第4話  

  カイはそっと目を開ける。

 


「……」



 カイは呆然としながら周囲を見渡す。

 カイの自室はキリア城の最上階・7階にある。

 しかしカイ、ラミア、クロ、ソニアは1階に落下していたのだ。


 怒髪どはつかんむりく勢いのゴルナークの一撃によって城が半壊はんかいしたのだ。

 城の半分が瓦礫がれきの山と化していた。

 本来であればカイ達は落下で大怪我する可能性があったが、そうはならなかった。



「大丈夫ですか、カイ様? あとクロ様にラミア様……」



 両手で巨大な盾が握ったソニアがカイ達の前に立って、だいだい色の魔力結界がカイ達をおおっていた。



「な、なんなの、今のは?」


「し、城が壊れたニャ……」



 あまりの出来事にクロとラミアは唖然あぜんとしていた。

 ソニアは申し訳なさそうに立ち上がり、1階まで同じように落下した大男をにらみつける。



「……お父様、何も言わずカイ様のもとに向かった私にも問題はありますが、なにも神器で城を破壊するのは、さすがにやりすぎです」



 カイ達と同じように落下したはずのゴルナークは悪びれた様子もなく、



「……フン」


「謝罪もできないわけ?」



 すると、落下の衝撃しょうげきで髪がみだれたラミアが立ち上がる。

 紅の瞳はゴルナークに向けられる。



「アンタ、やって良い事と悪い事の判断もできないわけ!? 怒りに任せて城を破壊する奴なんていないわよ」


「ら、ラミア……?」


「カイはだまって! このオッサンのやったことに腹が立たないの!? 今ので怪我人が出たかもしれないのよ!?」



 ラミアの怒りはもっともだ。

 ゴルナークの放った一撃は城を半壊させたのだ。

 怪我人がいないわけがない。

 それでもカイは一切あせらず、



「それなら大丈夫だ」


「なんでよッ!?」



 すると、上空からふちの広い帽子ぼうしをかぶった黒装束の少女が現れる。

 その少女・ティアラはゴルナークに相対あいたいするように降りたつ。

 ティアラはカイのほうを向くと、



「……怪我人はいない……すぐに直す?……」


「ああ、頼む」



 ティアラは両のてのひらを合わせると、



「時の経過は万物をみにくい姿に変える、なら我は再びそのかがやきを取り戻そう、『時戻しタイムリープ』」



 その詠唱とともに倒壊した城の瓦礫がれきが浮かび上がり、たちまち城は修復されていく。

 数秒としないうちに城は元の形に戻っていた。



「す、すごいニャ……」



 両のてのひらを離したティアラはゴルナークをにらむ。



「……これ以上……暴れないで……」



 『漆黒しっこくの魔女』は神器である『嫉妬レヴィアタン』を顕現けんげんさせ戦闘態勢せんとうたいせいに入る。

 それだけゴルナークは危険な相手だった。

 一触即発いっしょくそくはつの状況でゴルナークの手にあったハンマーが光のつぶとなって消える。



「行くぞ、ソニア! ヘブンミリアに戻る」



 ゴルナークはきびすを返し、その場を後にしようとする。



「ゴルナーク卿。宿のほうは……」


「ここには泊まらん。すぐに帰るぞッ!」



 カイの呼びかけをゴルナークは一蹴いっしゅうする。

 ソニアはカイとゴルナークを交互に見ながら、対応に困っている。



「も、申し訳ありませんでした、カイ様、それに皆様も……。お父様にはキツク言っておきますので。それと後日、謝罪を……」


「いえ、ソニア様は何も悪くないです。むしろ、自分達のことを守ってくださり感謝します」



 ソニアは無理矢理笑みを浮かべると、 ゴルナークの後ろをついて行ったのだった。



         ※



「なんなの、あのオジサン!? 謝罪の一つもないなんて!?」



 ラミアの怒りは収まるところを知らなかった。

 ゴルナークたちはあれの後、すぐに帰国してしまった。

 カイ達は自室に戻り、椅子いすに腰をかけながらカイの用意したお菓子かしに手を付けていた。



「ミャーには次元が違いすぎて、話にすらついていけなかったニャ……。あ、このお菓子おいしいニャ」


「そうか、おいしいなら作ったかいもあったな」


「そんなことより、カイもなんで何も言い返さないわけ!? 死にかけたのよ……、ムグッ!?」

  


