第3話 ミーシャの憂鬱

 カイが目覚めてから、2週間が過ぎようとしていた。

 カイが城の中を歩いていると、兵たちが訓練で使う広間が目にとまる。

 1人の少女が木剣を振っていた。

 栗色くりいろの髪に、髪と同じ色合いの瞳。

 いつもは明るい笑みを絶やさないミーシャの顔から焦燥しょうそうのようなものをカイは感じとっていた。



「ミーシャ、おはよう」


「…………」



 カイは広間に出てミーシャに声をかけたが返事が返ってこない。声量を上げ彼女に呼びかける。



「おーい、ミーシャ」


「お、おはよう、カイ……」



 ぎこちない挨拶あいさつをするミーシャ。

 ミーシャはカイに視線を合わせようとしない。



「ミーシャ、俺のことけてるような気がするが、気のせいか?」


「……」



 ミーシャの無言を肯定こうていと受け取ったカイ。



「理由があるなら話してくれないか?」



 ミーシャは躊躇ためらいながらもゆっくりと口を開く。



「この前の、戦いでエレインって女の子と戦ったの……。ほら、カルバに行ったとき戦った黒髪の女の子。戦争が終わってからエドとマグナスに聞いたんだけど、あの子、カイの妹なんでしょ?」


「ああ、もしかしても聞いたか?」


「うん。本当の王じゃないってことも。わたし、あの女の子を本気で倒そうとしたんだ。だ、だから」



 ミーシャは何も知らずに、カイの唯一の肉親に手をかけようとした。

 そのことがミーシャの中ではずっと引っかかっていたのだ。



「そんなこと気にしていたのか。あの戦いでエレインとミーシャはどちらかが死んでいたかもしれない。だが」


「だ、だが?」


「戦争なんだから表現は悪いけど殺しあうのが普通なんだ。ミーシャだって殺されそうだったんだから」


「でも、わたしがエレインを殺したら……」


「確かにそうなったらミーシャをうらむかもしれない。だが、ミーシャも俺にとっては大事な家族なんだ。死んでほしくない。だからエレイン相手でも本気で戦ってほしい」



 だまっているミーシャを見ながらカイは話を続ける。



「まあ、今回はどちらも死ななかったから言えることだが。お前が悩む必要はない」


「……ありがとう」



 ミーシャは笑顔をカイに向けながら、感謝を伝えるのだった。

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