第7話 エルフ

 カルバにてラミア達の同行の許可が下りた後、カイ達はカルバの北に位置する『深緑の樹海』に来ていた。

 そこにはエルフ達の集落があり、以前、カルバの王妃・ラミアフルが残したとされる『風神の弓』を受け取りに行った。

 だが、以前と違ってエルフ達が襲ってくることはなかった。



「久しぶりですのー。ラミア様。お元気そうで何よりです」



 カイ達を迎えてくれた老人(?)は顔こそエルフの若者のような顔つきで立派な金髪が輝いているが、背を若干丸め、杖を突いて歩いている。



「え、ええ、おかげさまで……」



 ラミアはカイの背に隠れるように立って、



「な、なんか、奇怪きかいな目で見られてるような感じで落ち着かないわ」


「仕方ないと言えば仕方ないけどな」



 エルフの方々はラミアの母であるラミアフルを神聖視しんせいししており、ラミアのことも気に入っている。

 しかも、ラミアのスタイルも母と酷似こくじしており、その15の少女とは思えない発育のいい体をエルフの男性陣はそういう目で見ていることもあるらしい。

 


(ラミアはそこらへんうといし、気付かないのも仕方がないが……)


「なに考えているのかしら?」


「いや、ラミアもまだ子供なんだなって……」


「聞き捨てならないわね。こう見えて色々と日々成長してるのよ。頭の良さだってアナタより上よ。それに身長だって」


「頭の良さで大人アピールって……。やっぱり子供だな。身長も俺のほうが」



 ふとカイはエルフの女性陣の容姿を思い出す。

 高身長な者はキリア1の巨体・エドに迫る。

 もしかしたら近い将来、言葉通り上から物を言われることもあるかもしれない。

 そんなことを考えながら、カイは身長を伸ばす方法を真剣に考え始めるのだった。



        ※



「それで今回のご用件は何ですかのー?」



 カイ達は湖のほとりの芝生の上にこしを掛けていた。

 ラミアが話を切り出す。

 ラミアが一通り今置かれている状況について話し終える。

 長老は寝ているのではないかと疑いたくなるほど、両目を閉じながらコクコク首を動かしている。



「こちらからは以上よ。それで協力をあおぎたくてうかがったの」


「そうかそうか。おおかた、エルフなみの戦闘能力がないと獣人たちには対抗できないと……。それであっているかのー?」


「ええ」



 長老はいつになく真剣な表情でラミアを見つめる。

 その両目を見つめ返すラミアに長老はたずねた。



「それで? ワシらに何かメリットがあるのか?」


「!?」


「さすがに無償むしょうで協力できるわけがない。獣人との戦闘はエルフといえど無傷ではすまないじゃろー。せめて見返りが欲しいの―」



 カイは思わず口を開いてしまう。



「今のカルバは回復途上だ。そこから見返りは求められるわけが……」


「カイ殿、今、ワシはラミア様と話しているのだ」



 たった一言だったがカイは長老のあつに押し黙ってしまう。

 ラミアがカイに視線だけ送ると小声で、



「……大丈夫よ」



 ラミアは長老を見ながらはっきりと。



「キリアの王が言った通り、今カルバの経済は不安定。物による見返りはできないわ」



 長老は眉をピクリと動かす。



「物では……?」


「はい。ですが、将来的に見れば圧倒的な見返りがあります。それは……」



 そこでラミアは一呼吸ついてから。



「この村の安泰あんたいよ」


「?」


 

 ラミアの言葉にエルフの長老は首をかしげる。

 ラミアは説明を付け加えていく。



「今、サザンの民は何者かの手によってあやつられている状況よ。まだ、サザン国内に収まっているようだけど、近い未来、カルバに侵攻しんこうしてくる可能性があるわ。そして、『深緑の樹海』はカルバとサザンの丁度、中間地点にあるわ」



 それが意味すること。

 ここまで説明してくれれば誰だって気付く。

 


「当然、サザンの民はこの森にも手を出す。おそらくそのときには獣人のみならず強力な化け物もこの村をおそうかもしれない。力をつけてない今だからこそ、私達に協力してくれればそれを防ぐことができるわ」



 見返りというよりは脅迫きょうはくに近い形だが、それでも長老をうなずかせるに足るものだった。



「確かにそんなことになったら困るの―。ここまで住み心地の良い森はそうそう見つけられないからのー。おぬしはどう思う?」



 長老の後方に控えているエルフの男はその質問に対してうすく笑う。



「私に聞かないでください。もう答えは出ているのですから」


「それもそうだのー。分かったのじゃ。ワシ達エルフもラミア様に協力させていただきますかのー」



 長老の言葉にラミアは胸をなでおろすのであった。



        ※



 それから日も落ちてきたので、この前の小屋でラミア達は1泊することになった。

 当然、カイは1人寂さびしく外のハンモックにぶら下がりながらミネルバが持ってきた食事を口に運ぶ。

 以前はラミアが運んでくれたが、なんでも嫌な予感がするからと料理を運ぶことを拒否きょひしたようだ。



「ハンモック事件で相当嫌われたようだな……」


「そんなことないと思いますよ。何があったかはぞんげませんが、ラミア様のあの雰囲気ふんいきはどちらかというと……、いえやめましょう」



 意味深なことを言い残してミネルバは小屋に戻っていく。

 カイは持ってきてくれた食事に視線を落とす。



「肉の丸焼きに生野菜詰め合わせセット……。ラミアが言ってたことは誇張こちょうでもなんでもなかったんだな」



 ミネルバの作った物を苦笑いしながら食べきる。

 そのタイミングで森の奥から長老と、常に彼の後ろに立っているエルフの青年が歩いてくる。



「これはカイ殿。居心地はどうですかのー?」


「分かって尋ねるのは少々意地が悪いですよ、長老」



 エルフの青年の発言にそれ以上口を開かなくなった長老。

 カイは彼らに尋ねてみた。



「ラミアの説得というか、脅迫に納得した理由を聞いてもいいか? 見返りは特に何も提示してなかったが」


「そうかのー? ワシには十分な見返りがあった。以前お会いしたラミア様はどこか守られてるような雰囲気があった。じゃが、今は自分で物事を考えるようになってきておる。それに村の安寧。この2つは立派な見返りじゃ」



 長老は隣に立っている青年に視線を送る。

 無表情だった青年も笑みを浮かべる。



「そうですね。立派な見返りです。ですが、それ以上に妹の願いも叶えられたようで私は満足です」


「妹……?」



 青年はカイのほうに向き直りいたずらっ子のように笑みをつくる。



「申し遅れました。私はラミアフルの兄・セルエルといいます。つまり、ラミア様は私のめいに当たります」


「そ、そうだったのか……。それで妹の願いって……?」



 セルエルはふところから手紙を取り出す。

 何度も見返されたのか紙はよれよれだった。

 カイは中に目を通す。

 書かれた字にはカイも見覚えがあった。



「ラミアフル=フォン=カルバが書いたものか?」


「ええ。妹はラミア様のワガママな性格をなおしてほしいって書いてきたんですよ。まあ、妹の最期の願いなので叶えてあげようと思ったのですが、キリアで成長したようで杞憂きゆうだったようです」



 セルエルはどこか寂しそうに、だが嬉しそうにカイに言った。

 そこにミネルバが姿を見せる。

 おそらくカイの食べ終わった食器を戻しに来たのだろう。

 ミネルバはセルエルに気付くと、



「兄様、どうしたのですか?」


「は?」



 カイは頓狂とんきょうな声を上げる。

 セルエルはカイの反応を面白そうに見ながら。



「ミネルバは私の妹であり、ラミアフルの姉に当たります」



 ミネルバはよくラミアの母のことを『ラミアフル様』というのを聞いていたので カイの頭には『?』が浮かぶ。

 ミネルバもカイの反応を見てクスクスと笑う。



「伝え忘れていました。私はラミアフル=フォン=カルバの姉・ミネルバと申します。ラミア様は私の姪に当たります」



 兄妹そろって似たような挨拶あいさつにカイは状況を飲み込めないのであった。

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