第3話 難民の少女

 カルバりょう

 寒さが厳しくなり、一面に広がっていたであろう麦畑には何も植えられておらず人ひとりいない。

 そこを通り過ぎる1台の馬車がとある村に着いた。

 大男、エドが馬車から降りる。

 そこでは多くの人達が荷車にぐるまに荷物を運びいれていた。



「何をしているんだ、アンタらは?」



 エドは荷物を運んでいた人に話しかけた。

 すると村人は生気のない声で。



「ああ、アンタは旅人さんかい? 最近少し離れた村で盗賊が暴れているという情報がはいりましてね」



 エドは表情をくもらせる。



(盗賊、オレらが村を襲ったアレか……)



 エドは首を振って、再び村人に質問する。



「そうか。いそがしいところ悪いんだが、聞きたいことがあるんだ」


「べつに構いませんが、なにぶん急いでいるので長話はできませんよ」


「この村にミーシャという女の子はいないか?」



 村人の目が一瞬するどくなった。



「あの子とどういう関係だ?」


「オレは彼女の父、ダグラス=レレイの知り合いの騎士だ」


「そうだったのかい。だけど……」



 ダグラス=レレイという名を聞いて村人は話すか迷っていた。

 名前を知っているだけの人攫ひとさらいかもしれない。

 きっと、そんな事を考えているのだろう。



「まあ、これで目をつむってくれ」



 エドは手元にあった物をその村人に渡した。

 人の手の大きさほどある虹色にかがやく石。

 しかし、その色はくすんだようにエドの目には映った。

 やましいことに使おうとしているからか。



「これは魔晶石ましょうせきですか?」



 魔晶石は、長期間、魔力にさらされた石が魔力をとりこむことでできる物質。

 かなり希少きしょうなため、お金にすれば大金がはいってくる。



「ああ、純度が高いから相場そうばの何倍もの値が付く」



 村人は周囲を見渡しながら、その魔晶石を隠すようにしまう。

 そして、エドの質問に答えた。



「ミーシャはこの山道を行ったところにある、家に住んでおります」



         ※



 エドは村人の言われたとおり山道を歩いていく。

 村人も生きていくのに必死だ。

 村の子を一人、こんな高値で売れるなら売ってもおかしくない。

 お金も手に入るし無駄むだな重荷もいなくなる。



「やっぱり争いごととなれば、自分の身が一番か」



 エドはそんなことをつぶやきながら、ある家の近くで足をとめた。

 そこには花がえられた立派なはかがあった。

 そして墓石にはエドの親友だった男の名前がられていた。



「オマエほどの男にもなるとこんな豪華ごうかな墓が建てられるんだな。さぞかし寝心地ねごこちも良いんだろうよ」



 墓の近くに建てられていた家の前には一人の少女が、自身の大きさほどのリュックを背負っていた。

 村人同様、村を出ていく準備をしていたのだ。

 少女は大男のことに気付くと。



「……エドのオジサン?」


「そうだ。君の、ミーシャのお父さん、ダグラスのお友達だ。覚えていてくれたか。ダグラスに頼まれて君のおむかえにきた」


「……オジサンはお父さんが死んだ理由、知ってる?」


「ああ、よく


「……」



 ミーシャはしばらく無言だったが、父の死因について聞きたいことぐらいはエドでも理解できた。

 しかし、少女は別の質問をエドにたずねた。



「わ、わたしはこれからどうなるの?」


「おじょうちゃんに頼みたいことがある」



 エドは今2本の剣を持っている。

 片方は自身の大剣。

 レオンとの戦いで折れ新調しんちょうした物で傷一つない。

 もう片方はいつも使っている大剣より一回り小さい。

 普通の剣と違うのは、その刀身が金色こんじき光沢こうたくを放っている。

 その金色の剣をミーシャの前に置いた。

 地面に置かれた剣を見たミーシャは驚きの声を上げる。



「……どうしてエドのオジサンが、お父さんの剣を持っているの?」



 エドは地面にひざをつき、顔を地面に向ける。



「ミーシャ、その剣でオレを殺してくれ……」



 エドの言ったことを理解できず、ミーシャはしばらくだまっていたのだった。

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