第18話  お墓参り

「事後報告となって申し訳ありません、お父様、お母様」


 双子が揃ってウバズ商会倒産までの経緯を墓石に語り掛けている。

 墓地の管理人と紅茶を飲みながら、トールは二人の姿を見守っていた。


「それじゃあ、双子の両親を手に掛けた連中はもう?」

「えぇ、処刑されています。かなりの数の出資者が賞金を懸けたそうですよ」


 墓地の管理人は曲がった腰をさすりながら答えてくれた。


「気のいいご夫婦でしたし、手の及ぶ範囲は助けようといろいろ慈善事業をしてましたから」

「道理でお墓も立派なわけだ」

「冒険者さんにはうらやましいですか?」

「どうでしょうね。死ぬと思ったことはほとんどないですから、自分の墓と言われてもぴんと来ない」

「お強いんですね?」

「そうでもないですよ」

「――お前が強くないなら、この世界に強い奴なんかいねぇよ」


 管理人との世間話に割って入った声に顔を向ける。

 ダランディ支部長が歩いてくるところだった。隣には妻らしき女性の姿もある。

 トールは二人が座れるように位置をずらしながら口を開く。


「事情聴取その他は終わったのか?」

「おう。証拠品のウッドメタルも押収した。密輸されていた金貨も七割ほどは残っていた。金貨の処置に関してはもめてるが、もう知らん。後は財政を仕切ってる連中の仕事だ」


 清々した、と支部長は腕を組んでふんぞり返る。

 静かに支部長の隣に座った妻の方が墓場の双子を見て優しく目を細めた。


「大きくなりましたねぇ」

「自分の行く末を自分で決められる歳だからな。まさかこの優男が持っていくとは思わなかったが」


 ぎろりと三白眼でにらみを利かせてくる支部長に、トールは肩をすくめた。


「双方に利益のある提案だったから受けたんだよ。文句があるなら二人を説得すればいい」

「あの二人に口で勝てると思うのか!?」

「男なら口ではなく背中で語れよ。ほら、見ててやるから、上半身裸になっていってこいや」

「いけるか、馬鹿野郎。年頃の娘には気持ち悪がられるだけだ」


 むすっとした顔でそっぽを向く支部長に、妻が笑う。


「この人、お風呂上がりに上半身裸でくつろいでいたら娘に白い目で見られたのがトラウマみたいで」

「言うんじゃねぇ」

「あらあら、まぁまぁ、照れちゃって。こんな背中は私にだけ見せておけばいいんですよ」


 支部長に遮られても一切怯む様子がないどころか、支部長の背中をバンバン力任せに叩いている。

 ケンカするほど仲がいい夫婦とは双子の談だが、ケンカにすらなっていない。

 支部長も妻には敵わないと知っているらしく、話題を変えた。


「それで、ダランディを出てどこに向かうんだ?」

「とりあえず、フラーレタリアに行こうと思ってる」

「フラーレタリアか。目的はダンジョンだな?」


 さすがはギルドの支部を預かるだけあってすぐに目的に思い当たった支部長の予想を頷いて肯定する。

 フラーレタリアは有名なダンジョン都市だ。

 五十年もの間攻略されずに残っているダンジョンと共に発展してきた特殊性から冒険者が多く集まり、金払いのいい冒険者を当て込んだ各種商売やダンジョン産の落ち物の販売収益で賑わう都市でもある。

 トールは茶菓子に手を伸ばす。


「双子は文無しで、俺もそれほど金に余裕がない。ちょっと稼ごうと思ってな」

「金に余裕がない? 序列持ちのお前が?」


 なぜ、と支部長が不審がる。

 Bランクの冒険者に直接依頼をする場合、報酬には金貨が必要になる。

 まして、序列持ちともなれば強力な魔物や魔機獣も討伐できるため、依頼を受けなくとも大金持ちになるのはたやすい。


「散財してたからな」

「若いから仕方ないか。だがな、これからはユーフィとメーリィもいるん――」

「あなた、人の財布に口を突っ込まないの」


 妻にぴしゃりと窘められ、支部長が渋い顔をする。

 トールは苦笑した。


「旧文明関連の品や落ち物の収集をしてたんだ。もう手を出すこともない」


 トールがあまり金を持っていないのは、地球に帰還するための情報集めを目的に様々な手がかりを収集していたからだ。

 だが、十年目を迎えて諦めたため、もう収集することはないだろう。


「――実に興味がありますね、トールさんのコレクション。私たちのコレクションは売ってしまいましたから」

「お墓参りが終わりました。トールさん、お花をありがとうございます」


 墓参りを終えたユーフィとメーリィが会話に割って入る。


「ユーフィ、コレクションは俺の拠点においてあるからすぐには見せられない。まずはフラーレタリアでダンジョンに潜って稼ぐところからだ。二人の戦闘訓練もしたいしな。メーリィ、花は二人の両親に対しての礼儀だ。今度は三人でそれぞれに買ってこよう」


 それぞれに言い返したトールは紅茶を飲み干して立ち上がる。


「予定より少し早いがもう行くか?」

「そうですね。皆さん、お世話になりました」


 ユーフィとメーリィが支部長たちへと丁寧に頭を下げ、トールの左右に並んで歩きだす。

 支部長が面白くなさそうにトールの背中を睨んだ。


「あいつ、いまどうやって見分けたんだ?」

「私たちと違って勘が鋭いのかもしれませんね。あなたも現役時代は勘が鋭かったものですけどすっかり丸くなっちゃって」

「誰かさんの掌の上で散々転がされたからだ」

「なら、トール君も次に見る時には丸くなってそうね。二人がかりですから、磨いた宝石みたいになりますよ、きっと」


 楽しみねぇ、とのんびり笑う妻に、支部長はため息をついた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る