第36話 夫婦のあり方
「結婚って何だろう」
恒例ランチでの新婚らしからぬ友人の発言だ。
「それは私が結婚しているあなたに私が聞きたいわ」
聞いた本人も私に答えは求めていないのを承知しつつ言う。
友人は未練なく会社をあっさり辞めた。あれだけのキャリアがあるのに意外だった。
「専業主婦はどう?」
「会社の仕事の方が楽だわ」
「旦那様は家事をやるでしょう?」
「やってくれるというより率先してやってる。私と違って何でもできる」
「最高じゃん」
「二週間に一回、彼の実家で料理を習っているけど……」
「料理だったら習わなくてもできるじゃん。お義母さんが料理上手だと、妻は苦労するね」
「彼に好きな料理を聞いたら全部お義父さんが作ったものだった」
「最高じゃん」
料理を習っているのは彼女だけではく旦那様も一緒だろう。夫婦のあり方は一つではない。私には勇気を貰えた事実だった。
家に帰ると若者がキッチンで鶏肉と格闘していた。私の家のキッチンを使いこなし、オムライスに挑戦しているようだ。鍋料理以外のものを作れるとは思えず、不安を感じて側に寄る。
「どうしたの?」
「鶏肉が柔らかすぎて切れにくい」
「鶏肉を押さえた手の近くを切って。そうじゃなくて、オムライスを作っている理由は?」
「今時、料理ができないと捨てられるって兄貴に言われたから」
「君は燃えるゴミになるのかな?頼まれても捨てないけどね」
「怖い、怖い。でも必ずリサイクルするって約束して」
「了解。私はエコ派だから」
若者は本当にリサイクルしそうでそれも怖いと苦笑した。私は隣でサラダとお味噌汁の用意を始めた。
「一人だとやる気しないけど二人でやると苦にならない」
今度は玉ねぎと格闘中の若者が涙声でいう。
「不思議とそうだね」
「できるだけ一緒にやろう」
「うん。お互い無理せずにやっていこう」
玉ねぎを触った手で目をこすり、号泣に近い若者に私は濡らしたタオルを若者に渡した。
食事中、残りのゴールデンウイークをどう過ごすか話し合いながら、ふと思った。この落ち着いた感じは、結婚もしてないのに、まるで熟年夫婦だ。
「ねえ、一緒に住まない?」
若者は私の脳内を見れるのだろうか。タイミング絶妙すぎる。
「そうしようか」
ほぼ毎日朝食を共にし、寝る時も一緒だ。既に一緒に住んでいるようなものだ。
「えっ、いいの?」
「断られることを前提に言ったから困ってる?」
「どう説得するか考えなく勢いで言って、失敗すると思ったから拍子抜けした」
「計画立てて外堀から埋めていくタイプなのに珍しい。残りのゴールデンウイークは物件探しをする?」
「その前にやることがある」
若者はミニトマトをフォークで突き刺し、私の口元に差し出した。
「結婚してくれる?」
結婚しないと一緒に住めないと思っている若者は真面目で頑固で、そしてかわいい。
私は頷いて目の前のミニトマトを一口で食べた。
早く一緒に住みたいという若者が即座に計画をたてた。
結納や結婚式は一緒に住むためのプロセスだ。結納はしないで両家の顔合わせ場を設ける。結婚式は後で詳細は考えるが、小規模の食事会で。新居が決まった段階で入籍をして一緒に暮らし始める。お互いの両親に結婚の許しを貰い、これを納得させなければならない。
残りのゴールデンウイークに二人でお互いの両親のもとに行った。
私の両親は娘に結婚してほしいと願い続けたことが現実となった感激で他のことを願う余裕がなかったようだ。一人娘の結婚式に何のこだわりもなく私たちの希望を受け入れた。
娘が結婚式を望んでないことを知っていただけに、結婚式をあげると聞いて嬉しそうだった。
若者の両親とは前回の経験から家ではなく近所のレストランで両親とだけ会って話した。若者の母親は私を気遣い、何度も私の希望かと確認した。結婚式を簡素にしたい女性もいるということがわかるまで。
今回も口数の少ない若者の父親が「ここに変わり者の似たもの夫婦が誕生したな」と笑った。
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