第8話 出陣
エルフの協力を取り付けた直後、
それはサザンを囲むように広がる『
多くの兵を失ったという報告に、カイ達は『深緑の樹海』で各国の代表を集めて会議を開くことになった。
「偵察隊の報告によると『
カイの言葉から会議が始まった。
会議に参加しているのはエレインをはじめとするカルバの代表、キリアを含めたギフテルの代表、エルフの
エレインの表情がかたい。
「カルバから
ギフテル帝国の代表として参加していた青年・アズライールも同意を示す。
その青年はウェーブのかかった金色の髪が特徴的で、どこかこの世の人間とは思えない存在だった。
ギフテル帝国の王・メルクーリの
「ギフテルから派遣した偵察隊も半壊しましたが、有益な情報がなかったわけではありません。獣人の攻撃範囲、ここでは『テリトリー』と言いましょう。そのテリトリーが『
「それなら『
カイの提案にエレインが
「戦力を分散させるのは危険だと思われます。1ヶ所に集中したほうが危険度は……」
「私はカイ様の意見に賛成ですね」
エレインが意見を言い終える前にアズライールがカイに同意した。
エレインがアズライールを
カイは
「理由はある。今回の作戦におけるイレギュラーはラミアとクロが参加してることだ。敵も王女が参加しているとまでは考えていないはずだ。もし兵を集中させれば、敵に疑いを持たせる可能性がある」
「それはそうですけど……」
「エレインの心配は王女の身の安全なのは分かっている。だったら、兵を分散させたうえで、各国の精鋭達で王女を
「…………」
エレインを含め、その場にいた代表たちも
今回の作戦に置いて、1番さけなければいけないことは王女の死亡。
カイの提案からしばらくして、最初に声を上げたのはアズライールだった。
「カイ様の作戦はきっと上手くいくでしょう」
アズライールの言い方に引っかかるもののカイはエレインに視線を移す。
エレインもため息をつきながら、
「分かりました。カイ様の意見に
「王女の位置は極力キリア兵の近くに置くつもりだが、エレインはそれでいいか?」
この作戦で一番強いのは対集団相手に絶大な実力を発揮する『漆黒の魔女』ことティアラだ。
ティアラのいるキリア兵に王女を護衛してもらうのが最良の判断だ。
「もちろんです」
エレインは頷いたのだった。
※
作戦開始は2日後。
カイ達は『深緑の樹海』に
その日の夜、盛大な食事会が
エルフの
最後の
この世に
カイは離れた位置からパーティーを楽しんでいた。
「カイ、そんな離れたところでボッチメシしてないで、こっち来て―」
いつも明るい彼女だがテンションがおかしい。
目の
「ミーシャ、お前、
「酔ってましぇんッ!」
ミーシャの来た方向を見てみると。
「クハァッ、こんなうめえ酒を飲んだのは久々だ」
「エド様、久しぶりに飲み比べでもしましょう」
「望むところだ、セルエルッ! 今度こそ負けねえからな!」
エドとエルフの青年・セルエルが酒飲み勝負を開始していた。
エドは20年近く前にカルバの先王・ミルグレス、ダグラス=レレイ、ガリッタとともにエルフの村に来たことがあったらしい。
その当時からセルエルとエドが酒を飲みかわす仲だった。
カイは酒を一気飲みするエドに怒りの声を上げる。
「おい、エドッ! ミーシャに酒を飲ませたな!?」
「ミーシャに? んなことするわけねえだろッ!」
「ミーシャ様は酒を口にしてはおりませんよ」
べろべろに酔っているエドとは違い、
「え……? まさか、酒を飲んでないのに酔ったのか?」
「ああ、そうだ、そうだ。てか、今俺とセルエルは勝負してんだ。
カイはミーシャを背負ってその場を離れる。
カイは兵達のノリについていけなかった。
酒が飲めない人間にとって、この会食はいささか居心地が悪い。
「カイ、どうしたニャ? こんなところで、ってミーシャに何かあったニャ!?」
クロがカイに声をかける。
クロとラミア、エレイン、エルフの女性陣もまた酒を飲みながら、
ラミアとクロの周囲に集まり、外の世界、彼女達について
「あら、カイ。……まさかミーシャを酔わせて
「……兄さん」
ラミアに呼応するように、エレインが小声で
エルフの女性陣の冷めた視線を一身に集めるカイは咳ばらいをしながら。
「そんなわけないだろッ。酒の
カイはミーシャをその場で肩から降ろす。
「これ以上、怪しまれたくないし、ミーシャのこと頼んでも良いか?」
しかし、ここでカイの予想とは違う返答がエルフの女性陣から帰ってくる。
「カイ様に聞きたいことがあるので、ここでお話に付き合ってくださいませんか?」
「え、あ、ああ。大丈夫だけど……」
その
※
「は、ハア、ハア……」
カイは女性陣の質問攻めに息を切らしていた。
油断をしていたカイに女性陣から
「カイ様はラミア様とお付き合いをしているのですか?」
「はい?」
「実はですね。ラミア様のカイ様に向ける視線が……」
「ちょ、ちょっと何言ってるのッ!?」
ラミアが質問をしているエルフの口を防ぎにかかる。
エルフはラミアの
「カイ様、そこのところどうなんですか!?」
「い、いやー、どうなんだ?」
カイはラミアに視線を送る。
当のラミアの真っ白な肌は一瞬で
話を聞いていたエレインの目つきが
「カイはミャーの恋人ニャッ!!」
後ろから抱き着いてくるクロにカイは目を白黒させる。
「は、はい?」
「だーかーらー、カイはミャーの恋人。誰にも渡さないニャ!」
すると
「ど、どういうことよッ!? どうしてクロとカイが付き合ってるなんて話になるのよ!」
「……に、兄さん、さすがにそれは……アウトだと思います」
エレインは怒っているというよりも引いていた。
クロは
つまりカイは幼女好きというレッテルを
「おい、クロ。
「冗談じゃないニャ! この前なんて一緒のベッドに寝たんだから」
「そんなイベントに覚えがないん……」
言い終える前にラミアがカイの
「あ、アンタッ! やって良い事と、悪い事の区別すらつかないなんて見損なったわ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいな、ラミア、ラミアさんッ! ゆ、揺らすのは
匂いを発しているのはクロのようだ。
カイは視線をずらしていくと、クロの片手に木製のカップが握りしめられている。
カップを取り上げたカイは中身を確認する。
「…………」
答えを知ったカイは音をたてずに立ち上がり、ボディービル大会を
「オイ、クロに酒飲ませたのは誰だアアアアアアァァァッッッ!?」
※
2日後の早朝。
準備を整えたカルバ・キリア・ギフテル兵達は目的地であるサザンに向けて進行することになる。
「ゥォエエェッ、マジで気持ちワリい。ちょっと休めねえか、団長?」
「自業自得だ。まさか昨日もこっそり飲んでるとは思わなかったが、『
「馬に揺られて休めねえ……」
カイの隣を走る馬に乗っているエドが弱々しい声を上げる。
青白い顔をしているエドに危険を感じたカイはすぐにその場を離れる。
丁度そのタイミングでエドがリバースする音が聞こえたが、カイはかまわず先に進むのだった。
「……もらいゲロするところだった」
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