかけたモックの言葉を遮るロンデル。


「モック……俺がいつ、マクガーソンは魔法使いじゃないなんて言った?」


 思わぬ言葉に沈黙するモック。


「マクガーソンさん……あなた魔法使いですね? しかも攻撃魔法の使い手……黒魔導士だ」


「はっ! 何を言い出すかと思えば……俺はしがない宿屋のオーナーだよ。魔法とは無縁だ」


「いいや……あなたは魔法使いだ。それで二人の命を奪った!」


 ロンデルの言葉に語気を強めるマクガーソン。


「そんなに言うなら証拠を見せろ! 俺が魔法使いだっていう証拠をよお!」


「根拠は二つあります。

 初日に魔力回復用ドリンクが無くなったとき、あなたは使用人のミリアンさんから『火力が足りない』と言われ厨房に行きましたよね? このことからあなたは火力を発揮する能力を有していることが推測される。もう一つは、あなたのクセだ」


「クセだと?」


 ロンデルは頷き、続ける。


「あなた、右親指に指輪を嵌めていませんでしたか?」


 マクガーソンの顔色が明らかに変わった。そして、それに呼応するようにヘザーの表情も険しいものに変わる。


「宿屋の名簿にあなたがペンを走らせたとき、親指にリング状の跡があることに気づきました。そして先程部屋で話したときあなたは親指の付け根を揉むような仕草をしていた。これらからあなたが右親指に指輪を嵌めていたことが推測される。


 そしてこれら事実から……ある一つの結論が導かれる。それはこの街の掲示板に載っていた髑髏の指輪をした賞金首の正体――即ちそれがマクガーソンさん! あなただということがね!」


 ロンデルが示した結論に火に油を注いだように怒りを露わにするマクガーソン。


「ハッタリだ! 全部推測に過ぎん!」


「貴様が……貴様がブリューを!」


 今にも槍を構えて攻撃しそうなヘザーをモックが押さえる。


「賞金首があなただと仮定すると、今回の事件の全貌が見えてくるのですよ。まず、ブリューさん殺害後、彼を賞金首だと言ったのは他ならぬあなただ。あなたは何らかの理由でブリューさんを殺害後、彼に今までの罪を被せて賞金首に仕立て上げようと企んだ。


 彼の左手を持ち去り、証拠となる髑髏の指輪を嵌めた。そして彼を殺害した罪を今度は不運にもたまたま居合わせた黒魔導士のカーマインさんに着せて彼の命をも奪った。真相はもう闇の中だが、彼は本当に上級火炎魔法が使えなかったのかもしれない。それなのに唯一の黒魔導士ゆえに犯人に仕立て上げられ無念だっただろう……」


 ロンデルはマクガーソンに剣を向ける。


「ここはあなたの城だ。あなたが犯人であるのなら、この魔法障壁もあなたが仕組んだことになる」


 チラッと不気味に佇む扉を見るロンデル。


「あの扉の先……本当にただの設備室ですか?」


「…………」


 無言で俯くマクガーソン。


「答えなさいっ! マクガーソン!」


 相棒を殺されたヘザーの怒りはついに頂点を迎え、モックにも押さえられなくなっている。


「……フッフフ」


 マクガーソンが不気味に笑う。そして三人を見据え言い放つ。


「貴様を最初に殺っておけばよかったなあ」


 剣を握るロンデルに緊張が走る。


「そうさ……俺がやった。あのモンクの餓鬼、俺が賞金首だと見抜いていやがった。だから殺してやった。その時よお、ピンッと閃いたんだよ。あの黒魔導士の餓鬼に罪を着せりゃあいいじゃねえかってよお。上手くいきゃあ賞金もゲット、長い逃亡生活にもピリオド……天才かと思ったね」


 正体を現したマクガーソンはポケットから指輪を取りだす。それには禍々しい髑髏が描かれている。ブリューの左手から先程回収したものだ。


「この指輪は装備者に莫大な魔力を与える神器でな。黒魔導士には必須なアイテムなんだ」


 三人は身構える。


 剣を構えるロンデル。


 槍を構えるヘザー。


 短剣を構えるモック。


 それぞれの得物を構え、賞金首である黒魔導士マクガーソンと対峙する。

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