第14話 変わる故郷

 故郷・マリアートでの事を回想しながら、



(あのときからあまり変わってないわよね、団長さんは)


「……いや……カイは変わった……」



 カイに会って1年が経過しようとしていた。

 最初は必要以上に口を開かない人だと思っていたが、とある出来事できごとを通して少し明るくなった。



(ラミアとクロに会ってからよね。団長さんが変わったのって。それにカルバにいたエレインって少女と話してる時の顔はちょっと……ね。妹と話してるようなやさしさがヒシヒシと伝わってきたわ)


「…………」


(どう? 自分以外の女性に心を開いていく団長さんを見るのは?)


「……うるさい……」



 私は本気で怒ろうとするが、レヴィは気持ちよさそうに、



(団長さんが変わってから、ティアラの嫉妬しっと美味おいしく感じるわ)



 レヴィは『嫉妬』の感情が好物らしい。

 後付あとづ設定せっていのような、大して出てこない要素に私は怒りも失せてため息をついてしまう。



(あまり『嫉妬』って好きじゃなかったけど、こういう『嫉妬』は良いわね。見てて面白いからかしら)


「……性格……悪い……」



 そんなことを言いあいながら、私は一本道を歩いていた。

 そこから見える景色に安心感がこみあげてくる。



(村の形は変わりつつあるけど、以前より活気かっきがあって良いわね)



 私の視線の先には一面に畑が広がっていた。

 マリアートの気候はキリアと似ており、一年中温かい。

 優しく照り付ける陽光を反射し、麦畑は黄金色にかがやいていた。



(こののどかな雰囲気ふんいきはキリアにはないわよね)


「……なつかしい……」



 村に近づくにつれ、馬車の通行量が増えていく。

 村全体は敵の侵攻しんこうを防ぐさくで囲まれ、矢倉やぐらがいくつも立ち並びその上には見張りの衛兵が立っていた。



「ティアラではないですか!?」


「マジか!?」



 矢倉から顔を出した2人の衛兵が声をかけてきた。

 一人は丁寧ていねいな話し方で、もう一人は少々粗暴しょうしょうそぼうしゃべり方だった。

 私も縁付ふちつ帽子ぼうしを片手で上げながら、2人の顔を見た。



「……久しぶり……」


「いつもは手紙で連絡するのに今回はドッキリでもするつもりですか?」


「やめとけって。フェルダがショックで倒れちまうぜッ」


「……た、確かに……」



 そんな返答をすると、私達は一斉いっせいに吹き出した。

 こんな他愛たわいもない会話でも自然に笑えるようになった。

 これも村の皆のおかげだった。



「……ありがとう……」


「どうしたんですか?」


「……なんでもない……」


「なんだよ、気になるだろ?」



 急にずかしくなった私は2人に軽く挨拶あいさつをして、村の中に入るのだった。

 


        ※



 村の中は以前の静けさも残っていたが、昔にはなかった活気もあった。

 色んなところで馬車が走り抜け、そのための道も整備されてきた。



(ここまで村が発展するなんて思わなかったわ)



 ここ1年で村は発展した。

 その理由としてマリアートで育つ作物が他では見られない物が多く、それをキリアが買い取った。

 そのキリアが今度は他国に売ったことでマリアートの知名度ちめいども上がった。

 しかし、キリアが売りさばいた作物の値段は高かったらしく、他国は直接マリアートから買うことにしたのだ。



「……そろそろ……着く……」



 私はある家の前で足を止めた。

 村が火に包まれたとき、もとあった家も焼けてしまった。

 それから一回り大きい家が建ったのだ。

 私はとびらの前に立ち、数回ノックする。



「はあい」



 優しそうな返事とともにドアを開き、初老しょろうの女性が出てくる。

 私は帽子ぼうしふちつかみ上げながら、



「……ただいま……ミレーナ……」


「てぃ、ティアラ!? あ、アナタ、ティアラが帰ってきたわよ!!」



 部屋の奥のほうから大きな音が聞こえた。

 ミレーナが驚いて部屋の奥を見つめるので、私も部屋をのぞく。



「……フェルダ……驚きすぎ……」



 ベッドで横になっていたフェルダは驚きのあまり、ベッドから落ちてしまったのだ。



「……き、気絶してる……」



 フェルダの様子を確認した私はあせをかいてしまう。




「大丈夫よ。任せてちょうだい」



 ミレーナはフェルダを抱きかかえると、何度も平手打ひらてうちをほほにした。 

 すると、フェルダが目を開け、何事か、と言いながら周囲を見渡した。



「……ただいま……」


「あ、ああ、ああ。てぃ、ティアラか。おかえり。今回は手紙が送られてこなかったが……」


「……ちょっと……つかれたから……里帰さとがえり……」


「ま、まさかキリアでひどい目にあっているんじゃないか? あ、あの男、ティアラに変なことをしてるんじゃないだろうなッ!?」



 そう言いながら直立したフェルダだったが、急に顔を青くし、座り込んでしまった。



「またギックリごしですか……」


「……任せて……」



       ※



「……こんな……発展するなんて……」


「だろう! 私の交渉術こうしょうじゅつのおかげだ」


「何言ってるんですか……。キリアの王様が買ってくれたから、今、こうして貿易がさかんになったことを忘れているんじゃないですか?」


「わ、分かっておるわッ。だが、こうして貿易が続いているのも、私が頑張ったからだ!」



 食事の席でフェルダは自分の胸をこぶしで叩いて、自慢じまんしていた。

 キリアのおかげで有名になった後、他国との貿易交渉に応じたのはフェルダだった。

 としで畑仕事をできなくなり、かわりに交渉の仕事をやっていたのだ。

 ミレーナがたずねてくる。



「どう、そっちは? 楽しい?」


「……楽しい……」


つらくなったらいつでも戻ってこい。だ、だが、今度からは手紙を事前に送ってくれ」



 その言葉に私とミレーナは笑うのだった。 

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