第19話 急な雷雨
残暑が残る九月、友人が仕事で三か月ほど海外に行く。
急に決まったのでランチをする暇もなかった。出発前日に夕食の差し入れをしたが、彼女の恋人がいて何の不自由もなさそうだった。
彼に叩き出される前に早々に退散した。
友人不在早々に毒を吐きたい事が起こった。
同じ部のアシスタントができないと泣いたせいで、彼女の上司は私に仕事を押し付けてきた。
悪人を許す人も悪人だと誰が言ったか忘れたが共感できると思った。
来週から部長が一週間休暇なので同じタイミングで私も取ることにした。ストライキだ。私がいなくても会社は潰れはしないし、困りもしない。でも、大変な思いをすればいいと意地の悪いことを思う。
部長は私の休暇を「やるな」という賞賛の言葉とともに快く承諾してくれた。
今日は金曜日。
休暇だけを心の支えに仕事をしたのだ。晴れやかな気持ちで退社した。
一週間毎日残業だった。今日も家に帰ったのは遅かったが、誰かと話したくて寝る前に若者に電話をした。
すっかり寛いでた若者が近いんだから直接話を聞くと言ってくれた。化粧を落としたばかりだ。少し悩んでスッピンのまま家を出た。
若者の家に入ると珈琲の香りが充満していた。
マグカップを持ってバルコニーの縁台に座る。私の災難を話していたら正面の空に綺麗な稲光が見えた。遠雷も聞こえてきて大粒の雨が降り出した。
若者が私を見て怒りで雷を起こすことも出来るのかと真顔で聞いた。
珈琲は飲み終えたが雨が激しく降り始め帰れない。
若者の家に来て食事をしたり話す場所はいつも開放感のあるバルコニーだ。部屋はベッドとソファーがあっても狭く感じないから13畳ほどの広さだろう。でもワンルームだからソファーの後ろにあるベッドは丸見えだ。
生活感がありすぎて落ち着かない。窓側で空を眺めていた。
稲光はなかなかの迫力だった。
雨が小降りになるまで海外ドラマを観ることになった。並んでソファーに座り無言で見入る。
雨はあがらず2話目に突入してすぐ私は寝落ちした。
朝日で目が覚めた。
なぜかベッドで寝ている。
隣にいる若者を見てパニックになった。しでかした?思わず服を着ているか確認し若者の寝顔を見て安堵のため息をついた。
私が起きた気配で若者が目を開け、おはようと囁いた。寝たまま顔が向かいあった状態だ。
「この状況に心臓が口から出そうなくらい驚いたんだけど」
「途中から寝ちゃってたから」
「で、なぜここで一緒に寝ているの?」
「だって他に寝る所がないじゃん。揺すっても起きないから運びました。めっちゃ重かったです」
なぜ運ぶ。ソファーに放置してくれて良かったのに…むしろ放置してほしかったと心の中で呟く。
「どうやって運んだの?」
「昨日の海外ドラマのようにちゃんと運びましたよ」
「死体じゃん!」
私たちが見てたのはラブストーリーでもラブコメディでもなくサスペンスだ。
若者は犯人さながら私の両足を掴み引きずったのか。それにしては私の身体には痣一つなかった。
海外ドラマの話をしながら朝ごはんを食べる。
若者にドラマの続きを平日も見ようと誘われたが、今週は休暇だ。急だから海外は行けないが旅行に行きたいと断った。
「どこに行くんですか?」
「急だし女一人旅なら京都かな」
「一緒に行きます」
「あのね、異性の友達とは旅行しないし一緒の布団で寝ないものなの。今度寝落ちしたらたたき起こして」
「こんな時だけ男扱いして」
「女だと思ったこと一度もないけど」
「ふーん。部屋を和室やツインルームにすれば一緒の布団じゃない」
「でたな屁理屈!」
「いや、問題解決だ」
「何で行きたがるかな」
「一緒だと楽しいから」
ストレートな発言にドキッとした。
「泊まる部屋は別々で」
ジェネレーションギャップなのだろうか、性格なのだろうか考えていると若者が言った。
「僕だって誰でもいい訳じゃない。友達でも男同士一緒のベッド寝るのは絶対嫌だ」
一緒で楽しいとの発言に一瞬ときめいたと思ったのは錯覚だったとため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます