第8話 地獄のような同窓会

 同窓会当日が来てしまった。




 毎朝出勤前に走ったが一週間で体は絞られるはずもなかった。服装でカバーするしかない。会場が地元の居酒屋だったら迷わずジーンズで行くのに、わざわざ都内のお洒落なイタリアンレストランで行われる。スーツでは窮屈だし、ジーンズではラフすぎる。悩んだすえ、ロング丈のラップワンピースを選んだ。ラベンダー色に小さな白のドット柄はだまし絵の様にスタイルが良く見える。くせ毛がパーマに見えるようにごまかし化粧をしたら、見劣りはしないだろう。


 やるだけやったし体重と同じで今さらあがいてもどう のもならない。




 午後五時十五分。開始時間から十五分遅刻してお店に着いた。方向音痴だから早めに家を出れば良かったのだが、体は正直で重い心のまま足取りも重かった。


 二十名強、クラスの半分以上が参加している。立食式だ。目立たないように雑談になるのを見計らって幹事のため人の輪から離れている友達のところへ行った。


 高校の友達と一年ぶりの再開を喜ぶ。友達はベージュのスーツ姿だ。

 彼女は高校で英語の先生をしてるためか、落ち着いている。一緒にいると立たされている気分になった。お互いの近況報告をしたところで、他の同級生に邪魔されてしまった。その中にお互い独身だったら結婚しようと言ってた彼もいた。


 今の私は軽いウェーブのロングヘアーだが、高校三年間はクセ毛を隠すためずっとショートヘアーだった。今は美容師さんのおかげでクセ毛は雨が降らない限りパーマに見える。ロングヘアにワンピースは女性らしく見えたらしい。高校を卒業して初めて会う同級生には驚きだったようだ。少々目立ってしまった。そしてボーイッシュなイメージが一転したことが皆んなの好奇心の対象になってしまった。想定より多い人数の中で恋人がいるか聞かれ別れたことを言う羽目になった。


 「じぁ、約束通り俺と結婚するか皆んなのネタになる前に2人で相談しよう」

 例の彼が挨拶もなしに言ってきた。

 「その発言がネタ提供してるって!」

 返しながら、心の中で「この馬鹿!!死ね!」と叫ぶ。そうだ、こいつは昔から何も考えない奴だった。


 「いつから、そんな仲なの?!」

 事情を知らない同級生の質問攻撃に身震いがした。私の方が先に死ぬことになるのは間違いなさそうだ。


 地獄のような同窓会が終わった。




 何も考えない馬鹿男のせいで私にとっては質問にひたすら耐えて答える不祥事のお詫び会見の様な同窓会になった。あんな奴でも好きだという女性がいたかもしれない。刺されなくて良かった。


 なんとか二次会を断り駅に向かう。すぐに、例の彼が追いかけてきた。

 「皆で飲みにいくけど一杯だけでも飲もうよ」

 「あんたのせいで疲れてるから帰りたい」

 「二人で飲みに行く?」

 「今飲んだら絡み酒になるから遠慮しとく」

 私の殺気をやっと感じたようだ。一瞬、言葉が落ちた。


 「じぁ、俺たちとりあえず付き合う?」

 私の殺気を感じたと思ったのは勘違いだった。

 「付き合わない!」

 「俺は早生まれだから、まだ三十二歳になってない」


 今度は私が一瞬言葉を失った。そんな問題ではない。それに自分基準か。


 「私のこと好きでもないのに意味がわからない」

 「まぁ、いいじゃん。ちょっと考えてみて」

 「だから、付き合わないー」

 私は去っていく彼の背中に言い放った。



 面倒くさい……



 こいつとは昔から会話が成り立たなかった。こんな関係で付き合えるか。高校大学と同じ、腐れ縁を恨めしく思い、溜息をついた。




 車内でやっと一人になれてほっとする。車内は空いていたが戸口に立って窓に映る自分の顔を他人を見る感覚で見ていた。ふと後ろに立っている男性と目が合った。背が高くて好青年風だ。嫌なことがあったから、神様が罪滅ぼしに目の保養をさせてくれたのかなと思った。そしてすぐに若いイケメン1人ぐらいじゃ、罪滅ぼしにならないぞ!と心の中で毒づいていた。

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