第10話 恋愛は束縛そのもの?
「恋愛は束縛そのものなのに、その束縛がどこまでが心地よく、どこからが苦痛になるのか」
同窓会で再会した同級生からの電話やメール攻撃を受けてる私を見て友人の発言だ。
今回の恒例ランチはお互いの実家から送らて来た食材を消費するため私の家で「宅飲み」だ。私がキッチンの広い家に引っ越してからは持ち寄りではなく二人で作るようになった。今日も彼女は自転車のかごに食材を入れやって来た。
親心はありがたいが、私たちの親は娘が一人暮らしだと忘れているようで一人では消費できない量の食料を送ってくる。私の父が自家菜園にはまっているため、いびつだが新鮮な野菜を送ってくれるし、彼女の実家は果物農園で旬な果物を送ってくれる。私たちは簡単なものしか作らない(作れない)が、よく言えば素材を生かした料理を作っている。
「一人暮らしでこの大きさの冷蔵庫をなぜ買う。死体でも入れる気?」
新調したばかりのスリードアタイプの冷蔵庫に持ってきた白ワインを入れながら友人がパンチに効いた発言をする。
「そのままでは入らないけどね」
野菜を切りながら平然と答える光景は我ながら怖いものがある。
まだ肌寒い三月初旬、私たちは実家からの恩恵による食材での鍋と数品のおつまみを作り、ありがたく頂く。
「想定以上の地獄を見た」
同窓会の惨事を私はそう締めくくり報告した。友人は大爆笑だ。私には笑いごとではない。あの日以来、例の同級生からメールや電話が頻繁にくるからだ。
「後始末がまだなのよ。面倒くさいことに例の同級生から連絡がくるようになって困ってる。話のわからない人にどう対応したらいいのかわからない。正直いつキレるか時間の問題だわ」
「とりあえず付き合えば?」
「そうきたか……」
予想外の発言に何も言えなくなる。
なぜ付き合うことができないのか、生理的に受け付けないとか見た目ではない。友達としては許容できても恋人としては許容できないものがある。お互いを知っているということは良いことばかりではない。知り合って距離を縮めるまでの時間は省略できるだろうが、付き合い始めの遠慮というか配慮はないだろう。恋人になったからと言って言動は友達の時と変わらない。約束の時間には遅刻して待たされるだろうし、私の時間を気にせず夜中でも電話をしてくるだろう。
私は無理だという結論に達して、彼女に同意を求めた。
「独身も一人暮らしも長く自由を知っている私たちにとって振り回されることが一番のストレスでしょ。仕事で振り回されても対価が発生するから我慢できるけど、プライベートは我慢する理由を見つけるのが難しい。好きなだけでは限界がくる。この騒ぎで嫌いになりそうな状態で付き合える?」
「結論は同意。それにあなたは人より自由に対する要求が強いし無理だろうね」
私は一人っ子で親が厳しかった。学生時代の門限は夜八時だったし、社会人になり実家から通勤していた頃でも通勤時間が片道一時間以上かかるのに夜九時に帰っても遅いと言われていた。休日朝七時に起きても「具合が悪いのか」と聞かれてしまう。寝坊もできない。今でも実家に帰ると軍隊の様に規則正しい生活を強要される。自由への渇望は私の永遠のテーマになってしまっている。
「確かに私は実家で囚われの身だったから」
「恋愛は束縛そのものなのに、その束縛がどこまでが心地よく、どこからが苦痛になるんだろうね」
本当に不思議だ。連絡をすることが義務や束縛に感じる時があるのはなぜだろう。しかし、今の私の悩みと根本が違う。
「そもそも恋愛してないし!好きでもない人からの電話やメールは迷惑以外のないものでないんですけど」
「逃げる男(元カレ)に追う男(同級生)、男難の相が出てるんじゃない」
「やっぱり最後は神頼みじゃない?お祓いしなよ」
最後は話がずれたり、急に話が変わるのはいつものことだ。結局、電話やメール攻撃を止める手段は浮かばないままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます