第6話 異性と出会う確率

 「いい男に出会うより自分に雷が落ちる方が確率的に高い気がする」



 二月の夕方。恒例ランチが珍しく夜になったり、ほろ酔い気分になった頃季節外れの雷が鳴り響いた。そして、友人の名言が生まれた。



 確かに、雷の季節は六月から八月にかけてだ。今から雷がなっていては雷のハイシーズンはどうなることか。

 同意しつつも、そうだ、私はこの前いい男に出会ったんだ!と思い当たった。私の理想のいい男に。



 その人の名は真鍋七五三兵衛。そう和田竜先生の「村上海賊の娘」に出てくる人物だ。出会った瞬間に惚れた。


 本屋大賞にもなった話題の本だから彼を知っている人は多いだろう。ちなみに彼は架空の人物ではなく実際の人物だ。あの本の七五三兵衛は男らしい男だ。それも私好みの豪快な男だ。


 歴史上の人物の大半と同じで、七五三兵衛もまた、どのような人物かははっきりしない。でも、それは歴史上の人物だけだろうか。誰にでも言える。私にも。私に好意的な人と敵意を持った人とでは私に対する人物像が違ってくるように。そして私はあの本の七五三兵衛に惚れたのだ。



 七五三兵衛の話を友人は呆れながらもちゃんと聞いていたが「心を盗りに来た」(本の中で七五三兵衛がヒロインに言ったセリフだ)と私も言われたい!と熱く語った時に友人の忍耐力も限界を迎えた。



 「あんたの周りには死んでる男しかいないの?」

 「そんな事はない。いい男がたまたま死んでいただけ」

 「この分だと、いい男に出会うより自分に雷が落ちる方が確率的に高い気がする」

 そんな掛け合いをしながら、雷をBGMにバカみたいな想像の世界の話で盛り上がる。



 実際に私たちが七五三兵衛の時代に生きていたら、彼と付き合えるか。戦国時代なので付き合うと言うより、結婚になるが。


 戦国時代の豪快で無謀な男だ。私の無礼は見逃してくれるだろうが、男の生死が心配で身がもたない。そもそも心配性の女では相手にもされないだろう。よく考えたら、私よりも心配されることに慣れている友人の方が無謀な男には合っているような気がしてきた。


 好みとの実際合うかは全然違う。想像の世界でも容赦ない。



 現実の世界に戻り、私の周りにいる生きている男に目を向けてみようということになった。私が思う「いい男」である必要はない。いい男は憧れのままでいた方が幸せだとわかっているから、とりあえず性別が男性という大きな括りで目を向ける。



 私には親しい男友達がいない。小学校から大学まで男女共学だが、父が転勤族ということもあり高校まで入った学校と出た学校が違った。そのため新しい環境への適応能力は高いが、人見知りは治らなかった。転勤族だから地元の友達もいない。大学を卒業して間もないうちは男子を含めて同級生とも会っていたが、それぞれ仕事が忙しくなり疎遠になった。今では年に1回会えばいい方だ。


 そう、私の周りにいる男性は仕事関係か常連にしてる珈琲店の店員さんだけだ。そのうち、既婚者と年齢を考えると、恋愛対象者は寂しい結果になる。



 「いい男に出会う確率どころか、男性と出会う確率さえも雷が自分に落ちる確率に負けるんだけど。初詣で出会いをお願いすべきだった」とつぶやいた。 



 「年齢はこの際、目をつぶろう。対象者がいなくなる」

 「いやいや、年上の人はほとんど結婚してる。年下は相手が嫌がる」

 「そう言えば、大学を卒業して十年経ってお互い独身だったら結婚しようって言われた高校の同級生がいたじゃん。どうなった?」



 高校三年の時のクラスメイトで同じ大学でサークルも同じだったから、比較的仲が良かったが男女として付き合っていたわけではない。高校の同級生の結婚式の二次会で冗談のように言われたので仲間内でもネタにされている。



 「すっかり忘れてた。私はとっくに三十二歳だから、あっちも忘れてるんじゃない。」

 そう言いながら、同窓会への参加の催促メールに返事をしないといけないことを思い出した。

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