 カイはお菓子をつまんで、憤慨ふんがいするラミアの口に押し込んだ。



「まあ、食べろ」



 口にねじ込まれたお菓子を口に入れながらラミアは口をふくらませるが、それ以上何も言わなかった。

 カイの無言の怒りがラミアにもやっと伝わったからだ。



「……おいしい」


「そうか、落ち着いたなら良かった」



 お菓子を無言で食べ続けるラミアとクロを見ながらカイは口を開く。



「ラミアとクロには迷惑をかけた。すまない」


「いやいや、むしろカイのほうが被害者ひがいしゃニャ! ミャーのことは気にする必要はないニャ。ただ……」



 ラミア達もゴルナークたちのことで気になったこともあるのだろう。

 ラミアは悔しそうに深紅の瞳をさらに真っ赤にし、クロも意気消沈いきしょうちんしているのかネコ耳が元気なくれている。

 好き勝手されたことを本気で怒っているようだった。

 不謹慎ふきんしんながらもカイはそのことが何よりもうれしかった。



「そうだな。ラミアとクロには話しておくか」



 無言でカイの次の言葉を待つラミアとクロ。



「さっきも話した通り、ソニアは俺の婚約者だ。そこまでは良いか?」


「大丈夫ニャ」


「……」



 ラミアは不服ふふくそうに目の前のお菓子に手を伸ばす。



「ゴルナークは俺とソニアの関係を受け入れてない」


「そんなの見れば分かるわよ。それならなんでソニアと婚約こんやくしたのよ?」


「ヘブンミリアをギフテル全土に受け入れてもらうためだ」


「受け入れてもらう?」


「ラミアは知らないのか? まあ、別に大したことでもない。たんにヘブンミリアとギフテルの関係性を強化するための政略結婚せいりゃくけっこんとでも考えてくれ」


「そのわりにソニアはアナタとの結婚に乗り気なようだけど……」



 ラミアの言葉にクロも深くうなずく。

 彼女達にとってそれが一番重要らしい。



「それについては分からない。正直、あまり面識めんしきがないんだ」


「婚約の話ってアナタがここの王に成り代わる前からある話なの?」


「ああ。だけど、俺が成り代わる前はソニアとの面識はなかったらしい」



 カイはのどかわきを満たすためにコップに入った水を一気に飲み干す。



「それで、だ。ゴルナークとソニアはラミア達と同じように神器を持っている」


「!?」



 クロは驚きのあまりネコ耳がピンッと立つ。

 それと同時に喉にお菓子をまらせてしまったのか、平らな胸に拳を当て、コップに入れられた水を一気飲みする。



「ちょっとクロ、大丈夫?」



 先程まで怒りで周りが見えていなかったラミアだが、今は落ち着いてクロの背中をさする。

 クロが息を吐いたのを確認すると、カイは苦笑しながら話を続ける。



「2人の持つ神器だが、ゴルナークはハンマー、ソニアはたての神器を持っている」


「なるほど、それならあのフザケタ破壊力にも納得いくわ」



 カイはふところから一つの巻物を取り出す。

 かなりの機密情報きみつじょうほうであるがゆえに、いつも持ち歩いているのだ。

 それを広げラミアとクロの前に置く。



「これって……」


「文字がいっぱいで読めないニャ……」


「とある事件で押収おうしゅうしたものだ。ここに神器の詳細が書かれている」



 ラミアとクロは肩を並べて、一通り目を通す。

 そしてラミアは『風神の弓』、クロはサザンの事件で手に入れた黒一色のダガーを取り出す。



「見たところ私のは『アズライールの神器』ってことでいいのかしら? クロのダガーは『色欲アスモデウス』って考えるのが自然ね。サザンでもこれと似た能力は確認したし」


「あのオジサンのハンマーは『ラファエル』、ソニアのは『ウリエル』ニャ! でも、ここにセルカって書いてある……」


「セルカ=ヘブンミリアはソニアの母だ。神器って子孫に受け継がれるケースが多いんだ。ラミアもそうだろ?」



 カイは巻物を懐に戻しながら、



「これがヘブンミリアの全てだ」


「本当にこれでなのかしら?」



 ラミアは意味深な言葉をカイにぶつける。



「ヘブンミリア、については分かったわ。それならどうしてミーシャを養子にしようとしたの?」


「さあ……?」



 口ではそう言う。

 カイの様子から何か隠していることに勘づいたラミアだったがそのことには言及せず、



「まあいいわ。その巻物、押収したらしいけど、それ、どうするのかしら? 言っとくけど今のは見なかったことにするわ」


「どうしてニャ? すごく重要な情報が載っているニャ」



 カイの持つ巻物の価値をラミアは理解していた。

 神器について書かれている巻物、勢力の拡大につながると同時に他国にバレればキリアは危険な立場となってしまう。

 仮にラミアがその巻物の内容を覚えてしまえば、今度はラミアの身が危険にさらされることになる。 



「あくまでラミアとクロの持つ武器が神器であることを知って欲しかっただけだ。今まで確証があったわけじゃないしな。……さて、さっきはあまり話せなかったし、改めてラミアとクロの話でも聞かせてくれ」



 カイはヒョイッ、と皿にあった最後のお菓子を口に放り込む。



「アアァアアッ! それ最後にミャーが食べようと思ったのに……」


「というか、いつの間になくなってたのね。さっきからクロがあまり話に入ってこなかったのはそのせいね」



 ラミアの言葉に肩を跳ね上がらせながら、リスのように膨らませた口を隠そうとするクロ。



「そ、それより、久しぶりに来たからキリアを観光でもしようかニャ。カイ、どこか良い所ある?」


「良い所、良い所か…………。それなら城の中にあるあそこなんかどうだ?」



 久しぶりの会話に花を咲かせる3人であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

プリンセス&ナイト ~破壊剣士と追放王女~ 四宮マナ@異世界ファンタジー執筆中 @4038

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