第3話  魔機車の販売店

 ひとまずはファンガーロに来た目的である魔機車を見に行くことに決まり、ロクックの案内で都市の東側に向かう。


「他の町とは雰囲気が違いますね」


 物珍しそうにメーリィとユーフィがそれぞれ左右を見物しながらつぶやく。

 思考を共有する二人はいちいち左右に首を振らずとも役割分担するだけで左右を観察できるのだ。

 他の町にもある魔機の街灯はもちろん、都市清掃用に作られたらしい掃除機や商店で使われている会計機など、ファンガーロは他に比べて百年近く先に進んでいるように見えた。


「マジックパンク感あるよなぁ」


 魔機獣は動物系サイボーグらしく異質なマジックパンク感があるものの、この世界はトールの感覚ではファンタジー世界観を逸脱していなかった。

 しかし、近代に片足を踏み込んだようなファンガーロの街並みは電気の代わりに魔力を用いたマジックパンク風味がそこはかとなく漂ってくる。

 中には用途が分からないものもあるが、見学して回るだけでもなかなか楽しい。


 お上りさん丸出しの三人を楽しそうに眺めながら、ロクックが空を指さす。


「飛行系の魔機獣を参考にした空飛ぶ乗り物も開発中だってよ。なんでも、軽い金属合金が使われている魔機獣がいるらしい。討伐が難しいからサンプルも少なくて難航しているけどな」

「飛行機ですか」

「乗ってみたいですね」


 ユーフィとメーリィが憧れるように空を見上げた。


 そうこうしているうちに魔機車の販売店に到着する。

 ロクックを見た店の従業員がすぐに奥から店長を呼んできた。

 慌てて出てきた店長はロクックを見てニコニコ顔で声をかけてくる。


「ロクック様、ついにクランを結成なさったんですか? メンバーはやはり、ジャンズさんたちでしょうか?」

「いや、俺が買いに来たわけじゃないんだ。古い知り合いがちょっとな」


 ロクックがトールに目配せすると、店長はトールを上から下までざっと観察する。


「オーバーパーツは……ないようですね」

「まぁね。そっちの双子と三人で旅をしてるんだ。大型の魔機車を見せてもらいたいんだが」

「かしこまりました。こちらへ」


 店長は店の奥の扉を抜け、裏手の駐車場に案内し始める。


「ロクック様、差し出がましいようですが、クランを結成されてはいかがですか? いつまでも一人で活動するというのはやはり、心配ですし」

「あんたに心配されるようなことはないよ。まったく、どいつもこいつも……」


 頭痛でも抑えるようにこめかみを押さえたロクックに、メーリィが不思議そうな顔をする。


「一人の方が戦いやすいんですか?」


 尋ねられたロクックは言葉を選ぶように視線を泳がせる。


「それもあるが……。クランなんて結成すると団員の面倒まで見る責任があるだろう。そうなると、前線にむやみに出るわけにもいかなくなってくる。オーバーパーツは戦闘用の魔機だってのに、本末転倒だよ」

「安全に稼げるならそっちの方がいいと思いますけど、戦いたがるのは男の子だからでしょうか?」

「……トール、男の子扱いされたの久々なんだが」

「くっそウケる。めげるな、男の子。大志を抱けよ、少年よ」

「んだと、こら。歳はさして変わらねぇ上にお前も戦いたがりじゃねぇか。序列十七位の戦闘狂が」

「はっ、育ち盛りの少年と違って、いまじゃほとんど戦いにもならねぇよ」

「自信家が。外に出ろよ。久しぶりの戦いを経験させてやらぁ」

「お? 早速、大志を抱いたか」

「言ってろ」


 じゃれあう二人を見て、ユーフィとメーリィが揃って首を振る。


「子供ですねぇ」


 店長が意外そうにロクックとトールを見比べる。


「いつも素っ気ないロクック様が随分と気安いようで」

「素っ気ない?」


 ロクックにヘッドロックを仕掛けていたトールは聞き返す。

 トールはさほどロクックと仲が良かったわけではない。ファンガーロに来るまではあいさつを交わす程度の仲だった。

 それがこうして技を掛け合うような距離感になっているのだから、ロクックがそっけないというのはにわかに信じられない。


「本人の前でいうのはその、気が引けるんですが。五年前は人当たりも柔らかかったのですが、ここ最近はどこかピリピリしているように見えまして。ストレスが溜まっているのなら気のいい仲間でも作ってはどうかと思っていました。ロクック様はファンガーロでも有名人ですから、やはりみんな心配で」


 トールはロクックを見る。

 ばつが悪そうな顔で視線をそらしたロクックは口を閉ざしたままだ。


「なんだ、ロクックってツンデレ属性でも持ってんの?」

「……なんだ、それ?」


 聞きなれない単語にロクックが聞き返すと、ユーフィとメーリィが口をはさむ。


「よくぞ聞いてくれました!」

「ツンデレとは気心を許している相手にとげとげしく接する性格をいいます」

「つまり、ファンガーロに来た当初のロクックさんは周囲の人々を警戒して波風立てないようにしていました」

「しかし、今は気を許しているものの、いつの間にか様付けで呼ばれるほど有名になっているため気恥ずかしくなり、とげとげしく振舞ってしまっています」


 双子の用語解説を聞いた店長は合点がいったらしく、大きく頷いた。


「要は照れ隠しですね」

「そんなんじゃねぇ!」

「ほらな?」

「トール、お前、マジ許さん」


 睨んでくるロクックに笑いながら、トールたちは店の裏手にある駐車場に入る。

 野ざらしの広場を想像していたが、現れたのは地下一階、地上二階建ての駐車場だった。全周が壁に囲われており、一階部分は乗用車クラス、地下一階は大型車、地上二階は一人乗りの小型車が展示されているという。


「こちらの階段からどうぞ。オプションパーツは別棟にまとめてありますので、後程ご覧いただけます」


 地下への階段を下りる。魔機の昇降機が階段の横にあったが、どうやら地下への搬送用に使う業務用の昇降機らしい。

 地下にはいくつもの大型車が展示されていた。丸みを帯びたデザインの物から直方体に見える物、荷台部分が別売りなものや一体型と、バリエーションも豊富なようだ。


「では、ごゆっくりご覧ください――」


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