第17話 ラッキーカラーは緑

 夏真っ盛り。クーラーの効いた会社で過ごしていると、子供頃この暑さの中、遊びや部活をしてた自分を褒めたくなる。



 お盆休みに入ったからか週初めなのに珍しく定時で会社を出た。外はまだ明るい。そしてまだまだ暑かった。


 家に着く手前でコンビニ袋を下げた若者に会った。最近はお互いの家でご飯を食べることがあるので久しぶりという感覚はない。でも今日は様子がおかしい。


 「顔色が緑よ」

 私がそう言った直後、若者の身体が揺れ私の肩にずっしりとした重みが加わった。

 「今朝の占いでラッキーカラーはグリーンでした」

 若者は朦朧とした様子で言った。


 熱中症のようだ。涼しいところに移動しなければいけない。若者は決して太ってはいないが支えて歩く距離は短くないと共倒れになる。


 私に寄りかかりながら歩く若者を私の家に連れていった。


 なんとか家に入り、若者をベット座らせクーラーをつける。

 寝室にしている部屋は狭いので直ぐに冷えた。水分補給をさせたが、汗でTシャツが身体に張り付いている。身体を拭いてと冷たいタオルと着替えを渡す。


 だるそうで動きが遅い。着替え終わったとことでベットに寝かせた。


 たしか熱中症の時は太い血管を冷やすといいと習った記憶がある。ハンカチで包んだ保冷剤を首の両側に当たるように巻いた。


 何度か保冷剤を取り換えたら体が冷えてきたのだろう、顔色が良くなってきた。

 「吐き気はない?」

 「吐き気はないけど、恥ずかしいから気絶したい」

 若者の声は弱々しいがしっかりしている。吐き気もなく意識もある、ろれつも普通だから初期症状だろう。大事に至らなくてよかった。横になっている若者を見て微笑んだ。


 「そのセリフはまだ早いよ。少し寝て」

 カーテンを閉め部屋を出た。


 若者が寝てる間に簡単に夕食を作る。

 冷汁もどきと豚肉と野菜の冷しゃぶだ。きゅうりが入ってない冷汁を冷汁と言っていいのかと自問自答する。


 ご飯が炊きあがる頃お腹が空いたと若者が起きてきた。

 一時間ほど寝たらさらに回復したようだった。


 若者が顔を洗って戻ってきたところで夕食にする。

 「初めて寝室に入りました」

 若者が冷汁を飲みながら言う。

 「入ったどころか、今までベットで寝たよね」

 「見たいと思ってたけど、そこまでできるとは。前から思ってたんですけど、この部屋って凄く落ち着くけど女性感が全くないんです」

 「怖いもの見たさだ。実は私、男だったりして」

 「それは困ります」

 「部屋の色を抑えているから落ち着くじゃないかな」


 チェアは黒の革張りだ。黒が目立ちすぎないように家具はダークブラウンにしている。

 家具といっても置いてあるのはキッチンとの仕切りにしているキャビネットとカフェテーブルだけだ。この部屋にある明るい色は薄紫のクッションだけ。確かに女の部屋とは思えない。



 「女性を思わせるものが何もないから他の部屋はどうなっているのかと思って」

 「掃除をしやすいようにできるだけ収納しているだけで深い意味はないよ。クローゼットはもともと押入れだから容量が大きいのよ。寝室も同じ感じで、ごめん」

 「同じでした。でも何もないだけにサイドテーブルに置いてあるボディオイルのいい匂いにクラクラしました」

 「馬鹿だね。匂いにクラクラしたんじゃなくて、熱中症でめまいを起こしたのよ」

 若者が不服そうな顔をした。

 「めまいと言えば、自分の姿を見てめまいがしました。髪がひどいことになっているし、それにこのTシャツ……」


 私が着替えに渡したのは白地にリアルな大仏の横顔が大きくプリントされたものだ。合わせたかの様に若者の髪は汗で膨張してカリフラワーのようになっている。


 「顔色はちょうどそんな色だった。それを着て寝てる姿はシュールだったわ」

 私はTシャツの大仏を指差し言った。

 「なぜこれを」

 「私が持ってる服の中で一番大きかったから。ピンクのピチピチのTシャツの方が良かった?」

 「降参です。病人なんだから優しくしてください」

 「ところで、今日のラッキーカラーはグリーンなんだってね」

 言いながら笑ってしまった。

 やっぱり優しくないと言って若者も笑った。

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