第2話 王としての新たな一歩

 カイが目覚めてから1週間がすぎた。

 その日は戦死者たちの葬式そうしきが開かれた。

 戦死者の家族たちは、涙を流し、幼い子供たちは大声をあげて泣いていた。



「…………」



 自分の不甲斐ふがいなさに腹を立てるカイ。

 戦死者の多くはガレスの爆裂魔法にやられて死んだ。



(俺がもっと的確な指示を出せていれば……)



 そのことがずっと考え、葬儀そうぎが終わった後もカイはその場に立っていた。

 戦争の過酷かこくさをカイは痛感つうかんしていた。



「……つらいな」



 自分の思うように事態じたいは進行してくれない。

 誰もいないと思ってつぶやいたが後ろから声がかかった。



「探しましたよ、カイ様」


「マグナス、動いて大丈夫なのか?」



 戦争でカイをかばって左腕を失ったマグナス。

 一命をとりとめ、今は治療ちりょうしながらリハビリを行っている。

 マグナスは自身の左肩をさわり、不安を感じさせない声で言った。



「このくらい、どうということありません。それで本題なのですが……」


         

          ※



 カイとマグナスは、兵が訓練で使う広間に来ていた。

 なぜか一本勝負を持ち掛けられたカイはそれを承諾しょうだくした。

 マグナスはカリスマ性はあるが武の実力はほとんどない。

 マグナスは右手で木剣をかまえるが動こうとしない。



「私は本調子ではないので、カイ様から攻撃してください」



 カイはマグナスに迫っていく。

 本気の斬りこみをしようとするが、マグナスはあっさりと防いだ。



(……手加減しすぎたか?)



 と感じたカイは力を入れなおす。

 何度も攻撃を打ち込んでいくが、マグナスは一歩も動くことなく防ぎきった。



「カイ様、攻撃に身が入っておりませんよ」



 マグナスは、上段から剣をふりおろす。

 その単調な攻撃をかわせなかったカイは剣で受け止めるも、力で押し負け身体がふきとばされた。

 すると、全く動かなかったマグナスが急に動き出す。

 マグナスの剣がカイの右手にあたり握っていた剣をとばされてしまう。



「マグナス、まいった……ッ!?」



 降参こうさんしようとしたカイの腹にマグナスは容赦ようしゃなく木剣を打ち込む。

 不意な一撃にカイは顔をゆがませ、広間を囲むように作られた壁に背中からうちつけられ、驚いている彼の胸倉むなぐら乱暴らんぼうにマグナスはつかんだ。



「カイ様が下を向きなさって、どうするのですか!?」



 突然の叱責に目を白黒させるカイ。

 挑まれた理由を察したカイ。

 彼は胸倉をつかんでいたマグナスの右腕を左手でつかみ力をいれる。マグナスの剣幕けんまくに押されかけたが、ずっとため込んでいた感情をさらけだしてカイは反発した。



「仕方ないだろッ! 俺だって、この国の奴らのために頑張がんばってきたつもりだッ。だけど! 戦争で、俺の判断ミスで何人も死んだ!」



 キリアで王という地位についていたカイは常に気を張り詰め強気な態度たいどをとることが多かったが、ここにきて初めて少年らしい口調で弱音を吐いた。

 だが、マグナスはさらに残酷な真実を告げてきた。



「そうです、戦争では多くが死にます! 一人も死なない戦争なんて無いんです! 自分1人で兵の命を救えるなんて、そんな傲慢なこと考えないでください!」



 カイは何も言い返すことができず、マグナスの右腕を掴んでいた左手から力を抜き、ただ弱々しい声で。



「傲慢……か? なら、どうすればよかったんだ……?」



 マグナスは、カイの胸倉から手を放すと。



「カイ様は、全員を救おうとせず誰よりも前を向いて歩いてください。下を向けば他の方々も士気しきがさがります」



 カイは自分の足で立ち、いつの間にか流れていた涙を右袖みぎそでで拭き取る。



「……そんなことでいいのか?」


「はい、全員救いたいという気持ちは立派ですが、それで下を向いては死んでしまった方々に申し訳ないです」



 マグナスの言葉には説得力があった。



「そう……だな。ありがとう」



 マグナスは、き物が落ちたようなカイの顔を見ると右膝みぎひざを地につき満足そうに言った。



「ありがたきお言葉です。それと先程の無礼ぶれい、申し訳ありませんでした」



          ※



 マグナスとはそこで別れたがカイの気分はスッキリしていた。



(まだ、完全に吹っ切れたわけじゃないが、ここで立ち止まっていたって何も進展しない)



 カイは新たな覚悟かくごを胸に一歩を踏み出すのだった。

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