第20話 京都へ
そうだ!京都に行こう!
すったもんだあったが、火曜日から二泊三日の京都旅行だ。
もちろん部屋は別で。私が京都へ行く際に定宿としているホテルを予約した。学生寮をリノベーションしたカジュアルホテルで綺麗でお洒落なのに手頃なのも魅力だ。
私たちは朝六時発のぞみ一号の車内にいた。
始発の車内は空いている。京都に着くまでの二時間半を早起きした分の睡眠と朝食に費やす。
旅行前にお互い行きたい場所を言い、大まかなスケジュールは決めた。無理して付き合わないこと。興味がなかったら別行動をする。私が若者にお願いしたルールだ。
マンネリと言われようと京都に来たら私はやはり鞍馬山に行きたい。
京都に着いてそのまま出町柳駅まで行き叡山電車に乗る。
車内の席は景色が見れる様に窓側に向いている。途中から傾斜がきつくなり山を登って行っているのがわかる。叡山電車の鞍馬駅から本堂まで軽く登山だ。参道の坂道と階段を登って鞍馬寺に着く。本殿でおまいりをすませ、本殿の前に広がる石床の金剛床にある六芒星の中心に若者を連れていき目を閉じ深呼吸するように言った。
ここは宇宙と繋がっていると言われていてパワースポットとしても有名なのだ。
「飛行機に乗った時みたいに耳に圧がかかった感じがする」
「宇宙と繋がってるって感じた?」
「わかりません。パワースポットなんでしょう。何をお願いしたんですか?」
「無事に帰れますように」
「どういう意味?」
「天狗信仰のある山って木々からの見られてるような気配を感じて怖いから」
「苦労して来たんだから他にあるでしょう」若者は憮然として言った。
出町柳に戻りランチ後に豆大福とお茶を買って鴨川デルタで食べる。
土手沿いにカップルが並んで座っている有名な場所はもっと下流だ。出町柳の鴨川は飛び石があり、子供たちが水遊びをしたりと賑やかだ。
「縁結びの神社には興味がないんですか?」いきなり若者が聞いてきた。
「行きたいの?」
「いや、縁結びとか恋愛とか避けてるのかと思って」
「あぁ、貴船神社に行かなかったから?鞍馬寺が軽い山登りなんだよ。そこから三時間も山を下るなんて私には無理。膝が笑う」
「じゃ、これから下鴨神社に行きましょう」
下鴨神社って縁結びだっけと思ったが黙って歩いた。
下鴨神社は葵祭の時に来たことがある。
お祭りの時の賑わいがないと森の中の参道は静かで空気の冷たさを感じた。静かでせせらぎが聞こえる。正殿でお参りをして、敷地内の縁結びの神様を祀っている相生社にも行く。手を合わせ、いつもの様に「来ました」と心の中で言ったところでそれではいけないと思い直す。でも急に何をお願いしていいのか焦り「ちゃんとした恋愛ができますように」とお願いしてしまった。
そして後悔した。どうしてもっとちゃんとしたお願いができなかったのだろう。
歩き疲れたから早めの夕食にしホテルに戻る。風呂から出てた時ドアをノックする音に気づく。風呂上りに一杯と言ってビールを差し出してきた。
地図やホテルで借りたガイドブックを広げていたベットに二人して胡坐をかき明日の予定を話しながらビールを飲む。
たくさん歩いた日の風呂上りのビールは格別に美味しかった。
若者は明日の交通手段を調べている。ふざけた言動をするが本当は真面目だ。疲れないように時間が無駄にならないようにと考えてくれている。
「もっと適当でいいよ。行き当たりばったりは個人旅行の特権だから」
「道に迷ったら困るでしょう」
「人生において迷ってばかりだから、道に迷うぐらい大した事ない。それに私は病的な方向音痴だから道に迷うのは慣れている」
「どっちも威張って言える事じゃない」と苦笑しながら「一緒に道に迷いますか」と潔く言った。
「僕に対して自分の考えをちゃんと話してくれるし素顔も見せてくれるけど、なんか距離感が縮まらないですね」
「私、スッピンだった。帰って」
「今更ですよ。大して変わりません」
「なんかムカつく」
「気になるなら、モザイク入れますよ」
若者がマジマジと私を見て言った。
京都一日目はこうして終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます