第8話 兄妹の再会

 カイとエレインの話し合いは進み、カイは疑問を口にする。



「そうだ、サイラスは今どうなっている?」


「サイラスは今や、カルバ王族をあやめた反逆の国としてカルバ国民のなかで広まっており、このまま友好国として体裁ていさいを保てるかどうか不安な状況です。それがどうしたのですか?」


 

 サイラスは、エレインの言う通り王族殺しの国としてあやうい状況にあった。

 しかし、サイラス国民の全てが今回の事件を知っているわけがないことぐらいエレインには分かっており、彼女の口調には不安がにじみ出ていた。



「できればサイラスをカルバの支配下に入れてほしい」


「なぜ、それをカイ様が気にするのですか?」


「国のトップがいなくなったら、どうなるかくらい分かっているだろう? どっかが監視かんししてくれないと何をやらかすか分かったもんじゃない」



 サイラスのトップたちは、ミゲルが口封じのために全員殺してしまった。



(国民をまとめる人間が死んだら、再度悪い奴らに乗っ取られる可能性もある。今回もカルバは王族を殺されて、そこにサイラスが介入してきた。サイラスでも同じ事が起こるかもしれない……)



 カイが考えていることくらい、エレインはよく理解していた。

 エレインはため息をつく。



「ハァ……、わかりました。一応これで話し合いは終わりということでよろしいですね? ずっと相手の口車に乗っていた感じしかしません……」



 カイは背もたれに全体重をあずける。

 目の前に出されていた紅茶を飲むがすでに冷めていた。

 すると、部屋に1人のメイドが入ってきた。



「王女様のお着替えが終わりました、エレイン様」


「わかりました。馬車を数台用意してもらえましたか?」


「はい、ですがもう少しだけかかりそうです」


「かまいません」



 そのメイドはカイたちに向かって会釈えしゃくをすると部屋を後にしたした。

 エレインは紙に今までのことを書き終えると、カイに向き直る。

 エレインの表情は柔和にゅうわな物に変わっていた。



「では、改めて。無事でよかったです、


「……へ? い、いや、ここで言うのはまずいんじゃ……」



 カイはあわててしまう。

 エレインの後ろにはメイド達が10人近くいる。

 それなのに、カイがであることをバラしてしまうのはまずい。

 カイの反応に、エレインとメイド達はクスクスと笑い出す。



「兄さん、後ろにいるメイド達に見覚えはありませんか?」


「見覚えって言われても……、ん? 付き人で強い?」



 このフレーズをどこかでカイは聞いたことがあった。

 厳密げんみつにはレオンだったころに。

 


「も、もしかして、あの花畑にいた……?」



 そう、エレインの後ろにひかえていたメイド達は、2年前にラミアやクロと会ったときに彼女たちを護衛していたのだ。

 すると、メイドの中の1人の女性が頭を下げる。



「お久しぶりです、レオン様。ワタクシはミネルバと申します。ここにいるメイド達のトップみたいなものです。こんな形で再び顔を合わせることになるとは思いもよりませんでした」


「こ、こちらこそ……」



 カイの口調に、ミネルバは笑みをこぼす。

 2年前みかけた女性なのに、カイの記憶とは一切変わらない姿だった。

 どこか浮世離うきよばなれした美しさで、ひとみは空のようなみきった青色だった。

 ミネルバは優しい口調で感謝を伝えてきた。



「このたびは、ラミア様、クロ様を保護していただき誠に感謝してもしきれません」


「こ、こちらこそ……」



 同じ言葉をくりかえすカイだったが、そのくらい衝撃的しょうげきてきで頭がフリーズしていた。

 エレインの話だと、ミネルバ達は敵国を調査していく過程かていで、偶然ぐうぜんカイがレオンのなりすましであることを知ったらしい。

 エレインはカイの様子を見て、冷たい視線を向ける。

 ひとみにもかがやきがない。



「兄さん、聞いていましたか? もしかしてミネルバさんに見惚みとれていましたか……?」


「……」



 図星だった。

 カイはミネルバの胸を凝視ぎょうししていた。

 その豊かな双丘そうきゅうにカイの目は離れなかった。



(もしかしたら、ラミアよりも大きいかも……)



 カイは王としての威厳いげんより、男のさがが表に出てきてしまった。

 エレインの言葉すら耳に届いていなかったカイのほほを、エレインが力いっぱいつねった。



「痛ッ!?」


「兄さん、ふざけるのもいいかげんにしてください……」



 さっきとは打って変わった微笑ほほえましい兄妹のやり取りを、ミネルバ達は止めずにながめるのだった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る